先日、大いに感銘を受けた
スペシャルドラマ『 遺恨あり 』の原作、『 最後の仇討 』を読んだ。日記に頂戴したエド・ウッド�契い気鵑硫宍�のコメントが強烈に記憶に残ったからだ。もっと早く読みたかったのだが、ドラマ放映直後ということで一時的に品切れになっており、ようやく入手できたという次第である。
『
「遺恨あり」の原作も非常に印象深く、また実に難しい題材だなと思っていましたので、まさかこんなキャスティングと脚色で映像化されるとは予想もしておらず、正直驚きました。
しかし、うまく世界観を広げた脚色、演出といい出演者の抑え気味の演技といい音楽といい、実に良い感じで「吉村ワールド」を創出しており、また原作の存在を敢えて考えず一本の独立したドラマとして観ても、充分に見応えのある作品に仕上がっていたと思います。 』
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最初、エド・ウッド�契い気鵑里海離灰瓮鵐箸鯒卞匹靴浸�、まさか、吉村昭の原作がこれほどの短編だとは思ってもいなかった。文庫あとがきに吉村自身が明かしているが、もともと彼は「 仇討という個人的な事件には興味がなかった 」のである。しかし、取材中に発見したこの事件が実に見事に「 歴史 」の陰影を顕していたためにあえて取り上げたことと、物語の終盤を占める裁判記録が戦災で消失しており、当時の新聞報道しか史料がなかったこともあって、わずかな紙数にまとめたものだと想像される。注目すべきは、エド・ウッド�契い気鵑僚颪�れている、『 うまく世界観を広げた脚色、演出といい出演者の抑え気味の演技といい音楽といい、実に良い感じで「吉村ワールド」を創出しており・・・ 』 という部分である。これは原作を読んで、正にドラマ『 遺恨あり 』の魅力を的確に言い当てているのだと知った。驚いたことに、ドラマは事件の概要を原作から借りているだけで、ほとんどがオリジナルの脚色だったのだ。しかも、脚色した部分からは原作への畏敬と、主人公・臼井六郎に対する真摯な愛情が感じられた。完全に脱帽である。これまでたくさんの映画・ドラマを観て来たが、原作を超える映像作品がほとんど存在しないことから、「 原作は絶対的存在で、原作を凌駕する映像化など不可能 」だと信じていた。しかし、原作のもつ雰囲気を壊さずに、愛情に満ち溢れた見事な脚色によって、原作世界をはるかに超える豊かなドラマを作ることができたことに、驚愕を禁じえない。あらためて、素晴らしいドラマであったことを痛感した。
この先、原作とドラマ設定の違いに触れているので、ドラマ未見の方や前情報なしに白紙の状態で原作をこれから読んでみようと思われる方はご遠慮願いたい。
私が原作を読んで、最も驚いたのは、「 下女なか 」がわずか一行しか登場しないことであった。ドラマでは、なかの存在は無くてはならない大きなものである。彼女は、事件で斃れた臼井夫妻の惨殺死体を目撃したことによって、六郎（藤原竜也）と共に仇討の決意を固め、仇敵・一瀬直久（小澤征悦）の所在を探るために福岡県庁に女給として奉公に上るだけでなく、お大尽の旦那の妻妾になることで経済的に六郎を支えている。六郎は彼女が手紙で知らせてくる一瀬の動向と、仕送りによって、仇討の旅を続けることができた。なか（松下奈緒）との交流は、六郎にとって情報や金銭以上に大きな心の支えであったに違いない。原作では、六郎は仕事をしながら情報を収集し、独力で一瀬を追跡しているが、ドラマの六郎は強い絆で結ばれたなかという仲間を得て、幸せだったと思う。だからこそ、最後に全てを成し遂げた六郎が今は他人手に渡った自分の家を訪ねた時、なかが「 お帰りなさいませ 」と迎えるラストシーンが生きる。
また、ドラマでは山岡鉄舟（北大路欣也）が実に見事に物語に重みを与えている。原作では、六郎は山岡鉄舟その人の道場と見定めた上で、住み込みの書生を志願したが、一瀬が山梨に赴任したと知るや、三ヶ月後には一瀬を追って無断で出奔している。ドラマでは竹刀を打ち合う威勢の良い音に引かれて道場の敷地内に足を踏み入れ、山岡鉄舟がいかなる人物かも知らない。これは非常に上手い導入だったと思う。白刃の持つ恐さ、剣を操り人を殺すことの意味について、原作は一切触れていないが、ドラマは視聴者に山岡鉄舟を紹介しつつ、本来のテーマである「 武士の世の終焉 」を、山岡の生き様を通して描くことができたからだ。そして、山岡と六郎をはっきり「 剣の師弟 」としたことも制作者達の愛情を感じる。原作の六郎が孤独だったかどうかは定かではない。しかし、ドラマの六郎は「 同志 」たるなかと、得難い「 師 」山岡鉄舟に愛された幸福な男だったと言えるだろう。時代の激流に翻弄され、運命を大きく狂わされた人々の凄惨な物語だが、ドラマの六郎を取り囲む人々の温かさに、私は救われる思いがする。
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