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2017年05月20日06:36

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『湯煙の中で』

 2017年双子誕作品の二作目。「GEMINI FESTIVAL 2017」http://green-sanctuary.raindrop.jp/geminifes2017.html参加作。
 沙織からの誕生祝いで別府の温泉旅行をすることになった双子のある一幕。
 聖戦後復活設定でロスサガ、ラダカノ前提だけどカノサガ。
 前日譚『女神と海皇の諍い』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960502940&owner_id=4632969
 昨年の話はこちら。『海皇の悪戯』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6802338
 エロ要素の入る話なので、参照作品は『例えばこんな愛の形』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5409535『執着と愛の境界線』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5653894『常識についての一考察』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5813095『時には愛の言葉を』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5848132『いい双子の日』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6082772『双子の日』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6146829『寝室のドレスコード』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6382593『春蘭と秋菊の競艶』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6486928
 全年齢向けはこちら。『例えばこんな愛の形』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1942998622&owner_id=4632969『執着と愛の境界線』http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=4632969&id=1944928878『常識についての一考察』http://mixi.jp/view_diary.pl?owner_id=4632969&id=1946155592『時には愛の言葉を』http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5848132『双子の日』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1960490822&owner_id=4632969『寝室のドレスコード』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950098945&owner_id=4632969『春蘭と秋菊の競艶』http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1950727023&owner_id=4632969


『湯煙の中で』
 
 サガが夜空を見上げると、星々と美しい三日月が湯煙に雲っていた。
「…はぁ、それにしてもいい湯だ…」
 露天温泉で滑らかなお湯に肌を浸しながら、サガは改めて熱い吐息をついて何度目かになる感嘆の声を発した。
「しかし、お前の温泉好きには呆れるよ」
 双子の弟カノンが体を洗い、長い髪をタオルで巻き上げて湯船に入ってくる。
「ここに来てから、始終、温泉に入りっぱなしだぞ。あまり頻繁に入ると、皮脂が脱脂され過ぎてかえって肌に悪いぞ」
 カノンも温泉や入浴は好きなほうではあるが、双子の兄の好み方はどうにも常軌を逸しているのではないかと思うのだった。
「いいではないか。私はまだ若いのだ。これくらいどうということはあるまい」
 弟と同じように髪をタオルで巻き上げて湯につかるサガは、弟の心配を一蹴した。仮に肌に悪かろうと、今のサガにとっては温泉につかる快適さの方が優先である。
「それにこんなに温泉を堪能できるのも今だけだからな。まったく…お前は良い祝い物を引き当ててくれた」
 サガは弟の幸運に心から感謝した。
 5月30日。双子座の双子たちの誕生日当日である。サガとカノンの二人が滞在しているのは、日本の大分県・別府温泉にある老舗旅館の一室だった。
 「シードラゴンの誕生日の祝いは何がいいか」をポセイドンが沙織に相談したのをきっかけに、二神の間で「カノンを主神として祝うのはどちらがふさわしいか」という言い争いが起こった。そして「ではカノンにくじを引いて決めさせよう」ということになり、カノンはくじ引きの結果、沙織からの祝いである「別府温泉旅行一週間」を引き当てたのであった。
 こうして双子はアテナ沙織から別府温泉への招待を受けることになった。それぞれ聖域と海界で多忙な二人のこと、たまには休暇を取って兄弟水入らずでゆっくり静養しなさい、という女神の気づかいであった。二人は喜んで主君の好意を受け入れ、そして三日前からこの温泉旅館に滞在している、というわけである。
 沙織が二人のために用意した旅館は、純和風の作りで、双子たちにとってはエキゾチックな雰囲気が物珍しかった。共同で入る大浴場もあるが、部屋には内風呂としてユニットバスの他に、テラスに風情ある露天風呂がついていた。
 他人に気兼ねすることなくいつでも入ることのできるこの開放的な露天風呂を、サガはことのほか気に入った。朝起きたら風呂に入り、朝食を食べたら風呂に入り、外出から帰ったら風呂に入り、夕食後に風呂に入り、就寝前にまた風呂に入る…という具合で、温泉漬けの毎日を送っている。
 そして外出したら外出したで、近隣の温泉地に足を伸ばして異なる泉質の温泉を楽しんだり、足湯につかってみたり、「地獄」と呼ばれる奇観巡りをしたり、海浜で砂風呂を経験してみたり、温泉卵や温泉の蒸気で蒸された菓子の食べ歩きをしたり…とまあ、温泉三昧の日々を満喫しているのだった。
 自身も温泉を好むとはいえ、サガの要望であるそれら全てにつき合っているカノンは、少々、兄の温泉熱に呆れ気味であった。
「お前は本当に温泉が好きだよなぁ。おれとしては、カリブ海クルーズでも良かったんだが…」
 ちなみにくじのもう一方の賞品であったポセイドンからの祝いが、「ソロ家所有の豪華客船でカリブ海クルーズ」なのだった。
 だがカノンの言葉にサガは不機嫌そうに眉をひそめた。
「ポセイドンからの祝いなど、喜ぶものではない」
「別にいいだろ。おれは海将軍筆頭・海龍も兼任してるんだし」
「お前は私と同じ、アテナの聖闘士だ。ポセイドンなど…だめだ」
「……」
 カノンは、サガに比べると「海」に惹かれる性質がある。温泉も好きだがクルーズも悪くない、と思うのも、その一例だ。それは海龍としての本質に根差している傾向なのかもしれなかった。
 だがサガはカノンが「海」に惹かれるのを知ると不愉快になるのだ。双子の弟、自分の半身が「海」に惹かれて、自分から離れて行ってしまう。そんな不安と寂しさを感じるらしい。
 カノンはポセイドンを拒否し続ける兄に、唇の片端を上げてにやっと笑った。
「それはポセイドンへの嫉妬か、サガ?」
 からかうような弟の言に、兄は真っ赤になった。
「ち、違う!お前はアテナの聖闘士なのだからな!ポセイドンに尻尾を振るなと言っているのだ!」
「分かった、分かった」
 むきになってカノンの言葉を否定するサガを、弟は一笑した。「図星」という奴だと理解したからだ。こうして自分に執着心を見せてくれるサガが、カノンには可愛くて嬉しい。
「まぁ、温泉でも海でもどっちでもいいさ。おれとお前が二人きりで過ごせるなら…」
 カノンも兄に並んで夜空を見上げた。
「…こうしている間にも、アイオロスの奴が聖域でおれたちが二人きりなことにやきもきして、一人寂しさを噛みしめて過ごしているのかと思うと、それだけで爽快な気分になれるわ。ザマーミロ、あの絶倫人馬め。ウワーッハハハハ!」
 邪悪な哄笑を響かせた弟に、サガは呆れたような、困ったような視線を向けた。
「お前は本当にアイオロスのことが嫌いなのだな…」
「お前だってラダマンティスのことが嫌いなんだから、お互い様だろ」
 カノンはサガの恋人であるアイオロスのことを、自分からサガを奪った張本人だと思っている。そしてサガはカノンの恋人であるラダマンティスのことを「冥界の眉毛がカノンをたぶらかした」と感じている。要するに、お互いに兄(弟)を他人に盗られるのが嫌なのだ。だったらいっそ二人でくっつけよ…と思うのだが、そこはそれで、「兄弟は恋人とは違う」らしい。
 カノンは隣にいる兄に色めいた視線を向けた。髪を上げているため、あらわになった長く白いうなじが美しかった。対照的に、湯で体温が上がった頬は紅潮し、雪白の肌にもほんのりと血の気が浮かんでいる。巻き上げた分からほつれた髪が湿気で額に張りつき、吐息は悩まし気に熱っぽい。清婉な兄が無意識のうちにかもしだしている色気に目を細め、カノンはサガの白い大腿に湯の中で手を伸ばした。
「なぁ、サガ…」
 声をひそめ、兄にささやきかける。
「お湯につかって肌が桜色になってるお前…すごく色っぽい…」
 ぺしり、と、サガは自分の大腿に触れてきたカノンの手を叩いた。
「湯の中で不埒なことをするな」
「湯の外ならいいのか?」
 問い返され、サガが言葉に詰まる。
「う…、そ、それは…!と、とにかく、湯を汚すようなことはだめだ!」
「そうか。じゃあ、楽しいことは寝床でしよう」
 艶然と笑って見せたカノンは、兄の唇に軽く触れるだけの口付けをした。
「な、せっかくの誕生日なんだ。約束」
「や、約束って…」
 兄の返事を待たず、カノンは湯船からざばっと立ちあがった。
「おれは先に上がる。のぼせそうだからな」
「あ、私はもう少し…」
「そうか。まあ、綺麗に洗ってこい。…待ってる」
 意味深な目をサガに向けると、カノンは湯船から上がって体を拭き、室内に入った。
「…た、楽しいことって…」
 湯船に身を沈めたまま、寝床で弟にされる「楽しいこと」を想像したサガは、落ち着かなげに湯の中で自分の体を撫でさするのだった。

<FIN>

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