mixiユーザー(id:32437106)
2023年10月29日23:59
399 view
トルコ共和国建国100年の日(2023年10月29日）、初代大統領ケマル・アタチュルク、現12代目エルドアン大統領 インフレ トルコ・シリア地震 クルド人問題
 |
 |
目次
・第1章 ケマル・アタチュルクの功績
・第2章 クルド人問題 21世紀の歩み
・第3章 NATOの異端児として
2021年11月10日付 アルメニアとアゼルバイジャンの歴史 前編
https:/
2021年12月25日付 後編）
https:/
10月29日、本日はヨーロッパとアジアの2大陸を繋ぐ、トルコ共和国が建国されて100年である。今回建国の父と呼ばれるケマル・アタチュルクの功績から、現在12代目となるエルドアン大統領の功績を比較しながら、建国100年の現状を探る。
写真＝トルコの地図 掲載元 旅行のとも Zen Tech https:/
第1章 ケマル・アタチュルクの功績
700年に渡り、イスラム国家として繁栄したオスマン帝国の後継となるトルコ共和国は、建国100年を迎えた。帝政を廃止し、女性への参政権をいち早く認めた。初代の大統領は、議会から選ばれた1881年生まれのケマル・アタチュルクだった。第一次大戦の敗戦より、将来に不安を抱くトルコ国民の希望の星となった。建国後、古い慣習を捨てて、西欧の文化を持ち込んだ。1924年2月に、カリフ（宗教的指導者）を廃止し、1937年に政教分離国家と宣言した。また建国以来イスラム教徒が中心の国家ながら、シャーリア（法典）を無視して、新憲法を制定する。よりヨーロッパとの関係を強めるため、公式文書にアルファベットを採用した。
ケマル・アタチュルクの大胆な改革により、国民の自由度は高くなった。100年後の今なおトルコの英雄であるとはいえ、民族間の軋轢により、後世に禍根を残した。
彼自身は、前身のオスマン帝国が加わった第一次世界大戦において、海軍の指揮官として奮闘した。1914年に勃発した大戦は、翌15年1月からオスマン帝国も加わった。ケマル・アタチュルク自身は、1915年にエーゲ海から上陸を試みる大英帝国と対峙した。15年4月に、ガリポリの戦いで、オスマンの海軍を指揮し、英仏連合軍を退散に追い込んだことにより、国土の荒廃は免れた。敗戦国でありながら、軍人として功績は認められ、出生街道に載った。文武の高官に与えられるパシャの称号を得た。結果的にオスマン帝国は、ドイツ帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、ブルガリア帝国と共に敗戦国として、領土割譲を含め、戦勝国から裁き受けたのである。
以下 写真 掲載元 TURKISH CULTURE CLUB 2023年4月5日付けhttps:/
ケマル・パシャ ガリポリの戦い 風刺画
イスタンブールにある帝国政府は、1918年10月30日に、領土割譲を盛り込んだ降伏文書にサインした。
弱腰な帝政政府に反旗を翻したのは、アンカラに拠点を構えた大国民議会だった。指揮をとるのは、敗戦国でありながら、国土防衛により、評価を高めたケマル・アタチュルクだった。1919年5月に、オスマン領のイズミルに上陸したギリシャに対して、武力で持って立ち上がる。イギリスの後ろ盾を得たギリシャに、ケマルは屈指なかった。領有権を巡って「ギリシャ＝トルコ戦争」が始まった。ケマルのゲリラ戦が効を奏して、戦いで優勢に立つ。
一方2020年8月、オスマン政府は、連合国側とセーブル条約を結び、大部分の領土箒を迫られた。オスマンが治めていたアラブ地域、現在のシリア、レバノン、イラク、ヨルダン、イスラエルの土地はイギリスとフランスの委任統治領となる。
ケマルが率いるアンカラに本拠地を置く大国民議会政府は、ギリシャとの戦いを続けた。トルコ国民も英仏に及び腰のオスマン政府への信頼を亡くしたことにより、アンカラ政府を応援する。21年サカリャ川の戦いで、ギリシャ軍を破り、22年にイズミルの奪還に成功した。22年11月17日に、オスマンの第33代スルタンであるメフメト6世が亡命すると、実質アンカラ政府が権力を握った。
23年7月29日に、アンカラ政府は、新たに英仏とローザンヌ条約を締結し、イズミルの奪還を認められた。国民の圧倒的な支持により、大国民議会から、ケマル＝アタチュルクは、初代大統領に選出される。1923年10月29日に、トルコ共和国の樹立を宣言した。
シャーリアを廃棄したことにより、西欧からも受け入れられ、アラブ諸国との橋渡しの役目を担った。戦勝国に対して弱腰だったオスマン政府とは対照的に、ケマルは対等に渡り合っていた。
1920年7月にオスマン政府と連合国が結んだセーブル条約と、23年7月29日の大国民議会と連合国の間で交わされたローザンヌ条約では、一つの民族問題が無視された。
21世紀も続く、国家を持たない最大の民族クルド人である。セーブル条約では、クルド人の自治区が制定されていたものの、新たにローザンヌ条約で取り消されたのである。建国当初からトルコ内では、クルド人との間で、民族の違いから度々争いが起きていた。
第2章 クルド人問題 21世紀の歩み
3000万の人口規模を持つクルド人は、国家を持てず、迫害を恐れて、それぞれ民族に理解のある国へと散らばった。日本国内では、埼玉県南部の蕨市を中心に、2000人が暮らす。単一民族としてまとまった居住区は、イラン、イラク、シリア、トルコの4カ国に跨る。クルディスタンと呼ばれる地域にて、互いに情報を共有し、時にゲリラとなって襲い掛かる。4カ国で少数派のクルド人は、自らの権利をそれぞれの国の政府に訴えた。21世紀になっても、特別な地位は認められていない。
写真＝クルディスタンの地図 掲載元 世界史の窓クルディスタンより
https:/
一度だけ、クルド人単一の国家が出来たことがある。第2次世界大戦後の1946年１月、ソヴィエト連邦の後押しにより、イラン北西部マハバードを首都とする「クルディスタン共和国」を樹立した。同年12月に、ソ連の駐留舞台の撤退に伴い、イラン政府によって潰され、政府は解散させられた。
トルコ共和国では、クルド人による事件が度々起きている。2023年10月1日に、トルコ内務省で起きた爆発事件に関して、クルディスタン労働党（PKK）が犯行声明を出した。反政府活動を展開するPKKを、トルコ政府は厳しく取り締まった。直ちに報復に出て、PKKの拠点20箇所を空爆した。
2014年8月28日に第12代大統領に就任したエルドアンは、クルド人への弾圧を強める。2001年に自身が属する「公正発展党」の結党時からのメンバーで、ハマスの支持母体ムスリム同胞団との結びつきが強い。イスラム色が強いとはいえ、民衆の支持を得るべく、女性の権利を尊重する。
2003年3月14日に、首相に就任して、実験を握っていた。大統領の座について、早速権力基盤を強化する。2017年4月16日に、議院内閣制から大統領制への移行の是非を問う国民投票を実施した。賛成派が51.41％、反対派が48.59％となり、国家の重要事項について、大統領に決定権が与えられた。2016年7月15日にクーデター未遂事件が起こったことにより、自らの立場を磐石なものにする必要があったのである。当時軍人の一部が、打倒エルドアンを掲げて、反乱を起こしていた。事件は金曜日のイスタンブールで発生し、軍事衝突により、290人の命が失った。新憲法草案によると、大統領は5年が1期となり、2期まで務めることができる。閣僚を含め、直接役人の任命権を持つ。首相職は廃止され、司法介入も可能になった。国家非常事態宣言を発令することもできる。
彼の野望は、帝政時代の再建だった。歴代のスルタンのように、権勢を奮い、トルコ民族を中心とした内閣を結成する。国内で少数派のクルド人は、阻害されていた。一部のクルド人が、自治権を求めて、過激な行動に出ることにより、エルドアンは鎮圧部隊を派遣する。2023年10月5日には、国境を跨ぎ、シリア北東部のクルディスタンと呼ばれる地域の軍事施設をターゲットに空爆を続けることを宣言した。ウクライナ問題において、ロシアとパイプ役になる唯一の存在として、欧米から重宝されていた。人権を無視して、クルディスタンへ軍事行動に出ても、見逃されているのである。奇しくも2日後の10月7日には、中東で大きな衝突が起きた。パレスチナのガザ地区の実権を握るイスラム原理主義政党ハマスが、イスラエルに対して、武力攻撃を仕掛けたのである。イスラエル軍が、過去にない規模での空爆を続け、報復の度合いを強めることにより、トルコのクルド人問題は、言及されなくなった。エルドアン大統領は、翌日に建国100年記念日を控えた9月28日に、イスタンブールでの反イスラエル集会に参加した。彼は、ハマスはテロ組織ではなく、「イスラエルは戦争犯罪国家」と糾弾した。
詳細 読売新聞 https:/
武力衝突が起きた10月8日、トルコは、2国共存に向けて、ハマスとイスラエルの仲介役になると、国際社会にアピールしていたのである。ロシアとウクライナを巡る争いにおいても、仲介役を買って出ていた。
2022年7月29日には、ロシアとウクライナの間に入り、黒海を通して、穀物の輸送ルートを確保した。両国の代表団が「黒海イニシアティブ」と名づけられた合意文書にサインする。両軍とも穀物の輸送基地となる港を攻撃しないことを誓ったのである。期限付きで輸送が再開されたものの、1年後の2023年7月18日の3度目の更新期限を持って、停止した。今ウクライナ産穀物は、隣国のポーランドやスロバキアなど陸路で輸送されている。
2023年5月14日、エルドアン大統領の信任を問う大統領選挙が行われた。エルドアン大統領は、全方位外交により、ロシアや中国と、西欧との間を取り持ってきた。一方で通貨安によるインフレを放置している現状がある。宗教面においては、帝政時代に回帰していた。2020年7月10日、コロナの感染拡大により、国民の間で不満がくすぶる中、大胆な改革を行った。キリスト教のビサンツ帝国の遺産となるイスタンブールのアヤソフィアを博物館からイスラム教のモスクへ変更すると宣言したのである。6世紀に、ローマ帝国の再建を目指したユスティリアヌス大帝が、東方正教会の聖堂として建設した。1453年に時のスルタンであるメフメト二世が、アヤソフィアをモスクに変えたのである。複雑な歴史を辿ったアヤソフィアは、西欧のキリスト教徒に配慮して、1934年にケマル・アタチュルクが、博物館に制定していた。1985年にイスタンブールの歴史地域の一つとして世界遺産に登録された。一方的にエルドアンが、博物館からイスラム教のモスクへ変更したことにより、キリスト教徒から批判の声が上がっている。トルコ議会においては野党から反発にあったとはいえ、全く耳を傾けようとしない。2020年7月24日に最初の礼拝を行うと予告した。
詳細 写真掲載元 アヤソフィアをモスクへ BBC NEWS 2023年7月11日付
https:/
西欧諸国から独裁者ともみられているエルドアンを大統領の座から引きずり下ろすべく、野党は協力する。
決選投票では、野党が一丸となって、反政府派のクルチダルオール氏を推薦する。大統領制から「議院内閣制」に戻し、「三権分立」の確立を公約に掲げた。事実上現職のエルドアン氏と一騎打ちになった。トルコの政府系の通信社アナトリア通信によると、開票率99.85％の時点で得票率はエルドアン氏の52.16％に対して、クルチダルオール氏は47.84％だった。
写真 掲載元 NHK NEWS 2023年5月28日付 https:/
左側エルドアン氏 右側クルチダルオール氏
再選したエルドアンは、勝利宣言をし、通貨安に伴う悪性インフレに向き合う。選挙戦前まで。通貨の発行権がある中央銀行に対して、利下げを要求し、実質インフレを放置していた。
給料以上に物価が上がることにより、住居費の高騰が、国民生活に重くのしかかる。
２０２３年２月６日に、トルコ南東部からシリアにかけて被害が大きかった「トルコ・シリア地震」では、物価高に苦しむ低所得者層を中心に、生活の基盤を失った。高所得者が住む地区は、耐震設計が施されたことにより、倒壊被害は少なかったのである。一方で、家賃を抑えるため、比較的販売価格が安い分譲住宅や家賃が低く抑えられている賃貸マンションは、軒並み倒壊した。地震の規模を示すマグニチュードは7,8、震源の深さはわずか17km、本震から３ヵ月後の５月５日まで、トルコとシリアの両国で、死者５万5000人確認されている。
詳細 トルコ・シリア地震 https:/
破壊された町の復興計画は進んでいない。通貨安に伴うインフレを抑えない限り、資材の調達さえ難しく、復興の目処がたたないのである。
トルコ統計局は2023年10月3日、9月の消費者物価指数（CPI）上昇率が、前年同月比61.5%だったと発表した。 8月の58.9%からインフレがさらに加速した。 政府は2023年末時点で65%を見込んでいる。
通貨リラの発行権があるトルコ中央銀行は、2023年6月22日、政策金利を現行の8,5％から15％へと引き上げた。エルドアン氏は、大統領選挙戦で、インフレ抑制策を打つことにより、クルチダルオール氏の支持層の不満を和らげる狙いがある。トルコ中央銀行は、21年9月に、景気回復を図り、政策金利を19％から8,5％まで段階的に下げていた。したがって、2年ぶりに利上げ政策へ戻したのである。
写真 掲載元 不明
エルドアンは、国際的に通貨リラの信用度の低下によるスタグネーションに見舞われても、抑え込む手立てがない。国内の少数民族クルド人に対して、締め付け策を強化し、トルコ民族中心の国家として歩んでいる。
第3章 NATOの異端児として
トルコは、NATO加盟国でありながら、ロシアや中国との交流関係を築き、全方位外交を展開する。ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻に対して、仲介役に名乗りを上げた。2022年3月30日には、同国にウクライナとロシアの代表団を招き、停戦協議を主催した。結果的に直後の4月4日、キーウ州ブチャにて、民間人の虐殺が明るみにでると、ウクライナは、ロシアに折り合えなくなった。停戦協議自身は、オンラインを含め一切行われていない。地理的に両国に近接するトルコは、地中海と黒海を繋ぐ海峡の通航権を持つ。両国の貿易に関して、トルコが鍵を握っている。
2022年3月6日、ロシア軍によるウクライナ侵攻に関して、国連の非難決議で、NATO諸国と足並みを合わせて、賛成した。経済制裁に関しては、参加していない。対外戦争において、協調介入する。2011年のアラブの春から続くシリア内戦で、ロシアをバックにするアサド政権に対して、反政府勢力を支援する。外国勢力の介入により、戦況は複雑化することにより、長引いた。2019年10月9日、混乱に乗じて、トルコはシリア領内の北西部クルディスタンに侵攻し、武力制圧を試みた。テロリストに指定しているクルド人民兵組織「人民防衛部隊（YPG）」を、国境地域から完全に排除して「安全地帯」を確保する狙いがあった。YPGの脅威を取り除いたうえで、シリア難民を受け入れる考えを表明していた。クルド人のYPGは、自治権の確保と引き換えに、アメリカの支援を受けて、IS（イスラム国）の掃討作戦に貢献したのである。アメリカの軍事作戦に協力しながら、当時のトランプ政権に見放された。トランプ大統領は、翌2020年の大統領選挙戦に備えて、他国の争いへの関与を避けたかった。アメリカ軍兵士の犠牲者が多くなると、国民の支持を失いかねない。駐留する費用も惜しみ、クルディスタンから米軍の撤退を命じたのである。アメリカの後ろ盾を失ったことにより、自治権を主張するYPGは、トルコの攻撃により、駆逐されたのである。トルコの軍事行動により、家を追われた避難民は21万5,000人にのぼり、うち約８万7,000人が子どもとされている。一連のトルコ軍の侵略行為は、反アサド支援で一致したアメリカの反感をかい、同盟関係に亀裂が生じたのである。
写真＝トルコが2019年に主張した緩衝地帯を示した地図 掲載元 Dialogue People
https:/
アメリカの大統領選挙戦の結果、共和党のトランプ氏から民主党のバイデン氏に代わって以降も、改善されなかった。人権を重んじる民主党を代表する立場上、バイデン大統領は、強権的なエルドアン体制を厳しい目で見ていた。2021年4月25日には、帝政オスマン時代、アルメニア人の砂漠への強制移住政策を「ジェノサイド（特定民族の弾圧行為）」と認定したことにより、トルコから反感をかった。現にトルコは、新たな軍事同盟を確保するべく、ロシアから地対空ミサイル「S400」を配備していた。2019年のシリア北西部のクルディスタンへの侵攻に対して、アメリカは強く非難していたのである。
詳細 東京新聞 2021年4月25日付 https:/
バイデン政権は、NATO加盟国のトルコと歩み寄れなかった。それでも中東地域やロシアや中国との緊張緩和のため、程よい距離を保ちながら、関係維持に努めた。
トルコは、時にNATOの異端児として、重要法案を決める際、反対意見を出す。現に2022年5月に加盟を申請したフィンランドとスウェーデンに対して、難色を示していた。両国は、エルドアン政権が敵対するクルディスタン労働党員を匿っているとみられている。2022年6月28日に、NATO加盟30カ国の首脳と、申請手続きを踏んだフィンランドとスウェーデンの首脳が、スペインの首都マドリードで行われた会議に参加した。トルコ側は、既にスウェーデンの代表団とは、5月25日に首都アンカラで顔を合わせている。
NATO加盟には全会一致が原則である。リーダー格がアメリカである以上、トルコ一カ国のみ抵抗を続けると、他の加盟国から阻害される現状がある。そこでトルコは、スウェーデンとフィンランドの加盟条件を3つ突きつけた。
▽フィンランドとスウェーデン（以下2か国）はクルディスタン労働党（PKK）を非合法のテロ組織と確認
▽2か国はテロ容疑者の身柄引き渡し要請に迅速かつ十分に対応する
▽身柄引き渡しのための法的枠組みを整備する
スウェーデンとフィンランドの両国の代表団は、トルコが作成した覚書に署名した。マドリードでのNATO首脳会談の翌6月29日に両国がNATOに加盟するための決議を行い、加盟国内での批准手続きに移る。
詳細 国際ニュースナビ 2022年7月4日付 https:/
スウェーデンとトルコは、両国揃っての加盟を目指していた。フィンランドは、覚書に倣い、クルド人過激派を検挙して、強制的に国外へ退去させる。対して、人道的配慮から、スウェーデンは、実行を躊躇った。トルコの信頼を損なう出来事は、もう一つあった。2022年9月11日のスウェーデンの国会議員選挙戦にて、右派4党が、現政権の左派3連合に勝利したことにある。開票率99％の時点で、右派勢力は176議席、対して左派勢力は173議席だった。僅差で勝利した右派連合において最も支持を集めた民主党は、極右団体「ノルディック抵抗運動（NRM)との関連性が指摘されていた。NRMの党員の一人は、2017年にイエーテボリの爆弾テロに関わった容疑で、警察当局から逮捕されていた。国内外からNRMは、過激派とのイメージが植えつけられている。移民排斥運動により、右派・民主党とNRMは足並みをそろえている。2022年の選挙戦の結果、左派の支持層の不満を和らげるため、首相の座には、中道右派の穏健党のクリステンソン氏が選ばれた。
写真＝ウルフ・クリステン首相 掲載元 BBC NEWS 2022年9月15日付
https:/
トルコ議会は、NATO加盟手続きを踏むスウェーデンの選挙戦の行方を注視していた。新たに政権が右派連合に変わったことにより、態度を硬化した。第一党となった右派・民主党とNRMがひそかに繋がっているのではないか、と疑っているのである。テロ支援するNRMと関係する団体は支持できない。他にもトルコ議会の信頼を失う事態が起きた。2022年6月28日のマドリードでの首脳会談後、スウェーデン国内では、イスラムのコーランを燃やす事件があった。トルコとの間で交わされたクルド人テロ組織の身柄を引き渡すとの約束に抗議の意味がこめられていた。
2022年6月28日ののマドリードでの会議以降、トルコとスウェーデンの関係は改善されなかったのである。トルコ議会は、2023年3月31日に、フィンランドのNATO加盟を承認する決議を採択した。加盟30カ国全会一致により、2023年4月4日に、フィンランドは31番目の加盟国として、ベルギーの首都ブリュッセルにあるNATO本部にて、国旗が掲げられた。丁度フィンランドでは、4年に1度の国会議員の選挙戦の最中だった。国会議員とは立場が異なるサウリ・ニーニスト大統領、ただ一人出席した。
写真＝サウリ・ニーニスト大統領 掲載元 2023年4月5日付 NHK NEWS https:/
詳細 スウェーデンの2022年9月の選挙戦について Yahoo 2023年4月1日付
https:/
トルコは、加盟国の権利として、拒否権を発動して、自国に有利な政策を引き出す。独自にテロ組織に指定するクルディスタン労働党員への対応について、フィンランドとスウェーデンは苦慮していた。クルド人の弾圧行為は、加盟国から非難されながら、ロシアと中国との関係を取り持つため、人権問題としての追求を免れている。経済面においては、アメリカとの間で軋轢が生じていた。
以下 引用文 詳細 トルコとUAEの企業への制裁について 読売オンライン 2023年10月13日付
https:/
2023年10月12日、米財務省は、ロシア産の原油輸入額の上限規制に反して取引したトルコとUAEの企業に、経済制裁を下した。Ｇ７と欧州連合（ＥＵ）、豪州は昨年１２月、ロシアの収入減少や世界的なエネルギー価格の高騰防止を図るため、ロシア産原油に１バレルあたり６０ドルの上限価格を設ける追加制裁を発動した。上限を超える原油の取引については船舶保険を引き受けないよう欧米の保険会社に義務づけていた。
財務省によると、ＵＡＥの企業が持つ船舶は１バレル＝７５ドル超、トルコの企業が持つ船舶は１バレル＝８０ドル超でそれぞれロシアの港からロシア産原油を輸送していた。いずれも米国のサービスを利用していた。
Ｇ７とＥＵ、豪州は同日、モロッコで開催されたＧ７財務相・中央銀行総裁会議に合わせて、海運業界などに対して価格上限の措置を順守するよう強く求める勧告を発表。声明では「価格上限の順守を強化する米国の取り組みを支持する」と強調した。
＜引用終わり＞
トルコは、イスラム国家の中で、いち早く政教分離国家を宣言し、西欧のキリスト教の国々と外交関係を築いた。建国から100年が立ち、今西欧とロシアの橋渡しとして、期待されている。
関連日記
� �NATO加盟申請について
2022年5月14日付 https:/
�◆．好ΕА璽妊鵑領鮖法〃�国500周年記念
2023年6月6日付 https:/
・第1章 ケマル・アタチュルクの功績
・第2章 クルド人問題 21世紀の歩み
・第3章 NATOの異端児として
2021年11月10日付 アルメニアとアゼルバイジャンの歴史 前編
https:/
2021年12月25日付 後編）
https:/
10月29日、本日はヨーロッパとアジアの2大陸を繋ぐ、トルコ共和国が建国されて100年である。今回建国の父と呼ばれるケマル・アタチュルクの功績から、現在12代目となるエルドアン大統領の功績を比較しながら、建国100年の現状を探る。
写真＝トルコの地図 掲載元 旅行のとも Zen Tech https:/
第1章 ケマル・アタチュルクの功績
700年に渡り、イスラム国家として繁栄したオスマン帝国の後継となるトルコ共和国は、建国100年を迎えた。帝政を廃止し、女性への参政権をいち早く認めた。初代の大統領は、議会から選ばれた1881年生まれのケマル・アタチュルクだった。第一次大戦の敗戦より、将来に不安を抱くトルコ国民の希望の星となった。建国後、古い慣習を捨てて、西欧の文化を持ち込んだ。1924年2月に、カリフ（宗教的指導者）を廃止し、1937年に政教分離国家と宣言した。また建国以来イスラム教徒が中心の国家ながら、シャーリア（法典）を無視して、新憲法を制定する。よりヨーロッパとの関係を強めるため、公式文書にアルファベットを採用した。
ケマル・アタチュルクの大胆な改革により、国民の自由度は高くなった。100年後の今なおトルコの英雄であるとはいえ、民族間の軋轢により、後世に禍根を残した。
彼自身は、前身のオスマン帝国が加わった第一次世界大戦において、海軍の指揮官として奮闘した。1914年に勃発した大戦は、翌15年1月からオスマン帝国も加わった。ケマル・アタチュルク自身は、1915年にエーゲ海から上陸を試みる大英帝国と対峙した。15年4月に、ガリポリの戦いで、オスマンの海軍を指揮し、英仏連合軍を退散に追い込んだことにより、国土の荒廃は免れた。敗戦国でありながら、軍人として功績は認められ、出生街道に載った。文武の高官に与えられるパシャの称号を得た。結果的にオスマン帝国は、ドイツ帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、ブルガリア帝国と共に敗戦国として、領土割譲を含め、戦勝国から裁き受けたのである。
以下 写真 掲載元 TURKISH CULTURE CLUB 2023年4月5日付けhttps:/
ケマル・パシャ ガリポリの戦い 風刺画
イスタンブールにある帝国政府は、1918年10月30日に、領土割譲を盛り込んだ降伏文書にサインした。
弱腰な帝政政府に反旗を翻したのは、アンカラに拠点を構えた大国民議会だった。指揮をとるのは、敗戦国でありながら、国土防衛により、評価を高めたケマル・アタチュルクだった。1919年5月に、オスマン領のイズミルに上陸したギリシャに対して、武力で持って立ち上がる。イギリスの後ろ盾を得たギリシャに、ケマルは屈指なかった。領有権を巡って「ギリシャ＝トルコ戦争」が始まった。ケマルのゲリラ戦が効を奏して、戦いで優勢に立つ。
一方2020年8月、オスマン政府は、連合国側とセーブル条約を結び、大部分の領土箒を迫られた。オスマンが治めていたアラブ地域、現在のシリア、レバノン、イラク、ヨルダン、イスラエルの土地はイギリスとフランスの委任統治領となる。
ケマルが率いるアンカラに本拠地を置く大国民議会政府は、ギリシャとの戦いを続けた。トルコ国民も英仏に及び腰のオスマン政府への信頼を亡くしたことにより、アンカラ政府を応援する。21年サカリャ川の戦いで、ギリシャ軍を破り、22年にイズミルの奪還に成功した。22年11月17日に、オスマンの第33代スルタンであるメフメト6世が亡命すると、実質アンカラ政府が権力を握った。
23年7月29日に、アンカラ政府は、新たに英仏とローザンヌ条約を締結し、イズミルの奪還を認められた。国民の圧倒的な支持により、大国民議会から、ケマル＝アタチュルクは、初代大統領に選出される。1923年10月29日に、トルコ共和国の樹立を宣言した。
シャーリアを廃棄したことにより、西欧からも受け入れられ、アラブ諸国との橋渡しの役目を担った。戦勝国に対して弱腰だったオスマン政府とは対照的に、ケマルは対等に渡り合っていた。
1920年7月にオスマン政府と連合国が結んだセーブル条約と、23年7月29日の大国民議会と連合国の間で交わされたローザンヌ条約では、一つの民族問題が無視された。
21世紀も続く、国家を持たない最大の民族クルド人である。セーブル条約では、クルド人の自治区が制定されていたものの、新たにローザンヌ条約で取り消されたのである。建国当初からトルコ内では、クルド人との間で、民族の違いから度々争いが起きていた。
第2章 クルド人問題 21世紀の歩み
3000万の人口規模を持つクルド人は、国家を持てず、迫害を恐れて、それぞれ民族に理解のある国へと散らばった。日本国内では、埼玉県南部の蕨市を中心に、2000人が暮らす。単一民族としてまとまった居住区は、イラン、イラク、シリア、トルコの4カ国に跨る。クルディスタンと呼ばれる地域にて、互いに情報を共有し、時にゲリラとなって襲い掛かる。4カ国で少数派のクルド人は、自らの権利をそれぞれの国の政府に訴えた。21世紀になっても、特別な地位は認められていない。
写真＝クルディスタンの地図 掲載元 世界史の窓クルディスタンより
https:/
一度だけ、クルド人単一の国家が出来たことがある。第2次世界大戦後の1946年１月、ソヴィエト連邦の後押しにより、イラン北西部マハバードを首都とする「クルディスタン共和国」を樹立した。同年12月に、ソ連の駐留舞台の撤退に伴い、イラン政府によって潰され、政府は解散させられた。
トルコ共和国では、クルド人による事件が度々起きている。2023年10月1日に、トルコ内務省で起きた爆発事件に関して、クルディスタン労働党（PKK）が犯行声明を出した。反政府活動を展開するPKKを、トルコ政府は厳しく取り締まった。直ちに報復に出て、PKKの拠点20箇所を空爆した。
2014年8月28日に第12代大統領に就任したエルドアンは、クルド人への弾圧を強める。2001年に自身が属する「公正発展党」の結党時からのメンバーで、ハマスの支持母体ムスリム同胞団との結びつきが強い。イスラム色が強いとはいえ、民衆の支持を得るべく、女性の権利を尊重する。
2003年3月14日に、首相に就任して、実験を握っていた。大統領の座について、早速権力基盤を強化する。2017年4月16日に、議院内閣制から大統領制への移行の是非を問う国民投票を実施した。賛成派が51.41％、反対派が48.59％となり、国家の重要事項について、大統領に決定権が与えられた。2016年7月15日にクーデター未遂事件が起こったことにより、自らの立場を磐石なものにする必要があったのである。当時軍人の一部が、打倒エルドアンを掲げて、反乱を起こしていた。事件は金曜日のイスタンブールで発生し、軍事衝突により、290人の命が失った。新憲法草案によると、大統領は5年が1期となり、2期まで務めることができる。閣僚を含め、直接役人の任命権を持つ。首相職は廃止され、司法介入も可能になった。国家非常事態宣言を発令することもできる。
彼の野望は、帝政時代の再建だった。歴代のスルタンのように、権勢を奮い、トルコ民族を中心とした内閣を結成する。国内で少数派のクルド人は、阻害されていた。一部のクルド人が、自治権を求めて、過激な行動に出ることにより、エルドアンは鎮圧部隊を派遣する。2023年10月5日には、国境を跨ぎ、シリア北東部のクルディスタンと呼ばれる地域の軍事施設をターゲットに空爆を続けることを宣言した。ウクライナ問題において、ロシアとパイプ役になる唯一の存在として、欧米から重宝されていた。人権を無視して、クルディスタンへ軍事行動に出ても、見逃されているのである。奇しくも2日後の10月7日には、中東で大きな衝突が起きた。パレスチナのガザ地区の実権を握るイスラム原理主義政党ハマスが、イスラエルに対して、武力攻撃を仕掛けたのである。イスラエル軍が、過去にない規模での空爆を続け、報復の度合いを強めることにより、トルコのクルド人問題は、言及されなくなった。エルドアン大統領は、翌日に建国100年記念日を控えた9月28日に、イスタンブールでの反イスラエル集会に参加した。彼は、ハマスはテロ組織ではなく、「イスラエルは戦争犯罪国家」と糾弾した。
詳細 読売新聞 https:/
武力衝突が起きた10月8日、トルコは、2国共存に向けて、ハマスとイスラエルの仲介役になると、国際社会にアピールしていたのである。ロシアとウクライナを巡る争いにおいても、仲介役を買って出ていた。
2022年7月29日には、ロシアとウクライナの間に入り、黒海を通して、穀物の輸送ルートを確保した。両国の代表団が「黒海イニシアティブ」と名づけられた合意文書にサインする。両軍とも穀物の輸送基地となる港を攻撃しないことを誓ったのである。期限付きで輸送が再開されたものの、1年後の2023年7月18日の3度目の更新期限を持って、停止した。今ウクライナ産穀物は、隣国のポーランドやスロバキアなど陸路で輸送されている。
2023年5月14日、エルドアン大統領の信任を問う大統領選挙が行われた。エルドアン大統領は、全方位外交により、ロシアや中国と、西欧との間を取り持ってきた。一方で通貨安によるインフレを放置している現状がある。宗教面においては、帝政時代に回帰していた。2020年7月10日、コロナの感染拡大により、国民の間で不満がくすぶる中、大胆な改革を行った。キリスト教のビサンツ帝国の遺産となるイスタンブールのアヤソフィアを博物館からイスラム教のモスクへ変更すると宣言したのである。6世紀に、ローマ帝国の再建を目指したユスティリアヌス大帝が、東方正教会の聖堂として建設した。1453年に時のスルタンであるメフメト二世が、アヤソフィアをモスクに変えたのである。複雑な歴史を辿ったアヤソフィアは、西欧のキリスト教徒に配慮して、1934年にケマル・アタチュルクが、博物館に制定していた。1985年にイスタンブールの歴史地域の一つとして世界遺産に登録された。一方的にエルドアンが、博物館からイスラム教のモスクへ変更したことにより、キリスト教徒から批判の声が上がっている。トルコ議会においては野党から反発にあったとはいえ、全く耳を傾けようとしない。2020年7月24日に最初の礼拝を行うと予告した。
詳細 写真掲載元 アヤソフィアをモスクへ BBC NEWS 2023年7月11日付
https:/
西欧諸国から独裁者ともみられているエルドアンを大統領の座から引きずり下ろすべく、野党は協力する。
決選投票では、野党が一丸となって、反政府派のクルチダルオール氏を推薦する。大統領制から「議院内閣制」に戻し、「三権分立」の確立を公約に掲げた。事実上現職のエルドアン氏と一騎打ちになった。トルコの政府系の通信社アナトリア通信によると、開票率99.85％の時点で得票率はエルドアン氏の52.16％に対して、クルチダルオール氏は47.84％だった。
写真 掲載元 NHK NEWS 2023年5月28日付 https:/
左側エルドアン氏 右側クルチダルオール氏
再選したエルドアンは、勝利宣言をし、通貨安に伴う悪性インフレに向き合う。選挙戦前まで。通貨の発行権がある中央銀行に対して、利下げを要求し、実質インフレを放置していた。
給料以上に物価が上がることにより、住居費の高騰が、国民生活に重くのしかかる。
２０２３年２月６日に、トルコ南東部からシリアにかけて被害が大きかった「トルコ・シリア地震」では、物価高に苦しむ低所得者層を中心に、生活の基盤を失った。高所得者が住む地区は、耐震設計が施されたことにより、倒壊被害は少なかったのである。一方で、家賃を抑えるため、比較的販売価格が安い分譲住宅や家賃が低く抑えられている賃貸マンションは、軒並み倒壊した。地震の規模を示すマグニチュードは7,8、震源の深さはわずか17km、本震から３ヵ月後の５月５日まで、トルコとシリアの両国で、死者５万5000人確認されている。
詳細 トルコ・シリア地震 https:/
破壊された町の復興計画は進んでいない。通貨安に伴うインフレを抑えない限り、資材の調達さえ難しく、復興の目処がたたないのである。
トルコ統計局は2023年10月3日、9月の消費者物価指数（CPI）上昇率が、前年同月比61.5%だったと発表した。 8月の58.9%からインフレがさらに加速した。 政府は2023年末時点で65%を見込んでいる。
通貨リラの発行権があるトルコ中央銀行は、2023年6月22日、政策金利を現行の8,5％から15％へと引き上げた。エルドアン氏は、大統領選挙戦で、インフレ抑制策を打つことにより、クルチダルオール氏の支持層の不満を和らげる狙いがある。トルコ中央銀行は、21年9月に、景気回復を図り、政策金利を19％から8,5％まで段階的に下げていた。したがって、2年ぶりに利上げ政策へ戻したのである。
写真 掲載元 不明
エルドアンは、国際的に通貨リラの信用度の低下によるスタグネーションに見舞われても、抑え込む手立てがない。国内の少数民族クルド人に対して、締め付け策を強化し、トルコ民族中心の国家として歩んでいる。
第3章 NATOの異端児として
トルコは、NATO加盟国でありながら、ロシアや中国との交流関係を築き、全方位外交を展開する。ロシア軍のウクライナへの軍事侵攻に対して、仲介役に名乗りを上げた。2022年3月30日には、同国にウクライナとロシアの代表団を招き、停戦協議を主催した。結果的に直後の4月4日、キーウ州ブチャにて、民間人の虐殺が明るみにでると、ウクライナは、ロシアに折り合えなくなった。停戦協議自身は、オンラインを含め一切行われていない。地理的に両国に近接するトルコは、地中海と黒海を繋ぐ海峡の通航権を持つ。両国の貿易に関して、トルコが鍵を握っている。
2022年3月6日、ロシア軍によるウクライナ侵攻に関して、国連の非難決議で、NATO諸国と足並みを合わせて、賛成した。経済制裁に関しては、参加していない。対外戦争において、協調介入する。2011年のアラブの春から続くシリア内戦で、ロシアをバックにするアサド政権に対して、反政府勢力を支援する。外国勢力の介入により、戦況は複雑化することにより、長引いた。2019年10月9日、混乱に乗じて、トルコはシリア領内の北西部クルディスタンに侵攻し、武力制圧を試みた。テロリストに指定しているクルド人民兵組織「人民防衛部隊（YPG）」を、国境地域から完全に排除して「安全地帯」を確保する狙いがあった。YPGの脅威を取り除いたうえで、シリア難民を受け入れる考えを表明していた。クルド人のYPGは、自治権の確保と引き換えに、アメリカの支援を受けて、IS（イスラム国）の掃討作戦に貢献したのである。アメリカの軍事作戦に協力しながら、当時のトランプ政権に見放された。トランプ大統領は、翌2020年の大統領選挙戦に備えて、他国の争いへの関与を避けたかった。アメリカ軍兵士の犠牲者が多くなると、国民の支持を失いかねない。駐留する費用も惜しみ、クルディスタンから米軍の撤退を命じたのである。アメリカの後ろ盾を失ったことにより、自治権を主張するYPGは、トルコの攻撃により、駆逐されたのである。トルコの軍事行動により、家を追われた避難民は21万5,000人にのぼり、うち約８万7,000人が子どもとされている。一連のトルコ軍の侵略行為は、反アサド支援で一致したアメリカの反感をかい、同盟関係に亀裂が生じたのである。
写真＝トルコが2019年に主張した緩衝地帯を示した地図 掲載元 Dialogue People
https:/
アメリカの大統領選挙戦の結果、共和党のトランプ氏から民主党のバイデン氏に代わって以降も、改善されなかった。人権を重んじる民主党を代表する立場上、バイデン大統領は、強権的なエルドアン体制を厳しい目で見ていた。2021年4月25日には、帝政オスマン時代、アルメニア人の砂漠への強制移住政策を「ジェノサイド（特定民族の弾圧行為）」と認定したことにより、トルコから反感をかった。現にトルコは、新たな軍事同盟を確保するべく、ロシアから地対空ミサイル「S400」を配備していた。2019年のシリア北西部のクルディスタンへの侵攻に対して、アメリカは強く非難していたのである。
詳細 東京新聞 2021年4月25日付 https:/
バイデン政権は、NATO加盟国のトルコと歩み寄れなかった。それでも中東地域やロシアや中国との緊張緩和のため、程よい距離を保ちながら、関係維持に努めた。
トルコは、時にNATOの異端児として、重要法案を決める際、反対意見を出す。現に2022年5月に加盟を申請したフィンランドとスウェーデンに対して、難色を示していた。両国は、エルドアン政権が敵対するクルディスタン労働党員を匿っているとみられている。2022年6月28日に、NATO加盟30カ国の首脳と、申請手続きを踏んだフィンランドとスウェーデンの首脳が、スペインの首都マドリードで行われた会議に参加した。トルコ側は、既にスウェーデンの代表団とは、5月25日に首都アンカラで顔を合わせている。
NATO加盟には全会一致が原則である。リーダー格がアメリカである以上、トルコ一カ国のみ抵抗を続けると、他の加盟国から阻害される現状がある。そこでトルコは、スウェーデンとフィンランドの加盟条件を3つ突きつけた。
▽フィンランドとスウェーデン（以下2か国）はクルディスタン労働党（PKK）を非合法のテロ組織と確認
▽2か国はテロ容疑者の身柄引き渡し要請に迅速かつ十分に対応する
▽身柄引き渡しのための法的枠組みを整備する
スウェーデンとフィンランドの両国の代表団は、トルコが作成した覚書に署名した。マドリードでのNATO首脳会談の翌6月29日に両国がNATOに加盟するための決議を行い、加盟国内での批准手続きに移る。
詳細 国際ニュースナビ 2022年7月4日付 https:/
スウェーデンとトルコは、両国揃っての加盟を目指していた。フィンランドは、覚書に倣い、クルド人過激派を検挙して、強制的に国外へ退去させる。対して、人道的配慮から、スウェーデンは、実行を躊躇った。トルコの信頼を損なう出来事は、もう一つあった。2022年9月11日のスウェーデンの国会議員選挙戦にて、右派4党が、現政権の左派3連合に勝利したことにある。開票率99％の時点で、右派勢力は176議席、対して左派勢力は173議席だった。僅差で勝利した右派連合において最も支持を集めた民主党は、極右団体「ノルディック抵抗運動（NRM)との関連性が指摘されていた。NRMの党員の一人は、2017年にイエーテボリの爆弾テロに関わった容疑で、警察当局から逮捕されていた。国内外からNRMは、過激派とのイメージが植えつけられている。移民排斥運動により、右派・民主党とNRMは足並みをそろえている。2022年の選挙戦の結果、左派の支持層の不満を和らげるため、首相の座には、中道右派の穏健党のクリステンソン氏が選ばれた。
写真＝ウルフ・クリステン首相 掲載元 BBC NEWS 2022年9月15日付
https:/
トルコ議会は、NATO加盟手続きを踏むスウェーデンの選挙戦の行方を注視していた。新たに政権が右派連合に変わったことにより、態度を硬化した。第一党となった右派・民主党とNRMがひそかに繋がっているのではないか、と疑っているのである。テロ支援するNRMと関係する団体は支持できない。他にもトルコ議会の信頼を失う事態が起きた。2022年6月28日のマドリードでの首脳会談後、スウェーデン国内では、イスラムのコーランを燃やす事件があった。トルコとの間で交わされたクルド人テロ組織の身柄を引き渡すとの約束に抗議の意味がこめられていた。
2022年6月28日ののマドリードでの会議以降、トルコとスウェーデンの関係は改善されなかったのである。トルコ議会は、2023年3月31日に、フィンランドのNATO加盟を承認する決議を採択した。加盟30カ国全会一致により、2023年4月4日に、フィンランドは31番目の加盟国として、ベルギーの首都ブリュッセルにあるNATO本部にて、国旗が掲げられた。丁度フィンランドでは、4年に1度の国会議員の選挙戦の最中だった。国会議員とは立場が異なるサウリ・ニーニスト大統領、ただ一人出席した。
写真＝サウリ・ニーニスト大統領 掲載元 2023年4月5日付 NHK NEWS https:/
詳細 スウェーデンの2022年9月の選挙戦について Yahoo 2023年4月1日付
https:/
トルコは、加盟国の権利として、拒否権を発動して、自国に有利な政策を引き出す。独自にテロ組織に指定するクルディスタン労働党員への対応について、フィンランドとスウェーデンは苦慮していた。クルド人の弾圧行為は、加盟国から非難されながら、ロシアと中国との関係を取り持つため、人権問題としての追求を免れている。経済面においては、アメリカとの間で軋轢が生じていた。
以下 引用文 詳細 トルコとUAEの企業への制裁について 読売オンライン 2023年10月13日付
https:/
2023年10月12日、米財務省は、ロシア産の原油輸入額の上限規制に反して取引したトルコとUAEの企業に、経済制裁を下した。Ｇ７と欧州連合（ＥＵ）、豪州は昨年１２月、ロシアの収入減少や世界的なエネルギー価格の高騰防止を図るため、ロシア産原油に１バレルあたり６０ドルの上限価格を設ける追加制裁を発動した。上限を超える原油の取引については船舶保険を引き受けないよう欧米の保険会社に義務づけていた。
財務省によると、ＵＡＥの企業が持つ船舶は１バレル＝７５ドル超、トルコの企業が持つ船舶は１バレル＝８０ドル超でそれぞれロシアの港からロシア産原油を輸送していた。いずれも米国のサービスを利用していた。
Ｇ７とＥＵ、豪州は同日、モロッコで開催されたＧ７財務相・中央銀行総裁会議に合わせて、海運業界などに対して価格上限の措置を順守するよう強く求める勧告を発表。声明では「価格上限の順守を強化する米国の取り組みを支持する」と強調した。
＜引用終わり＞
トルコは、イスラム国家の中で、いち早く政教分離国家を宣言し、西欧のキリスト教の国々と外交関係を築いた。建国から100年が立ち、今西欧とロシアの橋渡しとして、期待されている。
関連日記
� �NATO加盟申請について
2022年5月14日付 https:/
�◆．好ΕА璽妊鵑領鮖法〃�国500周年記念
2023年6月6日付 https:/
10
2
最近の日記
- 緊迫する中東情勢 4月20日から5月15日 停…
2024年05月16日13:59
- 中央アジアのウズベギスタンの歩み（ミルジ…
2024年05月05日21:15
- カタールの歴史 イスラム教受容から現在の…
2024年04月26日02:21
- 緊迫する中東情勢 3月から4月19日 イスラ…
2024年04月21日22:21
- 大地震の予兆を掴めるのか！研究最前線 4…
2024年04月19日22:48
ログインしてコメントを確認・投稿する