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2010年04月21日23:05

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『ハート・ロッカー』。

　いよいよ上映終了が間近となり、急遽、劇場に出かけてきた。『ハート・ロッカー』がアカデミー賞に相応しいかどうかは別として、実に素晴らしい映画だった。私はキャメロンファンだが、作品賞を争った彼の『アバター』よりはるかに面白く、はるかに深い作品だったのは間違いない。大予算をかけた『アバター』があれもこれもと欲張った結果、豪華な割りに散漫な作品になってしまったのに対し、『ハート・ロッカー』は低予算でいくつかの、短いが緊張感あふれるエピソードに絞込み、ぐっと濃厚な世界を描き出した。傑作である。この先は物語の内容に触れるので、未見の方々はご遠慮願いたい。

　主人公ジェームズ軍曹がイラクで活躍する米陸軍爆発物処理班員と聞き、てっきり、不発弾処理やテロリストの仕掛けた即席爆弾とのスリリングな戦いを描いた戦争アクション映画だとばかり思っていたが、『ハート・ロッカー』は見事なまでに「誇り高き兵士の物語」であった。ジェームズ軍曹が爆弾処理の現場で恐れを知らない無鉄砲な行動をすることから、単純に彼を「戦争中毒者」だと断じてしまっては、この物語の表面にしか目を向けていないことになるだろう。確かに、ジェームズ軍曹の感覚は麻痺している。しかし、彼が危険な現場に赴くのは「自らの欲求を充たす」という中毒症状によるものでないのは明らかだ。

　彼の行動を解く鍵は、彼が元強襲部隊（原語では「レンジャー」と言っている）だったという経歴にある。おそらく、任務の性格上、昼夜を問わず多くのテロリストや民間人の命を奪ったに違いないが、ある時、「自分が生き延びるために他者を殺す」という戦闘行動に嫌気がさしたのだろう。そして、「他者の命を助ける」ために爆弾処理班に志願したのだ、と私は推測する。そう考えれば、ジェームズ軍曹の行動の多くに合点が行く。封鎖線を強行突破して、彼の目前に突っ込んできた車のドライバーを即座に射殺せず、何度も車をバックさせようと我慢強く威嚇射撃したこと。自爆ベストを装着された民間人を見捨てず、時間ギリギリまで爆弾解除に務めたこと。いずれの場合も、サンボーン軍曹がとろうとした措置はジェームズ軍曹と正反対であった。自分の身の安全こそ最優先であり、そうすることが兵士の常識なのだが、ジェームズはその道を選ばない。彼は危険を顧みず、命を救うために最善を尽くすのだ。

　無鉄砲な行動を繰り返すジェームズ軍曹を諌（いさ）め、何度も彼と衝突したサンボーン軍曹だが、物語の終盤で大きく崩れる。サンボーンは自分に防爆服を着る資格があるのか自信がなく、涙を流しながらジェームズに答えを求める。しかし、彼は無言である。それは「自分で決めろ」と答えたに等しい。サンボーン軍曹とジェームズ軍曹の違いは歴然としている。爆弾処理という危険な任務を続けられるのは、強い使命感と爆弾処理で得られる喜びを共存させることのできる「選ばれたスペシャリスト」だけなのだ。物語のラスト、ブラボー中隊からデルタ中隊に転属したジェームズ軍曹が防爆服に身を包み、意気揚々と爆弾処理に向かっていくシーンはなんとも感動的だった。彼を、自ら危険に飛び込む哀れな戦争中毒者の姿だと見るなら、それは戦場で命をかけて任務遂行する米軍将兵に対する冒涜であろう。

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