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2017年05月21日10:29

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『レダとダナエ』

 双子誕作品でサガとカノンが仲良くしっぽりしている話(『湯煙の中で』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8189432)を書いたら、がっつりいちゃいちゃしている話も書きたくなったので、久しぶりにアケローオス兄ちゃんに再登場を願って、彼と双子の3Pものを書きました。
 オリキャラ×双子があるので、オリジナルキャラの嫌いな方はご注意を。
 聖戦後復活設定。サガは教皇アイオロスの首席補佐官、カノンは海将軍筆頭・海龍を兼任して海界在住。ロスサガでラダカノ前提だけど、アケローオス×サガでアケローオス×カノンでカノサガでサガカノで女体化で、サガが女体化したカノンのお尻でとうとう脱童貞するという、相変わらずのカオスな内容です。
 タイトルの由来は、作中でアケローオスが女体化したカノンをレダに、女体化したサガをダナエに例えるところから。(レダは双子座になったカストールとポリュデウケスやトロイア戦争の原因となった美女ヘレネの母、ダナエは英雄ペルセウスの母で、どちらも大神ゼウスに愛されたギリシャ神話の美女。「レダと白鳥」も「ダナエと黄金の雨」も、どっちもエロいモチーフだと思います)
 アケローオス河神については『ハルモニアの首飾り』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3513947『ドナウの白波 黄金の酒』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4939909『セクアナの泉』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4970379を参照。
 アケローオス河神と双子たちの話はこちら。『例えばこんな愛の形』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942998622&owner_id=4632969『執着と愛の境界線』http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=4632969&id=1944928878『常識についての一考察』http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=4632969&id=1946155592『時には愛の言葉を』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5848132『いい双子の日』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6082772『双子の日』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960490822&owner_id=4632969『寝室のドレスコード』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950098945&owner_id=4632969『春蘭と秋菊の競艶』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950727023&owner_id=4632969『ラディッシュ』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1956371836&owner_id=4632969
 双子のオリジナル少年時代設定については『雪解け』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3484101を参照。

『レダとダナエ』

 それはサガとカノンが久しぶりにアケローオス河神を誘って逢瀬を楽しもうとした夜のこと。
 双子の兄と連れ立って、いつもこのような場合に待ち合わせに利用しているホテルのバーに入った時、目に入った光景にカノンは片眉を吊り上げた。
「…あの野郎…」
 憎々し気にカノンが呟いた視線の先では、ジャケットとパンツ姿という現代的な服装でカウンター席に座ったアケローオス河神が、隣に座るブロンドの美女ににこやかな笑顔で話しかけていた。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んだ、ふるいつきたくなるような豊麗な肢体をした、見事な美女だった。華やかな目鼻立ちも、男が十人いれば十人とも見惚れるようなあでやかさだ。
「誰だよ、あの女!?見たことねーぞ!」
 だがカノンは金髪美女に見惚れることはなく、逆に怒りをあらわにした。
「…『娘』でないことは確かだ」
 ぼそっとサガが呟く。
 河神には「娘」ということになっている「河の妖精」ナイアデスがたくさんいるが、少なくとも今アケローオスの隣にいる女性にはニンフの気配はなく、普通の人間の女性のようだった。
「これからおれたちと…って時にナンパかよ!あいつの下半身には頭とは別の脳みそでもついてんのか!?」
「上半身とは別に自律的に動く下半身とか…嫌すぎる…」
 アケローオスの上半身と下半身が別々に分離してそれぞれ異なる女性を追いかけている様を想像したサガは、不気味とも滑稽とも表現し難いモンスターのようなその想像図に表情の選択に困った。
「いっそ、あいつを腰の部分で真っ二つにぶった切って、おれとお前で半分ずつ分けるか?神だから半分にされてもあいつは死なねーし、そんな姿になったらもう他の女に色目を使ったりできないだろ?おれは下半身をもらうから、サガ、お前は上半身な」
「…そこで迷うことなく下半身を欲しがるお前の頭の中も、たいがいに俗物的だな…」
 カノンが何を求めて下半身を欲しがっているかが露骨に分かるだけに、呆れたようにその発想を評した兄に、弟が反論した。
「じゃあ、お前はあいつの下半身はいらないのかよ?」
「……」
 上半身だけになったアケローオスを胸像のように自分の身近に置いておけば、きっと毎日優しくて甘い言葉をサガにささやいてくれるのだろうが、「…でも下半身がないと物足りないなぁ」と思うあたり、サガも所詮はカノンと血の繋がった兄弟であった。
 やがて「きっ!」と怒りを顔にみなぎらせたカノンが靴音も高らかにバーの床を蹴って店内に入った。かっかっかっ、と小気味良く鳴り響くかかとの音にアケローオスが降り向く。
「ああ、サガ、カノン、来たのか」
 悪びれるでもなく、河神は二人をなごやかな視線で出迎えた。
「友達?」
 隣の美女がアケローオスに尋ねる。モデルのような長身の美青年、それもそっくりの双子の出現に、彼女の瞳は嬉しそうに輝いた。これだけの美男子たちに囲まれてお近づきになれる機会など、そうはない。
「弟だ」
 と、アケローオスが彼女に答えるのと
「彼氏だよ」
 と、カノンが答えて河神の首筋に背後から抱き着くのは、同時だった。
「こいつは今夜はおれたちと約束があるんだ。人の男に手を出さないでくれる、おねーさん?」
 敵意に満ちた視線を金髪の美女に向けたカノンは、アケローオスの顔を無理矢理に自分に向けさせると、ぶちゅうっと彼女の目の前で河神にディープキスをした。
「…そういう趣味だったのね。失礼!」
「あ、ちょっと…」
 目の前で男同士に濡れ場を見せつけられたブロンド美人は、酒のグラスをカウンターに叩きつけるように置くと勢いよく席を立ち、アケローオスが止める間もなく店を出て行ってしまった。
「あ〜…」
 ホテルのロビーを遠ざかっていく美女の背中を名残惜しそうにアケローオスが目線で追う。
「いい感じだったのに…。邪魔をするなよ、カノン」
「あの女を口説き落としてどうするつもりだったんだよ!?おれたちを放り出して、あの女としけこむ気か!?」
「え〜…でも今夜は無理でも、明日の約束が取り付けられるかもしれないだろ」
「…あんたって本当、信じられねぇ…」
 憎々しげにアケローオスをにらんだカノンに、河神は胸を張って答えた。
「美女を褒めたたえるのは男の義務だ」
「あの程度の女が何だ!女がいいなら、おれが女になっていくらでも楽しませてやる!」
 売り言葉に買い言葉を返した瞬間、カノンは「しまった」という顔になり、アケローオスは目をぱちくりと開いた後、にやっと笑った。
「ほう、女になっておれを楽しませてくれるのか、カノン。確かにお前が女になった時の美しさは、さっきの女も『あの程度』にしてしまうほどだが…」
 アケローオスの手がカノンの腰のラインを意味ありげに撫でると、カノンの背筋がざわりと逆立った。
「ちょ…ちょっとだけなら女になってやってもいいかなって思わないでもないことはないって気になったような気がしないでもなかったような感じが…」
「どっちだよ」
 わたわたとうろたえているカノンに、アケローオスは吹き出した。
「…ああ、もう!くそっ!」
 自分の髪をかき回したカノンは、居直るように先程まで金髪美女が座っていたアケローオスの隣のカウンター席にどんと腰を下ろした。乱暴な口調でバーボンをストレートで注文し、グラスが置かれるとやけのように一気に酒をあおった。
「なるよ!なってやればいいんだろ!でもちょっとだけだからな!」
 アルコールの勢いを借りてカノンは吐き捨て、さらに二杯目を頼むとそれもストレートであおった。
「なんだ。いよいよお前がおれの妻になってくれる気になったかと期待したのに」
「ならねーよ!」
「じゃあ、子供を産んでくれ」
「やだ!」
 カノンは二杯目のバーボンを飲み干すと、口を滑らした自分のうかつさにぶすっとふてくされて沈黙した。
「アケローオス様…」
 弟とアケローオスのやり取りが一段落したところで、サガも河神に声を掛けた。挨拶のキスを軽く互いの頬にした後で、サガは自分の唇を指でなぞってみせた。
「アケローオス様、私にもキスして…」
「サガ?」
「先程カノンとしたでしょう?私にも、同じように…」
「…ああ」
 アケローオスはサガを引き寄せ、カノンとしたような深い口付けを彼に与えた。
 サガがカノンとは反対側のアケローオスの隣に腰を下ろすと、カノンは三杯目のバーボンを頼んでから、苛立たしそうに話し始めた。
「あんたって本当、むかつく!おれたちと付き合ってるくせに他の女にわき見して…そんなに女のほうがいいのかよ!」
「ああ」
「あっさり答えるな!つくづくむかつく奴だな!」
 河神に怒鳴り返した後、三杯目のバーボンを今度はちびちびと飲みながら、カノンはぶつくさと呟いた。
「だいたい、おれが以前につき合った奴らなんか、皆おれの気を惹くことに必死だったんだぞ。おれを巡って奪い合いになることもあったのに…なんであんたはそこで浮気してんだよ!ホント、信じられねー…」
「ほう。大した武勇伝だな」
「茶化してんじゃねーよ!いいか、おれとサガみたいなとびきりの美人が二人がかりでお前の相手をして、楽しませてやってるんだぞ!普通ならこの幸運に感謝するところだろ!失いたくないと、おれたちの機嫌を一生懸命に取り結ぶところだろ!よそ見しようとか思わねーだろ!なのになんで…」
 それからカノンは、いささか真剣な顔でやるせなさそうに酒気を帯びた息を吐いた。
「なんであんたは、おれだけのものになってくれないんだろ…」
 むくれたカノンはカウンターに突っ伏して、上目遣いで河神を見上げた。
「あんたがおれに夢中になってるところ…見たいのになぁ…。おれの何が不満なんだよ…。馬鹿河神…薄情者…節操無し…」
「カノン」
 苦笑したアケローオスはカノンの銀髪を撫で回した。
「では聞くが、カノン、お前はおれだけのものになってくれるのか?」
「……」
「アテナも冥府の判官殿も全部捨てろ、おれだけを見ていろと言ったら、お前はそうしてくれるのか?」
「…うん、それ、無理」
「ほら見ろ」
 河神は笑ってカノンの頭を指ではじいた。
「おれを垂らし込みたいなら、もっと捨て身になるんだな」
「……」
 アケローオスの指摘にむっつりとカノンは黙り込んだ。それが不可能事だと、アケローオスもカノンも分かっている。カノンにとってアケローオスは「一番」でも「全て」でもないのに、アケローオスには自分をその位置に置けと言う己の要求が無理筋であることは、カノンも内心では理解していた。カノンがアケローオスに向ける想いも、子供のころのトラウマに起因する執着心であって恋愛感情のたぐいではないことも、この河神には見透かされてしまっている。
「でもあなたもずるいですよ、アケローオス様」
 弟と河神の会話を黙って聞いていたサガが、カノンの反対側からアケローオスに声を掛けた。
「どこがだ、サガ?」
「だって、何をしても私とカノンがあなたから離れられないと思ってる」
 そう言うとサガは手を伸ばしてアケローオスの鼻を軽くつねった。
「あなたのそういう余裕ぶったところ…カノンほどではないけれど、私もむかつくなぁ…」
 一緒にいた双子の弟が感情をあらわにして怒ってくれたので自分は控えめにしていたが、アケローオスが見知らぬ女性とともにいる光景に不快さを覚えたのは、サガも同じだった。
「いや、そんなことはないぞ。おれだってお前たちに無視されるようになったら、それはそれで寂しい。だがお前たちが少し『兄離れ』して、ただの『兄』と『弟』になるなら、おれはそれでもいいと思っているだけだ」
「ほら、そんな風に突き放す。…逃げれば私たちが追いかけると分かってる。本当にずるいんだから…」
 ふふふ、と笑うと、サガはアケローオス河神に抱きついた。
「でも大好き」
「…酔ったのか、サガ?」
「酔ってないですよぉ」
 とサガは答えたが、彼の肩越しにアケローオスがサガの席の前のカウンターを見ると、空になったショート用のカクテルグラスが三杯も転がっていた。今までカノンとの会話に気を取られてサガが何を注文しているのか聞いていなかったが、弟と河神が話している間にサガは一人黙々とかなりのハイペースで調子良く飲んでいたらしい。
 あ、やばい、これ以上飲ませたら手に負えなくなる、とアケローオスは思った。カノンと違って普段は食事の時にワインをたしなむ程度で大酒をする習慣がないサガは、弟ほどアルコールへの耐性がない。自分の酒の強さとか飲み方の加減も、あまり良く分かっていない。
 急速に脳に回った酔いで理性が緩んで朗らかになったサガは、アケローオスに抱きついたまま耳元でささやいた。
「でもいいんだ。そのうち、きっとあなたを私たちに溺れさせてみせるから…」
 そして普段のサガなら決して言わないだろう女性の名前を彼は口に出した。
「デーイアネイラみたいに…死んでからも、何千年たってからも、あなたが忘れられない存在になってみせるんだから…」
 かつて英雄ヘラクレスと求婚権をかけて争い、そしてアケローオスが敗れて失った神話の女性の名前が唐突に出たことに、河神は体を固くした。
「サガ?」
「ん?なんです?」
 サガを自分の体から引き離してアケローオスが尋ねる。
「なぜそこでデーイアネイラが出てくるんだ?」
「だってあなた、まだ彼女のことを愛してるんでしょう?」
「……」
 沈黙した河神の表情に、酔ったサガは無邪気に、そして残酷に笑った。
「私は知ってるんだから…。ほら、顔からいつもの余裕が消えた。ふふふ、あなたの傷ついた顔…やっと見れたな…」
 強張ったアケローオスの表情筋をサガはじっくりと指先で確かめた。
「サガ…」
「あなたも私たちと同じ…手に入らなかったら、いつまでも追いかけている。失恋をずっと引きずって、彼女との思い出を胸にしまって大切にして…。だからいつかは…」
 サガはそっとアケローオスに口付けた。
「いつかは…あなたが私たちの後を追うようになる…してみせる…」
「サガ」
 酒気でとろけたサガの瞳をアケローオスは真剣な顔で見つめた。
「今この世で生きている『人間』でおれが一番愛しているのは、お前たち双子だ。お前たちのことも、おれは何千年たっても忘れないだろう。…例えお前たちが死んだ後も…」
「アケローオス様…」
「だから…もうデーイアネイラの名を引き合いに出さないでくれ」
 アケローオスが悲しそうに目を伏せると、サガは彼の頭を抱いた。
「ええ…。ふふ…彼女の名を出して、我ながら卑怯だったかな…」
 サガが失った恋を慰めるように河神の頭を撫でる。河神も自分の頭を抱くサガの手をさすり返した。
「さあ、もう部屋に行こう」
 席を立ったアケローオスは、ふらつくサガの体も支えて立たせた。
「カノン、お前も…」
「うん」
 アケローオスが手を伸ばして誘うとカノンも席を立ち、サガと河神を挟むようにして彼に寄り添って歩いた。

(以下はR-18なので割愛)

 二人がバスローブに身を包んで居間に来てみると、低いテーブルの上にはカノンがルームサービスで取り寄せた品が並んでいた。ピッツァ・マルゲリータ、ローストビーフのサンドイッチ、それにフルーツの盛り合わせだ。クレタ島産の白ワインもボトルで一本頼んでおり、アケローオスがワイングラスに酒を注いでくれた。
「うまそー」
 カノンは満面の笑みになり、柔らかいソファに座るとさっそくピッツァ・マルゲリータにかじりついた。旺盛な食欲を示し、勢いよく夜食と酒を胃袋に送っている。
「お前の食いっぷりは、いつ見ても気持ちいいな、カノン」
 アケローオスは夜食には手をつけず、ワイングラスに入れた白ワインを傾けながら双子たちを眺めていた。神である彼は、本質的には食べることも、飲むことも、眠ることも、呼吸すら必要としないのだ。何しろステュクス河の水にかけた誓約に違反した時の罰が、「呼吸と飲食を一年間禁じられ、神々との交流を九年間絶たれる」なのである。もっとも「死なないだけで苦しさはある」らしいからこそ、罰になっているのだろうが。
「がっついてる女は嫌いか、アケローオス?」
 手についたチーズの脂をなめながら、カノンが河神に問う。
「いや、女性に食事を楽しんでもらうと、おれも嬉しい」
 ワイングラスの酒を一口飲み、彼は続けた。
「まあ、遠慮して上品ぶって小食に振る舞ってる女も、可愛いけれどな」
 河神の視線がサガに向く。「遠慮して上品ぶって小食に振る舞って」サンドイッチをちびちびと口に運んでいたサガが、びっくりしたように顔を上げた。
「要するに、女なら何でもいいんだろう、あんたは」
 好き者め、と河神を皮肉り、カノンはフルーツの盛り合わせからブドウを一粒取って食べた。
「あ、このブドウ、うまい。サガも食ってみろよ」
 カノンはブドウをさらに一粒取り、皮をむいて兄の口元に差し出した。サガは戸惑うように弟の指先にあるブドウを見たが、やがてちゅるりと音を立てて果実に吸いついた。ブドウを口の中に入れ、果汁で濡れた弟の指も口に含んでなめる。ちゅぽん、とサガがカノンの指を吸う音が色めかしく響いた。
「な、うまいだろ?」
「…ああ」
 サガがブドウを咀嚼して飲みこむと、さらにカノンは一粒、ブドウを取って兄に差し出した。
「ほら」
 これもサガは同じように音を立てて吸いこみ、弟の指先をなめた。
 カノンが今度は自分がブドウを食べるのに専念していると、メロンの切れを食べたサガが言った。
「カノン、このメロンもおいしい。食べてごらん」
 今度は兄が弟の口元にメロンを指で運んだ。兄がしたように、カノンはメロンにぱくついた後、果汁のついたサガの指をちゅるっと吸った。
「うん、うまい」
 さらに今度はカノンがフルーツの盛り合わせからイチゴを手にした。
「ほら、サガ、イチゴ」
「ん…」
 差し出されたイチゴを弟の指先からサガが食べる。
「うまいか?」
「ああ。甘くておいしい。カノンも食べてみて」
 今度はサガがカノンにイチゴを差し出す。
 こうして小鳥のひなに餌をやるように、二人はお互いに果物を相手の口元に運んで食べさせ合った。その度ごとに相手の指をなめ、わざと音を立てて色めかしく吸い、仲の良いふざけ合いを続ける双子たちを、アケローオスは穏やかな瞳で見守っていた。
 鏡に映したようにそっくりの容貌をした美女二人が、互いに白くて長い指を緋色の唇に挟んでなめて吸い合っている光景は、性行為を連想させて実に扇情的だった。だがアケローオスが思い出していたのは、子供のころの双子たちがケーキに乗ったイチゴを奪って争っていた時の姿で、彼の目には果物をお互いに食べさせ合う今の双子たちの姿は極めてのどかでほのぼのとした光景として映っていた。この河神の視覚も、サガとカノンに関しては思い出補正で色々と歪んでいる。
「…ああ、食った、食った」
 やがて夜食を完食したカノンは手をナプキンで拭き、満足した様に己の腹を撫でた。
「腹一杯になったら、眠くなったな〜」
 ふああ〜とカノンがあくびをする。
「腹が膨れたら眠くなる、か。お前は子供のころと何も変わらんな」
 子供めいたカノンの仕草に、アケローオスがくすりと笑みを漏らす。
「仕方ないだろ。人間の生理なんだから」
 そしてカノンは隣にいる兄の手を握った。
「サガ、一緒に寝ような。手をつないで、並んで寝ようぜ」
「ああ」
「…ふふ…今夜は楽しい夜だったなぁ。サガの『初めて』ももらえたし…」
 機嫌よく言ったカノンは、それから「ふっふっふ」と邪悪な笑みを漏らした。
「どうした、カノン?」
「…いや。サガ、お前、聖域に帰ったらアイオロスに今夜あったことを全部、報告するんだろ?サガがおれで童貞喪失したと知ったら、奴がどんな顔をするかと思ってな」
 得意げな顔でカノンが哄笑する。
「ウワーッハハハハ!その時のアイオロスの顔を見てやりたいぜ!いや〜、今夜は良い夢が見れそうだ」
「…カノン…」
 はあっとサガはため息をついた。相変わらず、この双子の弟はサガの恋人のことが大っ嫌いで、嫌がらせに余念がない。もう少し歩み寄ってくれないものか、とサガは願ったが、多分、無理であろう。二人はサガという同じ宝石を奪い合っているようなものだった。
「寝るのはいいが、その前にちゃんと歯を磨くんだぞ、カノン」
「子供扱いするなって」
 アケローオスの念押しに、カノンはぷうっと頬を膨らませ、子供そのものの顔になった。
 こうして人間の三大欲求である性欲と食欲を満たした双子は、残りの一つ、睡眠欲も満足させることにした。
 サガとカノンは約束通り、並んで手をつないで、夢の国に旅だった。ちなみにアケローオスは、彼がどちらの隣で眠るかを双子が争ったため、コイントスの結果、サガの傍らで寝ることになったのだった。

 男の体に戻って聖域に帰ってきたサガから、いつものように、アイオロスは昨晩あったことを全て聞いた。「アイオロス、私はとうとう、男になったぞ!」と瞳を輝かせたサガから打ち明けられ、「サガが童貞を喪失してしまった。それも女体化した弟の尻で」と知ったアイオロスは、あごが外れるかと思うほど愕然とした。
 アイオロスは、サガにどこまでも清らかなイメージを持っていた。自分と肉体関係を持っても、アケローオスに抱かれても、弟のカノンと性的な戯れをしても、やはりサガは清らかだと感じていた。
 だがサガが童貞でなくなったことは、アイオロスにとって、彼の清らかさが一部損なわれたような気分になったのだ。
「…ああ、おれのサガがどんどん汚れていく…。それもおれ以外の奴の手で…」
 と、アイオロスはどん底まで落ち込んだ。清らかなサガを汚す特権は、恋人である自分だけのものであって欲しかったのだ。
 無論、それはそれとして、帰ってきたサガと無茶苦茶セックスすることは、アイオロスは忘れなかったのだが。

<FIN>

完全版はこちら。pixiv掲載でR-18。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=8194174

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