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2023年10月20日23:13

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肉体の牢獄/肉体の未来 『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

人間の“肉体”に自身の嗜好と哲学を仮託し、追及してきた、80歳の監督の新作は、老いの果てに感じる肉体の牢獄と、肉体の限界から脱出する未来が漂う。

将来、人類は“肉体”の痛みを失い、その肉体を特殊な装置で切り刻む退廃の娯楽へといそしんでいた。

老いた体の主人公ソール(ヴィゴ・モーテンセン)は、助手のカプリース(レア・セドゥ)と一緒に、自身の体内へできた未知の臓器を公開手術する舞台をいとなむ。同時に老人は、各地へ出現しはじめた、あらたな代謝機能を持つ進化人類 *1 をひそかに推奨する一派であった。

キャリアの中で、肉体と精神の変容を描く作品を撮り続けた監督の物語は、やはりエログロめいたゴア描写や性的描写へとあふれる。

奇怪な装置がセドゥの両乳房を切り刻み、ヴィゴの腹部から異様な臓器を摘出する。

その肉体の解体がプリミティヴな生殖/セックスを暗喩しているのは事実だが、過去の監督の作品とくらべれば、描写はずいぶんおとなしい。老成すら感覚する。*2

その老成と同時に強く印象にのこるのは肉体や世界の老いだ。

ソールは終始、咳き込み、生物的補助具の椅子がないと食事すら満足にできない。主人公ソールの状態は、80歳となった監督自身の肉体の写し見。なら激変する環境問題への警鐘や、企業の社会倫理をふくめ、 *3 あらたな肉体への階段を昇る進化人類を許容する結末もわかろうというものだ。

ソールたちの行き着く先が生と死どちらであろうとも――。*4


※1 あらたな人類はプラスチックを食べ栄養にできる。このプラスチックを食う人類の誕生が作品世界を大きく動かす。

※2 実際、物語は老いを描く。だが、それでも肉体への欲望はなくならず。というよりも監督の肉体への関心のかたちが変化したのだ。

※3 初期作品の『ビデオ・ドローム』から『イグジステンズ』、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』など、監督は“肉体”を通し、恋愛や暴力、世界の現実を風刺してきた。本作の人類は、生存に必要な肉体機能が一部退化し、奇妙な機械で代替している。ややわかりづらいものの、作中、その人間の生理機能を代替する道具を扱う企業は、政治機能を牛耳り暗躍している。このため企業は別の生理機能を持つ進化人類の出現を嫌う(支配と利益が確保できなくなるからだ)。監督は以前から、企業や社会批判を映画へこめる。『コズモポリス』は最近の代表だ。

※4 ソールは死亡したのか? 進化したのか?
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