劇場で大いに感心した
『 ハート・ロッカー 』 をレンタルＤＶＤで再び観た。本当はＢＤを借りたかったのだが、行きつけのGEOにはＤＶＤしかなかったのは残念である。レンタル版には英語字幕、オーディオ・コメンタリーもついていないので、近いうちにＢＤを購入することにしよう。
それにしても、やはり素晴らしい戦場映画であった。特に、爆発物処理班の日常を切り取った「 ８つの短いエピソード 」
(注) に絞り込んだ構成は実に秀逸である。普通なら、物語の大きな流れを中心として、小さなエピソードを付属的に織り込んでいくのだが、それでは起承転結が明快過ぎて、作り物臭くなるという欠点がある。『 ハート・ロッカー 』は、それをあっさりと拒否した。緊張感に溢れてはいるが、脈絡のないエピソードを数珠繋ぎに取り上げることで、かえって戦場の兵士達の心情を浮き彫りにしている。現実では、ドラマのようにきっちり結論が出ることなどない。エピソードが突然終って次に切り替わるのもクールで、リアルだ。観客の理解力に合わせて、過度に状況説明する台詞もなければ描写もない。わからないなら、わからないままに映像から読み取ることを観客は求められる。これほど男っぽい映像を撮れるのだから、監督のキャスリーン・ピグロー（女性である！）は凄い・・・。未見の方には、ぜひお薦めしたい。戦争映画史に名を残す傑作だと私は断言しよう。この先、ネタバレを含むので未見の方はご遠慮願いたい。
私が最も好きなエピソードは、砂漠で爆破処理を行った帰り道にジェームズ軍曹達のハンヴィーが四駆のＰＭＣと遭遇するものだ。正体不明の武装グループとの接触にサンボーン軍曹はかなり緊張しているが、ＰＭＣのリーダーは実に冷静である。サンボーンがＭ４カービンを構えながら、大声で「 両手を挙げろ！ 両手を挙げろ！ 」「 腰の拳銃を捨てろ！ 」と叫びながら接近するのを、リーダーは「 手を挙げるのか、拳銃を捨てるのか 」と静かに聞き返している。これだけの描写で、ＰＭＣ達が歴戦のベテランであることがわかる。この直後、ゲリラのスナイパーに狙撃されるが、彼我の距離８４０ｍゆえにＭ４カービンではなく、バレット（大口径対物狙撃銃）で対抗するのだという説明はない。そして、決着がつかないまま膠着状態に陥り、夕暮れが迫る頃、ジェームズの「 そろそろ帰ろう 」という言葉で唐突にエピソードは終わる。並の監督なら状況説明の台詞を入れ、きっちり勝負をつけるところまで描きたくなるだろう。あれこれ説明するシーンが「 プロっぽい 」という思い込みがあるからだが、ピグロー監督には迷いがない。
脈絡がないと言ったが、実は、いくつかのエピソードは繋がっている。廃墟の爆弾製造工場で「 ＤＶＤ売りのベッカム 」と思しき人間爆弾を見つけるエピソード（最後に軍医大佐が爆死する）と、非番のジェームズがＤＶＤ売りの親父を脅して単身「 ベッカムの自宅 」に乗り込むエピソード。それにタンクローリー爆破テロのエピソードだ。向こう見ずに見えても、実は冷静沈着なジェームズだが、タンクローリー爆破現場検証の後に自分達３人だけで爆破犯を追跡しようと強引に主張する。その結果、技術兵エルドリッジがテロリスト達に拉致され、あわや殺されかけるという危機に直面。これは明らかに彼の暴走だった。歩兵小隊の到着を待たず爆破犯を追跡したのは、ジェームズが「 殺されて人間爆弾にされたベッカム 」の復讐をしたかったからだ。負傷し本国へ送還されるエルドリッジを見送った後、ベッカムに声をかけられるが、ジェームズは呆気にとられながらも一切無視する。なまじ自分が親しくしたからベッカムが殺されることになったのだ、という深い悔恨の思いが彼にあった。生きていたことに安堵しつつも、親しく接するのはベッカムにとって危険だと判断したのは間違いない。無駄な会話で心情を語らせなくても、ジェームズの行動でしっかり心情を伝えるのは見事だと思う。
ブラボー中隊での任務が終了した後、一時帰国するジェームズだが、家庭での会話はほとんどかみ合わない。その原因は、奥さんが彼の語るイラクの悲惨な現状に全く反応しないからだ。ただ、彼は言う。「 イラクには、爆発物処理をする兵士が必要だ 」と。最後に、防爆服を着たジェームズがハードロックを背景に意気揚々と現場に向かって進んで行くロングショットからエンドロールに入る潔さには正直、鳥肌がたった。なんとカッコ良いのだ。『 ハート・ロッカー 』を超える戦場映画はしばらく登場しないだろう。キャスリーン・ピグローは、男の感覚をもった「 硬派な女性 」だ。
（注）「８つのエピソード」は、�．肇鵐廛愁鷏柿發稜�死 ��交差点の６発の砲弾 �９駭▲咼訌阿亮�動車爆弾 �ず叔�のＰＭＣ �タ祐崘�弾 �Ε戰奪�ムの自宅 �Д織鵐�ローリー爆破テロ �┝�爆ベスト
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