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2024年03月14日15:59

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イラク水滸伝 (文春e-book) 高野 秀行 文藝春秋 2023年07月26日

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p.231
ソマリランドでは氏族長は「スルダーン(スルタン=王)」という大層な名称で呼ばれるのとは裏腹に、実際には会議を開くときの議長くらいの権限しかなく、基本的に氏族の運営は長老と呼ばれる年配の人たちの合議制だ。スルタンは名誉職程度であり、だから私が自分の氏族長の名前を述べるなんてギャグも存在しないのである。
 ところがイラクでは氏族長の地位がびっくりするほど高い。現在でも何か事あればシェイフに相談するし、氏族間の揉め事もシェイフが話し合う。…氏族間の揉め事は長老たちが集団で解決にあたるソマリ人とは対照的だ。
 なぜ、同じような氏族社会なのに、これほど氏族長の地位に差があるのか。理由は「土地所有」である。ソマリ人、特にソマリランド人は「三代遡れば全員遊牧民」と言われるほど遊牧民の生活や気質がよく保存されている。遊牧民は誰もが財産として家畜をもつが土地は持たない。だから、氏族長といっても、他の人たちよりちょっと家畜の数が多い程度のちがいしかない。
 ところが、イラクではオスマン朝時代に遊牧民の多くが農耕民に移行していったうえ、十九世紀には、オスマン朝の政策により、多くのシェイフが地主になり、氏族民は小作人になってしまった。
p.242
なにしろ道具といえば、ジェッドゥーンと呼ばれる手斧、金槌、釘、ノコギリの四つしかないのだ。しかも釘は長さ五センチぐらいのもの一種類。ジェッドゥーンは万能の道具で、鑿やカンナ、金床の代わりにもなる。

 これは「ブリコラージュ」なのだ。ブリコラージュとはフランスの文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースが提唱した概念で、「あり合わせの材料を用いて自分でものを作ること」とか「その場しのぎの仕事」といった意味であり、文明社会の「エンジニアリング」と対称をなすとされる。
p.243
 例えばアフリカのコンゴの村の人たちは、きちんとした槍を作らず、槍の穂先だけ持ち歩くことがあった。必要な時はその辺に生えているヤシの枝を切って柄の代わりにする。…
 また、ミャンマーの山岳地帯に住む少数民族の人たちは、森の中で一夜を過ごすとき、竹や木、葉っぱなどを用いて、ものの三十分ほどで仮の小屋を作ってしまう。…

 ブリコラージュは素人仕事とバカにされがちだが、この舟造りを見ると考えも変わってくる。…でも、この方法なら、ある程度経験を積めば誰でも造れそうだ。
p.271
 ゲッサ・ブ・ゲッサとは直訳すれば「額と額」で、イラク方言では「交換」を意味するという。…つまり、等価のものを交換することで、ニュアンス的には日本語の「取り替えっこ」に近い感じがする。
 これをマアダンの人たちは「女性」で行うという。…
 同じ家同士で娘を交換したら婚資はいらない。プラスマイナスゼロだからだ。
p.298
綾織りはジーンズなどにも使われている斜めに織り込んでいく織り方だ。伸縮性があるから、この布地にいくら刺繍を施してもツレ(糸や布が引っ張られて歪むこと)が出ない。ただし、普通の綾織りではなく、「二飛び二飛びの綾織」と呼ばれる特殊な綾織りだという。
 もっと驚くべきは「綾織りに刺繍をする技法は他では見たことがないですね。古代の技法なのかもしれない」と榊さんが言ったこと。榊さんが知り合いの研究者に訊ねてみたところ、「シルクロードで漢代(紀元前三世紀〜紀元後三世紀)に栄えた王朝の遺跡で出土した毛織物に刺繍されたとおぼしき布があった」と教えてもらったという。その遺跡はタクラマカン砂漠南部(中国の新疆ウイグル自治区)にあるそうだ。
…でも今目の前の布をみていると、「幻の古代の技法」説も決して不思議でないように思えてしまう(唯一、インドのカシミールでマーシュアラブ布と同じ綾織りの毛織物の上に刺繍を施したものがあると後でわかった。それも相当古くからある技術らしい)。
p.314
 幅一メートルくらいの小さい水路は「ミシェシュ」、幅が二メートルくらいになり二隻のシャクトゥーラが余裕ですれ違えるほどになると「サベル」、サベルよりやや大きい水路が「ガヘン」、そして二車線から四車線の大通りほどの水路は「ガルマ」。
p.315
 他にもマアダンの人たちが葦の束を切り取ったあとの「切り株」みたいなものを「ドゥーラ」と呼ぶとか、フセイン政権が作った道路の跡を「カスレ」と呼ぶということも習った。
p.370
広大な遺跡は鉄条網で囲まれている。考古学者の小泉龍人氏によれば、二〇〇四年、サマーワに駐屯していた日本の自衛隊が地元の氏族と協力して建設したものだという。…自衛隊はそれを憂慮し、遺跡保護に一役買った。正確にいえば、自衛隊の活動費、自衛隊員の給料などは全て国民の税金から出ているから、私たち日本国民がウルク遺跡保全に協力したことになる。


■植村冒険賞に山田高司さんら4人=巨大湿地帯やヒマラヤ渓谷を探検
(時事通信社 - 02月16日 19:30)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=4&from=diary&id=7752830

 世界的冒険家の故植村直己さんの功績をたたえ創設された「植村直己冒険賞」の第28回受賞者が16日発表され、イラク南部の巨大湿地帯(アフワール)の文化などを調査した探検家、山田高司さん(65)=東京都=とノンフィクション作家、高野秀行さん(57)=同=ら計4人が選ばれた。

 山田さんと高野さんは、フセイン政権下、一時消滅させられた湿地帯を探検。4500年前に使われていた舟を再現したり、住民と交流したりして、途絶えた文化を記録にまとめた。

 田中さんと大西さんは約400メートルのロープを使い地上と谷底を行き来し、周辺の地層を調査。調査結果に基づき、針山のような地形が巨大地震によるものだったと判明した。

 授賞式は6月1日、植村さんの出身地の兵庫県豊岡市で開かれる。


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