病気予防を目指すなら、ウォーキングは1日何歩がいい?
高血圧は1日8000歩程度、糖尿病は1日9000歩程度で頭打ち
2023.3.9
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大西淳子=医学ジャーナリスト
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ウォーキングや日常生活の中の歩行で慢性疾患の予防を目指す場合、1日の歩数は多いほど予防効果が得られること、高血圧と糖尿病の予防に関しては8000〜9000歩が目安となることが、米国の研究(*1)で示されました。
1日どのくらい歩けば病気を予防できる?(写真=PIXTA)
歩数が少ない人は死亡リスクが高い、では何歩なら大丈夫?
スマートウォッチなどのウェアラブル活動量計の利用者が増えています。しかし、毎日の歩数を計測し、健康増進に役立てようと考えても、目指すべき1日の歩数については確定的な情報はありません。
これまでに行われた研究では、「1日の歩数が少ない人は、死亡リスクや心血管疾患(心筋梗塞や脳卒中など)の発症リスクが高い」ということが一貫して示されていました。しかし、そうした研究が用いていた方法には改善の余地がありました。たとえば、研究用の活動量計を貸し出した短期間の研究だったり、研究の参加者たちのもともとの(研究参加前の)運動習慣を考慮していなかったり、評価対象が死亡、糖尿病、心血管疾患などに限定されていたり、といった限界がありました。また、長期間かけて発症、進行する慢性疾患に対する運動の効果は検討されていませんでした。
そこで米Vanderbilt大学医療センターのHiral Master氏らは、市販のスマートウォッチを数年間装着している人たちの歩数と、その間の主要な慢性疾患の発症との関係を検討することにしました。
6000人の4年間の歩行記録を基に病気との関係を分析
対象は、米国で行われた観察研究「All of Us Research Program(AoURP)」の参加者32万9070人の中から選びました。電子健康記録の研究利用を許可し、本人所有のスマートウォッチ(Fitbit)に6カ月以上にわたって記録されていたデータを提供した18歳以上の6042人(年齢の中央値は56.7歳、73%が女性、BMIの中央値は28.1)を分析対象にしました。
6042人を4年間(中央値)、約590万人-年(*2)追跡しました。参加者の1日あたりの歩数は7731.3歩(中央値)でした。さまざまな慢性疾患を対象として、1日の歩数が1000歩増加するごとの発症リスクの変化を調べたところ、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などのリスクが有意に低下することが明らかになりました(表1)。
表1 歩数が増えることで発症リスクが低下する主な疾患
2型糖尿病は生活習慣や遺伝的な影響によって発症する糖尿病で、糖尿病患者の大部分を占める。(Nat Med. 2022 Nov;28(11):2301-2308.)
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*1 Master H, et al. Nat Med. 2022 Nov;28(11):2301-2308.
*2 人-年:観察した人数とそれぞれの年数を掛け合わせたもの。10人を1年間、もう10人を2年間観察した場合は、30人-年となる。
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肥満など4疾患の発症リスクは、歩数ととも
そこで、主な慢性疾患6種類、すなわち、糖尿病(生活習慣や遺伝的な影響により発症する2型糖尿病)、高血圧、胃食道逆流症、うつ病、肥満(BMI〔体格指数〕が30以上、*3)、睡眠時無呼吸症候群の6疾患について詳しく調べることにしました。なお、対象とした集団では、これら6疾患の複数を保有する患者の割合は高くありませんでした。
肥満、睡眠時無呼吸症候群、胃食道逆流症、うつ病の4疾患の発症リスクは、1日の歩数が増えると、ほぼ直線的に低下していました。例えば肥満リスクは、肥満発症の有無に関する情報が得られた人たちの1日あたりの歩数の中央値(8280歩)から1万歩に増えた場合には、31%低下することが明らかになりました。また、研究参加時点のBMIも考慮して分析すると、たとえばBMIが28だった人が歩数を1日6000歩前後から1万1000歩まで増やすと、肥満発症リスクは64%低下すると推定されました。
さらに、1日の歩数に基づいて参加者を4等分し、歩数が下位25%だった人と上位25%の人のこれら6疾患の発症リスクを比較しました(表2)。この結果、1日に6000歩程度しか歩かない人が、歩数を2倍弱まで増やせば、個々の疾患のリスクはおおよそ4分の1から2分の1程度低下することが示されました。
表2 1日の歩数が下位25%の人と比較した、上位25%の人の疾患発症リスク
(Nat Med. 2022 Nov;28(11):2301-2308.)
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一方で、糖尿病、高血圧という2疾患と1日の歩数の関係は非線形で、比例関係は見られませんでした。糖尿病はおおよそ1日9000歩、高血圧は1日8000歩までは、歩数が増加するにつれて発症リスクが低下しましたが、それ以上歩いてもリスク低下は見られなくなっていました。
今回のデータは、1日あたりの歩数は一般的な慢性疾患6疾患の発症リスクと関係し、肥満、睡眠時無呼吸症候群、胃食道逆流症、うつ病のリスクは歩数が増えるほど低くなること、糖尿病と高血圧については、リスク低下の最大の利益は1日8000〜9000歩で得られることを示唆しています。
*3 BMI=体重(kg)÷身長(m)2 WHOの基準ではBMI30以上が肥満、日本肥満学会の基準では25以上が肥満。
大西淳子(おおにし じゅんこ)
医学ジャーナリスト
筑波大学(第二学群・生物学類・医生物学専攻)卒、同大学大学院博士課程(生物科学研究科・生物物理化学専攻)修了。理学博士。公益財団法人エイズ予防財団のリサーチ・レジデントを経てフリーライター、現在に至る。研究者や医療従事者向けの専門的な記事から、科学や健康に関する一般向けの読み物まで、幅広く執筆。
[日経Gooday(グッデイ)2023年2月3日掲載]情報は掲載時点のものです。
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