mixiユーザー(id:1609438)

2024年04月02日11:56

7 view

強い企業組織となるためにルーティンをつくり直せ


連載 入山章栄の『世界標準の経営理論』第45回
by 入山 章栄
2024.04.01

強い企業組織となるためにルーティンをつくり直せ
MicrovOne
サマリー:ルーティンを変えることは難しい。漸進性、経路依存性が強く、そして時に硬直化するからだ。したがってルーティンは、急激なビジネス環境の変化が起きると、むしろ足かせにもなりえる。しかし、進化する現場・組織を... もっと見る
──第42回の記事:組織の変化を説明する進化理論(連載第42回)
──前々回の記事:組織の成長は「進化するルーティン」で決まる(連載第43回)
──前回の記事:硬直化するルーティンの危険性(連載第44回)

変化対応で怖いのは、リソースではなくルーティン
 繰り返しだが、ルーティンは組織進化の源泉であるとともに、漸進性、経路依存性が強く、そして時に硬直化する。したがってルーティンは、急激なビジネス環境の変化が起きると、むしろ足かせにもなりえる。

 この点を端的に示したのが、ハーバード大学のクラーク・ギルバートが2005年に『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』に発表した、米新聞社4社がデジタル革命の波の中でどのように対応したかについての事例研究だ※10(なお、米国の新聞業界のデジタル化の対応については、本書『世界標準の経営理論』第13章でUSA Todayの事例も取り上げている)。

 ギルバートは、事業環境の変化における硬直性(イナーシア)を考えるには、経営資源(リソース)の硬直性とルーティンの硬直性を分けて考えることが重要、と主張した。本書第3章のリソース・ベースト・ビュー(RBV)で紹介したように、企業は様々な経営資源(以下リソース)を持つ。従業員、技術、資金、ブランドなどがそれに当たる。一方で、ルーティンは繰り返される行動パターン、すなわち「仕事の仕方」(プロセス)の固まりだ。リソースもルーティンも企業内部にあるが、両者は似て非なるものだ。

 1990年代後半に、米新聞メディアにはIT化の波が急激に押し寄せた。これを受けて新聞各社は、いっせいにデジタル新聞の事業に乗り出し始めた。ギルバートは、新聞4社(主にローカル紙)が当時乗り出した計8つのデジタル新聞事業に対して51回の対面インタビュー、計11回の長時間電話インタビュー、24回にわたる社内会議などのイベントへの参加といった、詳細な調査分析を行った。

 そして、分析からギルバートが見いだしたのは、デジタル革命という大きな「脅威」に対して、ほとんどの新聞各社の対応に明確な共通点が見られたことだ。それは各社とも、「リソースは柔軟に振り分けられたのに、ルーティンが硬直化していたがゆえに、変化に対応できなかったこと」である。

戦略の本質
HBRセレクション
Read now
戦略の本質
 まず、各社ともデジタル新聞の部門を新たにつくり、その部門へ次第に大幅な予算と人員という「リソース」は振り分けるようになった。例えばある新聞社では、8カ月の間にデジタル新聞部門の人員を5人から40人に増員したし、別の新聞社ではデジタル部門への予算を2〜3年の間に4倍に増やした。このように、外部環境の脅威に対して、新聞各社はリソース配分という意味では、デジタル化の変化に対して素早く柔軟に対応したのである。

 しかし一方で、「仕事の進め方」すなわちルーティンは、そのまま「紙の新聞ビジネス」の仕事のやり方が、デジタル事業に硬直的に持ち込まれたのだ。

 結果、例えば各社のデジタル新聞の記事は100%、既存の新聞事業からの情報をそのまま回しただけになった。デジタルだからこそ有用なはずの、速報性を重視した第三者ソースからの記事などは、どのデジタル新聞でも採用されなかった。結果として各デジタル新聞ともPVは伸びず、苦境に陥ったのである。

 現時点で振り返れば、誰でも「紙メディアとデジタルメディアで仕事の仕方は大いに異なる」ことはわかっているだろう。しかし、1990年代後半当時は、まだデジタルへの不確実性が高い時代だ。この時代に大部分の企業は、新事業も既存のルーティンにそのまま依拠するという、硬直化した道を選んだのである※11。

ルーティンをつくり直せ

強い企業組織となるためにルーティンをつくり直せ
連載 入山章栄の『世界標準の経営理論』第45回
by 入山 章栄
2024.04.01
Tweet
Post
LINE
Share
Save
Print
ルーティンをつくり直せ
 ギルバートによると、この4社計8事業の中で唯一成功したパターンは、オンライン新聞事業を打ち立てた当初から、同事業を既存新聞事業とは完全に切り離した1ケースだけだった※12。この企業だけは、デジタル新聞部門を(紙媒体の)本社から切り離した独立組織にして、拠点も別地域に置いた。

 何よりこの新聞社だけは、デジタル新聞事業のトップを新聞業界の出身者ではなく、シリコンバレーのIT企業の出身者に任せたのである。このようにして、このデジタル新聞事業部門だけは、紙媒体とはまったく異なるルーティンをゼロからつくり直したのだ。結果として、デジタル部門だけは、例えば記事コンテンツの50%を新聞社以外の第三者のソースから依拠するようになった。

 このギルバートの研究結果は、今後デジタル革命など急速な外部変化の脅威に対応しなければならない既存の日本企業にも大いに示唆がある、と筆者は考える。ポイントは、デジタル化のような大きな事業環境の変化に対して、我々はどうしてもお金や人材といったリソースだけを、新分野に配分する傾向があることだ。一方で、変化を阻むのはリソースでなく、ルーティンなのである。

 例えば、いま注目されているフィンテックだ。既存の金融機関には大きな脅威となりうるフィンテック事業は、いま日本ではマネーフォワードやメタップスなどのIT系スタートアップ企業が先行して取り組んでいる。一方で現在は、大手銀行や証券会社でもフィンテック事業に取り組むところが出てきている。既存の大企業は資金・人材も潤沢で、スタートアップ企業には不可能な規模のリソースを注ぎ込むことも可能だ。

 しかし問題は、このような企業はリソースを柔軟に投入できても、ルーティンを変えるのが難しいことだ。結果、こうした従来の金融機関では、稟議書を回したりといった、従来の金融ビジネスのルーティンをそのまま移植する可能性がある。しかし、フィンテック事業の多くがITをベースに成り立つ以上、そのルーティンが金融業のそれと大きく異なっていると考えるべきだろう。

 この事態に対応する一つの道は、既存の金融機関がフィンテック(IT)のルーティンに適応することだ。しかしルーティンは、経路依存性があるから簡単に変えられない。したがって、ギルバートの研究で唯一成功したデジタル新聞事業のように、ルーティンをゼロベースからつくり直す覚悟が、必要になるのだ。

 進化する現場・組織をつくる上で、ルーティンは欠かせない。他方で大きな環境変化において、ルーティンは足かせともなる。ルーティンの理解は、変化・進化が求められるこれからの企業組織において、極めて欠かせないのである。

【動画で見る入山章栄の『世界標準の経営理論』】
認知心理学ベースの進化理論
リソース・ベースト・ビュー(RBV)
SCP対RBV、および競争の型

【著作紹介】

『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社)


世界の経営学では、複雑なビジネス・経営・組織のメカニズムを解き明かすために、「経営理論」が発展してきた。
その膨大な検証の蓄積から、「ビジネスの真理に肉薄している可能性が高い」として生き残ってきた「標準理論」とでも言うべきものが、約30ある。まさに世界の最高レベルの経営学者の、英知の結集である。これは、その標準理論を解放し、可能なかぎり網羅・体系的に、そして圧倒的なわかりやすさでまとめた史上初の書籍である。
本書は、大学生・(社会人)大学院生などには、初めて完全に体系化された「経営理論の教科書」となり、研究者には自身の専門以外の知見を得る「ガイドブック」となり、そしてビジネスパーソンには、ご自身の思考を深め、解放させる「軸」となるだろう。正解のない時代にこそ必要な「思考の軸」を、本書で得てほしい。

お買い求めはこちら
[Amazon.co.jp][紀伊國屋書店][楽天ブックス]

※10 Gilbert,C. G.2005. “Unbundling the Structure of Inertia: Resource Versus Routine Rigidity,” Academy of Management Journal, Vol. 48, pp.741-763.

※11 この論文の内容については、井上達彦『ブラックスワンの経営学』(日経BP社、2014年)で詳しく紹介されている。

※12 この企業が、第13章で成功例として取り上げたUSA Todayかは、論文に記載されていない。



1
2
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2024年04月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930