聖戦後復活設定。アイオロスは教皇、サガはその首席補佐官、カノンは海将軍・海龍を兼任して海界在住。ロスサガ前提だけどちょっとカノサガ。
カノンから贈られたペアリングをつけているサガに、アイオロスが結婚指輪を贈ってはめさせる話。アイオロスに嫌がらせをしている様で、実はナ〜イスアシストになってるような、カノン…。
『リング』
ある日のこと、教皇アイオロスは書類を整えている首席補佐官サガの指に見慣れない装身具があるのを見つけた。
左手の中指にはめられたそれは、プラチナの細いリングにサガの瞳と同じ空色の輝く貴石が埋め込まれた、指輪だった。
「サガ、指輪などして珍しいな」
儀式の際には二人ともロザリオや指輪などの装身具を身につけることもあるが、聖域に秘蔵して伝わってきたそれらは、いずれもアンティークらしい仰々しい作りをしている。だがサガが身に着けている指輪は、普段使いになれる簡素なデザインで、明らかに儀式用の装身具とは違っていた。
「ああ、これは…」
と、サガははにかむような顔で語り出した。
先日、サガは普段は海界に住んでいる双子の弟から呼び出しを受けた。
「たまには二人で飲もうぜ」
ということで、アテネ市内のバーに誘われて、二人で近況を語りながら酒を傾けていると、カノンが小さな箱をジャケットの内ポケットから出した。
「サガ、これをやる」
弟から差し出されたビロード張りの小箱をサガが開けてみると、中には指輪が入っていた。プラチナの細いリングに空色の小さな石が埋め込まれた、シンプルだが美しい指輪だった。
「これは?」
「見ての通り、指輪。海界の宝石職人に作らせたんだ。このダイヤモンド、お前の瞳と同じ色なんだぜ。この色を探すのに手間取ったが…」
そしてカノンは自分の左手をサガに示した。その中指には、小箱の中にある指輪と同じデザインの指輪がはめられていた。ただし中央の石の色は、カノンの瞳に合わせて、少しグリーンの混じった水色だった。
「ほら、おれとお揃い。双子っぽくっていいだろ?」
「…カノン、こんなもの、受け取れない。高価だろうに…」
ダイヤモンドだという主石は小さいが充分な輝きを放っており、上質の石だとサガにも分かった。サガは弟に箱を返そうとしたが、カノンの手に阻まれた。
「おれはこれでも海界の最高権力者なんだ。これくらいの買い物は別に負担じゃないさ。おれの普段の生活があまり質素だと、金持ちの商人とかが遠慮して贅沢できないから、適当に派手にしてくれ、とか言われてるしな」
弟は箱の中から指輪を取り出し、兄の左手を取り、その中指に指輪をはめた。
「おれとサガが離れていても一つだって、その証に…。いいだろ、身につけてくれよ」
甘えるような口調でカノンがねだる。
「…カノン」
サガは弟によってはめられた指輪を見た後、手を口元に近づけてそっと中央のダイヤモンドに口づけをした。
「ありがとう、カノン。大切にするよ」
「ん!」
カノンが得意げな笑みを見せた。
実のところ、カノンは内心では左手の中指ではなく、右手か左手の薬指に合わせて指輪を作らせたかった。ギリシャでは、婚約指輪を左手の薬指に、結婚指輪を右手の薬指にはめるからだ。たださすがに兄が世間知らずとはいえ、その程度の常識はあると思われ、つける場所がそれではあまりに意味深すぎて指輪を受け取ってもらえないかもしれない、と、泣く泣く中指に指輪のサイズを合わせたのだった。
その晩、揃いの指輪をつけた双子は酒を酌み交わしながら仲良く語らい、サガは聖域に、カノンは海界にと帰っていったのだった。
「…というわけで、カノンからもらったのだ」
喜々として無邪気に報告するサガに対し、アイオロスは愕然となった。
サガは、アイオロスの恋人だったはずだ。にも関わらず、アイオロスはサガとお揃いの指輪などしたことはなかったのだ。アイオロスがこれまでに提案したことがなかったというのもあるが、仮につけてくれと頼んだところで、サガは恥ずかしがって受け入れなかったに違いない。
『どうだ、アイオロス!お前はサガとペアリングなどしたことはあるまい!これはサガがおれのものだという証よ!ウワーッハハハハハ!』
というカノンの哄笑を、アイオロスは指輪から聞いた気がした。
「…おのれ、カノン、お前という奴はやはり邪悪の化身…。ポセイドンのみならずサガまでたぶらかすか…」
「ど、どうかしたか、アイオロス?」
執務机の前で固まったままどす黒いオーラを漂わせ始めたアイオロスに、サガが戸惑う。
「サガァァァーッ!」
突如としてアイオロスが叫び、立ち上がった。
「指輪を買いに行くぞ、サガ!今すぐ!」
「え、ええええ!?でも仕事が…」
「そんなものは後だ、後!」
アイオロスは即行で教皇の法衣を私服に着替えると、サガの手を引きずるようにして二人で十二宮を降りた。サガを連れてアテネ市内の宝石店に駆け込んだアイオロスは、指輪、それもマリッジリングを購入した。そして
「け、結婚指輪など…!?そもそも我々は夫婦では…。それに皆に何と言われるか…」
と、ぐずぐずと恥じらって嫌がるサガに、
「教皇命令だ」
と、右手の薬指に無理矢理に自分と揃いの指輪をはめさせたのだった。
後に「アイオロスからつけろと言われて…」と兄の右手の薬指に結婚指輪がはまっているのを見たカノンが、盛大に舌打ちしたのは言うまでもない。
<FIN>
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