‘80年代に『グッドモーニング・バビロン!』（監督：タヴィアーニ兄弟）という映画がありました。
https://www.youtube.com/watch?v=ufAbJbeI1eI
この作品で描かれているのは、『イントレランス』（Intolerance）という映画の製作の舞台裏です（当時の史実を基にしたフィクション）。
『イントレランス』は、いつの時代もイントレランス（不寛容）が世を覆っていたことを描き、人間の心の狭さを糾弾したD・W・グリフィス監督（米）による映画史に残る大作です（1916 モノクロ・サイレント）。
https://www.youtube.com/watch?v=IWlFLgZe6Gg
この作品では；
�ー匆颪良坿架討里燭瓠∪椎�が無実の罪で死刑宣告を受ける製作当時のアメリカ
��不寛容なパリサイ派のために起こったキリストの受難
��イシュタル信仰興隆に不寛容なベル教神官の裏切りでペルシャに滅ぼされるバビロン
�ぅ罐哀痢爾紡个敬坿架討塀ゞ祇�策によるフランスのサン・バルテルミの虐殺
の四つの時代が同時並列的に描かれており、最後には不寛容との闘いという点で共通する四つの時代があたかも融合・結集するかのようなスリリングな演出が施され、寛容の必要性を感動的に説く構成となっています。
中でも��のバビロン編については、グリフィスは1915年のサンフランシスコ万博に関わった腕利きの職人たちをどんどん連れてきて高さ90メートル・奥行き1200メートルにも及ぶ巨大な城塞のセットを組み立て、、、いや建設し、そこに2000人を超えるエキストラを配置して、その威容の俯瞰撮影を敢行しました（『グッドモーニング・バビロン!』に出てきたゾウの像もありますね）。
https://www.youtube.com/watch?v=TFOrfjUP5k8
発想としては、最近よく見るドローンによる俯瞰撮影と同じことをすでに百年以上前に前代未聞の巨大なセットを作って試みていたわけで、それだけでも、かなりすごいことなのですが、『イントレランス』にはこの他にも、大胆なクローズアップ等、当時としては野心的な試みが数多く見られます。それらの多くは今となっては当たり前のように見られるむしろ古くささえ感じられる撮影技法や演出ではありますが、百年以上前のことであったことを思うと、グリフィスがこの作品に懸けていた熱い思いが伝わってくるようです。
ただ、残念ながら、映画黎明期だった当時は、観客側の鑑賞眼がまだ十分に育っておらず、『イントレランス』は興行的には失敗しました。そのため、グリフィスは前述の巨大なセットを解体、撤去する費用さえ出すことができず、同セットはその後約10年もの間、ハリウッドに廃墟のように残ることとなりました。
なお、上掲の俯瞰シーンの撮影にあたり、グリフィスは当初は気球による撮影を考えていたようですが、うまくいかず、結局、ロープで上下できるエレベーターにカメラを乗せて撮影することとし、そのために、撮影現場では初めて建築現場やライブでよく見られる鉄パイプで作った仮設の組み立て足場を用いることにしました。
日本語的には「ふかんよう」（不寛容 “Intolerance”）という映画でふかんよう（俯瞰用）に作られた足場を使ったというわけで、作品そのものが持つインパクトの強烈さも手伝って、こうした足場は俗語では「イントレ」と呼ばれるようになりました（俗語といっても、Wikipediaでは、「イントレ」で検索可能です）。
ところで、なぜこんな百年以上も前の映画の話を長々と書いたかというと、今日が国際寛容デー(International Day for Tolerance)だからです。1995年の今日、ユネスコ総会で「寛容に関する原則の宣言」と「国連寛容年のためのフォローアップ計画」が採択されたことに因み、1996年12月の国連総会で制定された国際デーの一つということです。
その「寛容に関する原則の宣言」によれば、寛容を「豊かな多様性に富む世界の文化、表現の手段、人間としてのあり方を尊重し、受け入れ、享受すること」と定義しています。
まぁそうだろうなとは思うのですが、このところのイスラエルやウクライナをはじめ、世界のあちこちで起こっている不寛容がもたらす悲劇に毎日のように接していると、こんなことを説かれても、もはや皮肉を通り越して虚しさしか感じません。
もっとも、それは何もしなくてもいいということでもないでしょう。
不寛容は今に始まった話ではなく、残念ながら恐ろしく昔から人類に悲劇をもたらしてきたものであり、それだけに解決が難しいものと言えます。そのことを再認識し、あらためて寛容の大切さをこの百年以上も前の映画で確認しておくことは、決して無駄なことではないと思います。
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