岡山の倉敷は以前から行ってみたい所だった。
私が育った山口県の田舎では中卒の女の子の就職先はその倉敷にあった紡績工場くらいしかなく、就職組の女の子は中学を卒業したあと、親元を離れてそこで働いていた。
あの頃は交通の便も悪く、隣の県の広島とて日帰りで行くのは厳しかったから、そのまた隣の岡山はかなり遠い所だった。
紡績工場は大竹しのぶで映画化された「ああ、野麦峠」でも描かれていたが、その昔はブラック企業も真っ青になるほどのひどい職場だったようで、労働時間は長く、空気も悪かったため肺をやられて亡くなる女の子も多かったとか。
「女工哀歌」と言われた所以だが、勿論私のクラスメートたちが就職した頃はそんなに劣悪ではなかった筈だ。
けれど1960年代半ばだって「高校3年生」の歌のヒットや「青春とはなんだ」から始まった学園ドラマで「青春は高校生活にある」と思っていた馬鹿な私は、中卒で働かざるを得ない彼女たちには「哀歌」を感じていた。
そこは同じくらい貧しかった私が働いていてもおかしくない所だったからだ。
それが行ってみたかった理由の一つではあった。
行ってみたら今の倉敷は観光地化されているらしく、荷物を運ぶために使った川に沿った建物は白いナマコ壁と格子戸が続く。
基本的にこの辺りは商人が多く住んでいたらしく、蔵だった建物も多い。
観光地の町並みは調和が乱れないようにと建物も制限があり、近代的なデザインの家は建てられないと聞いた。
今回我々はコテージの様に一棟をまるごと借りられる古民家ホテルに泊まったのだが、玄関はガラスをはめ込んだ格子戸の引き戸である。
あえてそういう古さを売りにしているのに玄関に取り付けられた鍵はクレジット払いのように、教えられた4桁の番号を押すと解錠できるという近代的なもの。
しかも観光地の景観のためにそんなキイはちゃんと隠すように、使ったら格子戸に合わせた色合いの木札のカバーをかけるようになっていた。
基本的にガラス戸の薄い玄関だし、中は広いだけに見た目は寒々しかったけど、炬燵もあって暖房に問題はなく快適だった。
ただし素泊まりでキッチンを使って自炊しなければならない。
処がスーパーが近くにないのだ！
仕方がないから旅割でもらったクーポンを使ってコンビニで食料品をと思ったらクーポンは使えないと言う。
食事もクーポンを使えるお店が案外少なくて、使えるお店を探すのが大変だった。
それじゃ残った5000円分のクーポン券を使って人力車に乗ってやれと最終日に、一番長いコースを走ってもらったら、2人で￥29000！
岡山までの往復の新幹線料金ひとり分とほぼ同じ金額だった。
それに気づいた途端思った。
「たけえよっ」
たしかに初めて乗った人力車は楽しかった。
(でも、たけえよ！)
車夫の観光ガイドも良かった。
(でも、たけえよ！)
おまけに車夫がイケメンだった。
(でも後ろ姿ばっかだった！)
つまり倉敷の旅は私にとって現代版「倉敷哀歌」だったのである。(あはは)
でも、こういう庶民の暮らしの歴史が残る町が京都のような街よりも、私は好き！
写真��
入り口がこんなふうな引き戸で寒々しかったけれど、中は意外と暖かかった。ただし、外の音がよく聞こえた(笑)
写真��
ソファーの後ろの畳の部屋は長方形のこたつがあって、暖かかった！
写真��
2階の寝室はベッドも幾分小さく屋根も低い！
二階というより屋根裏？
朝、主人が起きた時、天井が低いものだから小柄な主人が大きく見えるというメリットがあった(笑)
ログインしてコメントを確認・投稿する