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2023年06月06日00:04

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なぜ球場にオルガン? 

 今日は楽器の日ということなので、ある楽器について書いてみようと思います。
 それはMLB(大リーグ)のほとんどの球場で生演奏される球場オルガンのことです。
 MLBの真似をしたのか、一時期、球場オルガンは日本の球場でも幾つか見られましたが、定着するまでには至らなかったものとみえて、今や常時オルガンの生演奏を聴くことが出来るのは、西武ライオンズの本拠地(西武ドーム)だけなんだそうです。
 もっとも、MLBにおいても、最初からオルガンが活躍していたわけではないようです。MLB草創期の応援等の音楽は、今の日本の高校野球の場合と同様、ブラスバンド(オーケストラ)が担っていたようです。とりわけ、その時期の米国にはマーチ王のジョン・フィリップ・スーザがいましたから、演奏する曲が日々生まれ、曲が不足するということはなかったと思われます。
 スーザ自身も無類のベースボール愛好者で、(もちろん、アマチュアでしょうが)自らベースボールチームを率いていたようですし、こんな曲も遺しています。
https://www.youtube.com/watch?v=GMoFA22OG1Q

 ただ、チームを盛り上げるためとはいえ、ブラスバンド(オーケストラ)を雇ってそのメンバー全員に十分な報酬を支払うとなると、MLBに属する球団といえども、その負担はバカにならないものになります。何とかしてこれを減らしたいが、下手に減らすと、音が観衆の熱狂に埋もれてしまうおそれがあります。そこで、彼らが編み出した名案が、教会でお馴染みの大音量で荘厳な音を奏でるパイプオルガンをオルガニスト一人に演奏させるというものでした。
 このアイディアを最初に実行に移したのは、シカゴ・カブスの本拠地リグレー・フィールドで、今から82年前の1941年4月26日のことでした。カブスのオーナーであるフィリップ・K・リグレーが、正面スタンドの後ろにパイプオルガンを設置し、1万8000人以上の観客がオルガン奏者レイ・ネルソンの演奏に浸ったということです。
 とは言っても、このときはまだその演奏は午後2時30分の試合開始までしかできませんでした。試合はラジオでも放送されており、カブスは音楽出版のBMI社から自チームの曲をオンエアする許可を得ていなかったので、著作権法上の制約があったのです。
 ただ、財政上厳しい環境に置かれていた球団は少なくなかったし、著作権法上の制約も徐々に克服されたこともあって、球場オルガンは次第に一般的なものとなっていきました。ハモンドオルガンが開発され、パイプオルガンほど場所を取らずにほぼ同様の機能を担えるようになったことはこの傾向に拍車をかけ、パイプオルガンからハモンドオルガンに切り替える球場も続出しました。
 今では、米国では、ベースボール好きの男の子が女の子をデートに誘うときに「オルガンを聴きに行こうよ」なんて言い方をすることもあるぐらい、ベースボール=オルガンは日常の光景になっていると聞きます。
 これに対して、上述のように日本でも一時的に球場オルガンは置かれていたのに、それが今や西武ドーム1か所になったのも、その原因の一つに財政上の理由があるようです。
 合理化という側面から見れば、CDやデジタル音源があるのにわざわざそこに人件費をかけるのはいかがなものか、と見る向きが増えたようなのです(財政上の理由がMLBでは球場オルガンの普及につながったのに、日本のプロ野球ではむしろ球場オルガン減少の方向に作用したというのは、時代の違いもあるのでしょうが、興味深いことです)。
 それだけでなく、日本の場合は、プロモーションの一環としてメーカー側が主導していたケースが多かったので、オルガンが本来もつあの音色しか奏でない球場オルガンにはメーカー側が次第に市場としての魅力を感じなくなり、売り込みに積極的でなくなったということも要因の一つとして挙げられています。電子オルガンならではの多機能性(出そうと思えば、オーケストラの重厚な音から、尺八の音までボタンひとつで出せる)をアピールしたいメーカー側のニーズに球場オルガンは次第に応えきれなくなっていったということです。
 何より日本のプロ野球には、各球団に私設応援団があり、球場オルガンがなくても何の不足も感じない人が少なくなかったという点が大きかったのではないかと思われます。
 MLBの各球団には、ファンクラブはあっても日本の私設応援団のようなものはないそうで、私設応援団がやっていることの大部分は球場オルガンが担っているものと推測されます。
 なので、現在、唯一残っている西武ドームの球場オルガンにしても、音色そのものはMLBと同じオルガン本来の音色ではあっても、MLBにはない私設応援団の文化との調和を図りつつ、米国の“ボールパーク”の楽しい雰囲気や、オルガンの生演奏のもつ温かみを日本の球場にも残していこうとする独特の「進化」を遂げているようです。
 一方で先述のとおり、球場オルガンが登場する前のMLBではブラスバンド(オーケストラ)が応援の音楽を担っていたこと、そして今日ではその音は電子オルガン(あるいはCDやデジタル音源)によって奏でることが可能であることを考えると、MLBでも、オルガン本来の音色にこだわらない演出がされる可能性はあります。他方でオルガン本来の音色はMLBでもすでに深く定着していてこの点は動かない可能性もあります。
 いずれにせよ、ベースボールあるいは野球は多くの人々にとって娯楽ですから、最終的には人々が望む娯楽の在り方に馴染む方向で、球場オルガンの在り方も変化していくものと思われます。
https://www.youtube.com/watch?v=lkUYS3WbILM


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