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2022年10月30日00:07

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カルナの身分

 これが20年前だったら、なんかの間違いでココを見ちゃった人は、「一体何を熱く語ってるんだこいつは」と首を傾げて即閉じしたと思うんですが。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1931640084&owner_id=1680995
 3000万ダウンロード(!?)さん、ありがとう、今でも彼の話題を扱った記事だけ閲覧数が一桁以上違います。1989年から彼のファンをやり続け、インドの関連個所に聖地巡礼し続けてる私は感謝の念で一杯です。ゲームやってないけど。

 実はこの話、2019年にフィリピン‐インドネシア旅行から帰ったほどなく後に判明したのですが、なんか丁度FGOユガシェートラ後だったりして、すっかり書くのを忘れてました。

 『マハーバーラタ』において、カルナが初登場‥‥というか、初ピックアップされるシーン。
 「お前はクシャトリア(王族・領主・武人・戦士)の身分じゃない、この争いに加わる権利はない」と嘲笑され、黙って引き下がろうとしたところ、ドゥルヨーダナが彼に気前よく一地方を与え領主に任命し、「これでクシャトリアの身分は整った」って事で再開する、とある武芸大会の話。
 つまりそれまでの彼は、クシャトリアではなかったという事です。

 ところがこれが不可解で。確かに彼は捨て子だった所を養子にされたんですが、養父のアディラタさん、盲目王ドゥリタラーシュトラの御者が職業なんです。
 インドの身分制度は複雑なんですが、んでもって古代だと今と色々と違うんですが、有名なヴァルナと呼ばれる大きな四つの括り、バラモン・クシャトリア・ヴァイシャ・シュードラには、それぞれ「絶対にやっちゃいけない仕事」というのが存在します。簡単な例えだと、バラモン以外の風呂の世話や洗濯をクシャトリアがやってはいけません(「その人が汚れる」から)。ヴァイシャ以上の食事をシュードラが用意してはいけません(「された人が汚れる」から)。
 で、戦闘馬車の御者ってのは、あくまでもクシャトリアの仕事なんですね。途中で女装したアルジュナ※なんて飛び道具が出てきますが、あれはあくまでも例外、もしくは後述しますが〈それ以外〉の立場を利用した奇襲作戦。
 一国の王が務めることすらもあります。つか、最後のアルジュナvsカルナ戦は両方とも王様が御者じゃん。

 養父がクシャトリアで、しかもこの夫婦はカルナを「ガンガー女神からの賜りもの」として実子のように大切に育てたので、普通はそれ以下の身分になるはずがないんですよ。
 なのに、明らかに武芸大会までは彼はその身分を持っていなかった。これ、長年の私の謎でした。

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 という訳で要になってくるのが、養母ラーダーの身分。父親の身分が上の場合、子供は母親の身分に準じます。例えばパンダヴァ兄弟にはなにげに助けてくれる叔父ヴィドラさんがいまして、これは爺さまヴィヤーサがシュードラ女性に産ませた子で、裕福で陰の実力もあるんですが、正式な身分はシュードラです。
 そういう下の方向を予想して調べていたら、あにはからんや、ラーダー夫人がバラモン出身だって記録を見付けちゃった‥‥

 夫より妻の方が上のヴァルナである結婚。これ一番やっちゃいけないやつ!!
 そもそも他ヴァルナ間での婚姻そのものがアウトなんですが、その中でも極めつけ。この夫婦の間の子供は、両親のどちらの身分も受け継ぐことができません。バラモンにもクシャトリアにもなれないんです。
 ヴァルナの外。〈それ以外〉。身分を持たない者。
 こーれーか―――。

 現在で言う不可触民(ハリジャン)とも違って、一概にはシュードラ以下とは言えないけど、普通の人の枠組みの中にも入っていないという、とにかく微妙な立場です。身分を理由に権利を主張することができず、まあその代わりに身分が高い人に無条件で従わなきゃいけない義務も発生しない訳ですが、これ財産とか後ろ盾とかなければ、危険極まりません。誰に何をされても、たとえ意味なくサクッと殺されても、訴え出る先がないからね。
 逆に言えば、ほいっと一領土を貰って領主となれば、それを論拠としてクシャトリアを名乗ることができるようになるって寸法ですわ。そうなの、下手にヴァイシャやシュードラと確定していると、こういう乱暴な手段は難しい。というか即断即決とか不可能。クシャトリア→老年まで修行し続けてバラモンとか、古代は今より緩くはありますが。

 そして〈それ以外〉である為に、彼の元々の身分は表記できない。それをあらわす単語がない訳ですよ。結果、諸説入り乱れる事態に。
 うわぁぁあ納得した‥‥‥

 ちなみに本当に本当の身分はというと、ヴィドラ叔父さんと同じで、神がクシャトリア女性に産ませた婚外子なのでクシャトリアです。逆パターンとして、父が王様・母がガンガー女神の婚外子である偉大な大叔父様ビシュマは、人として生まれてきたので、しゃーないからバラモンとクシャトリアの間みたいな感じ?という例があります。

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 ※「一年間、正体を悟られることなく市井で暮らすこと」というペナルティを食らった、パンダヴァ五兄弟+妻ドラウパティの疑似職業ですが。
 マツヤ国で、他の兄弟が牛飼いだの料理人だの侍女だの無難な変装を選んでせっせと働いているのに、『切り取り済みです女装舞踊教師』のアルジュナ‥‥お前‥‥

 で、この職業、なんと現代インドにも存在します。ポジションは〈それ以外〉、ただし昔と違ってハリジャンのカテゴリー。職業集団として、主に祭に呼ばれて舞を披露して生計を立ててるとか。だーかーらーインドの田舎はまだ神代なんだって。
 〈それ以外〉だから、女装アルジュナ=ブリハンナラーは、しれっと王女の側に侍って優雅に家庭教師できた訳ですよ。身分に縛られない良い方の面だけ利用してるの。
 しかも、いきなりの戦争突入時に、総司令官である王子の御者とかやってんの。

 素晴らしい機転でございました。ここいらのエピソードで私の中の彼のキャラクター像が決定した。あれだ、少年マンガの陽キャ主人公的な。どんな困難に遭っても明るさを失わない、紙一重っぽい天才。
(3000万DLの制作陣の解釈とは決定的に嚙み合わないのはここら辺だよ。なんだろう、カルナは外見こそ鈍器で殴られたくらいビックリしたのに、性格は「これもアリ」と思えるんだが)

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 という訳で、私の中では30年越しにスッキリした訳なのですが、いかんせん根拠がない。根拠がないのでこんな辺境でこっそり記録しておきます。
 神話なんて定説がないのが当たり前、あったらそこに何らかの政治的意図が含まれてるのが当たり前。
 なので、ついでにもう一つ、『マハーバーラタ』に関して面白い説を紹介しておきますと。

   元々は『平家物語』のように滅びる側が主人公だった。

 つまり、今はカラウヴァを敵にパンダヴァが勝利する話だけど、本来はパンダヴァを敵にカラウヴァが滅亡する話だった、と。しかしモデルになった紀元前4桁に実際に起きた大戦争から、なんとなく物語の体裁を取り始めた紀元前3-400年から、なんとなく決定版的なものが出来てきた西暦400-700年、とどうしようもなくスパンが長すぎて、その間にパンダヴァに連なる王朝が自分達の都合のいい今の方向に誘導したんだよー、という説。

 これ、『古事記』『日本書紀』の成立過程に関する現在の学説を知ってると、信憑性ハンパない。
 同時に、それでも消せなかったのかもと思わせるのが、老年パンダヴァ達の最期の寂しすぎるヒマラヤ死出の道に対して、戦争で滅んだカラウヴァ達の夢幻のようなおまとめ昇天シーンっすね。これ、子供の自分でも違和感あった。敵として悪として描かれた側の方が、全然キレイな終わり方してるんだもん。
 ま、本当の所なんて誰も知らなくて、信仰と物語が一緒くたに混ざった上で、さらに「面白い」と語り継がれたものこそが、本物の『神話』なんでしょうけれども。
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