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2022年10月08日13:23

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ロシア・ウクライナ危機2021−2022 第5回 7月から10月初旬 ウクライナの独立記念日、反転攻勢 飛び地カリーニングラード 反転攻勢の立役者、ザルジニー司令官

 ロシア・ウクライナ危機の第5回目は、7月から10月7日(金)までの出来事をまとめた。ゼレンスキー大統領は10月7日に、ビデオ演説において、北方領土は日本のものだとの考えを示し、支援を求めた。https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=168&from=diary&id=7140432

 前第4回 2022年7月3日 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1982694746&owner_id=32437106

  第1章 6月から8月上旬までの戦況の行方

戦争開始当初、ウクライナは首都近郊で善戦し、4月初旬には、キーウ州のマカリウとブチャを奪還した。ロシア軍は、首都への侵攻を諦め、攻撃対象都市を絞り、黒海に面したドネツク州のマリウポリを制圧した。製鉄所アゾフスターリに最後まで立て籠もっていたウクライナ軍兵士は2500人程度とみられている。ウクライナは、ハルキウ州での攻防に全力を傾けながら、ウクライナ軍アゾフ連隊とロシアの軍人との捕虜交換を呼びかけた。6月にはアメリカ軍から、射程距離80kmのハイマースを供与されるものの、実践の場に投入するまで、3週間の訓練を擁した。ロシアは、欧米からの強力な軍事物資が届く前に、攻勢をかける。6月25日には、ルハンシク州のセベロドネツクを掌握した。同町では、6月15日時点で化学工場内に500人の民間人が避難し、2週間に渡って補給物資を断たれていた。両軍合意の下で、人道回廊が設置され、ロシア側が制圧する北部に避難させた。民間人を退避させたウクライナ軍は、セベロドネツク市から撤退し、同州のリシチャンスクの部隊と合流する。ロシア軍は、橋を爆破して、ウクライナからの増援部隊を断ち切った。7月4日には、リシチャンスクも支配下に収めた。同日ショイグ国防省が、ルハンシク州を完全に支配したとの声明を発表した。

 東部の要衝を失う中、ウクライナの政権や軍側も足並みが乱れた。6月29日に、当時最大の250人規模の双方での捕虜交換が行われた。ウクライナ側は、ロシア軍の捕虜になっていた144人を取り戻した。うち95人は、アゾフ連隊の兵士だった。最高齢は65歳、最年少は19歳と明かされた。重症を負い、手当てが必要な兵士が多数含まれたという。同日アゾフ連隊の兵士95人を帰還させたタイミングで、ゼレンスキー大統領は、ロシア寄りのシリアとの国交を断絶したと発表した。理由は、親ロシア派が実効支配する「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」を承認したためである。

 黒海に面した東部地域を失う中、ゼレンスキー大統領は焦燥感を募らせていた。7月17日には、首都近郊のブチャでのロシア軍による民間人虐殺疑惑の捜査責任者、ベネディクトワ検事総長と保安長官イワン・バカノウ長官を含め、情報機関「保安局」に所属する60人を解任した。2人は、部下がロシア軍に協力した責任をとらされたのである。ベネディクトワ検事総長は、責任感が強く、捕虜になったロシア兵から、非武装の民間人を射殺した犯人を突き止め、証拠固めをして、次々と検挙した。裁判にかけられた容疑者は、殺人罪で起訴されると、刑法で最も重い終身刑が適用される。現に5月24日に、殺人罪で訴追されたロシア軍の21歳の兵士は、一審で終身刑の判決を受けていた。犯罪捜査の責任者、ベネディクトワ検事総長は、終身刑が下ったロシア軍兵士とウクライナ軍人との捕虜交換について、「技術的には可能」との見解を示していた。一方バカノウ長官は、ゼレンスキー大統領就任時の2019年9月から同職に努めていたものの、経験不足を指摘されていた。

 写真=防衛省・自衛隊ページ https://www.mod.go.jp/j/approach/exchange/ukraine2022.html
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 自国の領土を失っていく中でもウクライナは、既に戦後の復興を見据えている。7月4日、スイスのルガーノで開催されたウクライナ復興会議にて、当事者を代表してシュミハリ首相が出席した。爆撃によるインフラ施設や住居施設の破壊により、少なくとも7500億ドルの費用が必要と訴えた。西側諸国が凍結しているロシアのプーチン大統領を中心に取り巻く要人や新興財閥オリガルヒの総資産は、推定3000億ドルから5000億ドルになる。全て復興予算に充てたいと申し出た。翌5日にかけて2日間にわたり開かれた会議の出席者は、40超の国の代表者と欧州投資銀行や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関である。再建に向けて7つの原則を盛り込んだルガーノ宣言が採択され、ウクライナへの連帯感を示した。

 7月下旬には、世界の穀物事情の行方を左右する重大な取り決めが行われた。ロシア軍の軍事作戦が始まった2月24日以降、穀物輸送が滞っていたのである。世界最大の小麦の産出国のロシアとウクライナは、黒海を通して、慢性的に食糧不足のアフリカ各国へ輸出していた。トルコが仲介に入り、両国の代表団をイスタンブールに招いた。黒海を経由して、安全に穀物を輸出する協定の調印を見守った。「黒海イニシアティブ」と名づけられた包括的な計画には、黒海を通して安定的な食料回廊の構築を目指している。

 詳細 公益財団法人 中東協会 2022年7月25日付け https://www.meij.or.jp/kawara/2022_056.html

 両軍の合意の下、小麦の輸出が滞ることを避けて、ウクライナオデーサ港、近隣のチョルノモルスク港、ピブデニ港を通して、アフリカ各国へ輸出を再開させる。

 ところが協定が調印された翌7月23日、オデーサ港が、ロシア軍によるミサイル攻撃にあったと、ウクライナ軍側が発表した。ロシア国防省は、直ちに攻撃を否定する。協定には、船舶や施設に対する攻撃しないことで合意に達している。穀物輸出再開は暗礁に乗り上げた。現地時間7月31日には、南部のミコライウ州にて、ロシア軍による大規模なミサイル攻撃があった。穀物の輸出で財を成した実業家のオレクシー・ワダトゥルスキー氏(74)と妻ライサ氏の死亡が確認された。3月に停戦協議にのぞんでいたポドリャク大統領府顧問は、同氏をロシア軍が意図的に狙ったとの見解を発表している。ロシア軍は、東部のルハンスク州を完全制覇を宣言すると、リスクをかけず、長距離弾道砲を頻繁に打ち込みながら、陸上部隊を前進させた。7月14日には、ウクライナ西部のビンニッツァの中心部にミサイルが打ち込まれ、少なくとも23人の民間人の命が犠牲になっていた。

 詳細 8月1日 BBCニュース https://www.bbc.com/japanese/62373733

 ウクライナ側は、西欧からの軍事支援を待ちながら、占領された町の開放に全力を傾けた。黒海の穀物輸送に関しては、8月1日に両国合意の下で、ようやく再開された。輸送船が、ウクライナ産トウモロコシ2.7万トンを積んでオデーサ港からレバノンに向けて出港した。同船舶は黒海と地中海を結ぶトルコのボスポラス海峡を通過した後、リビアのトリポリ港へ向う予定である。

 詳細 独立行政法人 農畜産業振興機構 https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_003328.html

8月18日にウクライナの西部リビウにて、国連のグテーレス事務総長が訪れ、ゼレンスキー大統領とトルコのエルドアン大統領と三者協議を行った。翌19日に、オデーサへと移動し、穀物を積んで出荷する船を見届けた。トルコ共和国と国連の仲介に入った協議で、8月1日から19日まで、およそ60万トンの穀物が輸送された。

 穀物の輸送を見届けたゼレンスキー氏は、独立記念日を翌日に控えた8月23日に、昨2021年に続き、2回目となる「クリミア・プラットフォーム」を主催した。同会議は、クリミアの主権を取り戻すべく、大統領個人が立ち上げた。オンライン形式で40カ国の首脳が参加し、ロシアの不法占拠との考えを共有する。日本政府も2014年から続く、クリミア半島とドンバス地域のロシア軍の占拠を、侵略行為とみなしている。改めてウクライナを支持したうえで、岸田文雄内閣総理大臣が、ビデオメッセージを送った。
翌24日に、大統領は首都キーウにて、独立31周年の記念式典にのぞんだ。コロナ禍で行われた昨2021年よりも、規模を縮小して実施した。大統領自身姿を見せ、演説の場にたった。周囲には、戦利品として破壊されたロシア軍の戦車が展示されている。大統領自身は、クリミアのみならず、ロシア軍の占領地域の奪還を目指すと力強く誓った。式典後には、オレナ婦人と共に、慰霊碑に花を手向けた。

 写真=ゼレンスキー氏とオレナ婦人 (ウクライナ大統領府提供、AFP時事)
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同じ日に、ウクライナ東部ドニプロペトロウシク州の鉄道駅にミサイルが着弾し、22人の死亡が確認された。ドネツク州のバフムトは空爆の被害にあった。また内陸に位置する西部フメリニツキー州でもミサイル攻撃が行われた。発射先は、ベラルーシとの見方がある。ゼレンスキー氏は、建物が破壊され、罪のない市民が犠牲になる中、ひるまずに戦いぬく決意を表明した。独立記念日を境にウクライナの反転攻勢が身を結び、形勢は大きく変わった。
 

第2章 ザポリージャ原発の問題

今回の紛争で、食料と共にエネルギー危機が叫ばれている。戦闘の長期化に伴い、ウクライナ国内のザポリージャ原発の安全面が懸念された。現地時間9月10日、完全に原発が停止したことが分かった。ウクライナ国内の原子力企業「エネルゴアトム」は、6基のうち唯一稼動していた第6号基を停止させ、冷却させる作業を進めていると発表した。欧州最大の原子力発電所は、ウクライナ国内の電力の2割を賄っていた。3月4日に、電力の確保のため、ロシア軍が、現地住民に抵抗されながら、掌握宣言をしたのである。

 以下ザポリージャ原発をとりあげた日記
2022年3月10日付 第2回  https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1981788449&owner_id=32437106

一方で、奪還を狙うウクライナ軍との激しい戦闘により、安全性が大きく低下した。IAEA調査団は、現地時間8月31日に現地ザポリージャ市を訪れ、翌9月1日にロシア軍の同行の元、発電所の敷地内に入った。ウクライナ人作業員の労働状況などを視察したという。同じ日には、原子力発電所から5,5キロの距離で、砲撃があった。ロシア軍によると、3人の兵士を失ったと発表した。後に原子力会社のエネルゴアトムは、散発的に続く戦闘の行方を分析したうえで、唯一稼動していた第6基を停止したと、説明した。

 写真=ウクライナ南部の地図 出展(時事通信社)9月11日付け
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 9月1日のみロシア軍監視の下で調査に入ったラファエル・グロッシ氏は、「安全とはいえない、事故のリスクは高まっている」と報告書にまとめ、日本時間9月11日に公表した。核燃料や放射性廃棄物の処理施設の外観に砲撃の跡が残っていたという。現地時間8月30日にウクライナ軍は、南部のヘルソン奪還作戦を開始している。アメリカ軍から供与された射程距離80キロのハイマースを使い、ロシア軍の物資輸送路となる橋を破壊して、孤立化を狙う。東部ハルキウ州においても9月10日時点で、ロシア軍が補給地とするクピャンスクを奪還した。東部の要衝地イジュームからロシア軍は撤退する準備を進めているという。ロシア軍司令部は、「配置転換」と発表するものの、明らかに攻略に行き詰まりをみせている。現にウクライナ軍は、この1週間で3000平方キロメートルの土地を取り返したと主張している。

 写真=ウクライナ軍 ハルキウ州ホプティフカにて 掲載元 ウクライナ国防省が9月11日に投稿したツイッター
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ロシア軍は、退却する際に送電線などを破壊しているものの、ウクライナの軍事作戦を断ち切るうえでは、効果が乏しい。東部攻略の拠点に置いていたイジュームでは、兵站や弾薬を放置したまま、兵士が逃亡していた。

写真=東部地域の地図 掲載元 MODEL PRESS 2014年4月17日 https://www.afpbb.com/articles/modepress/3012833
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ロシア軍側は、人為的損失を補うため、受刑者を投入する計画がある。ウクライナの情報筋によると、重罪を犯した受刑者は6カ月、軽犯罪の受刑者は3カ月の兵役により、服役期間を終えたことになる。親ロシア派の支配下にある東部ドネツク州の町では、19日までに男性市民6千人を動員する方向で調整に入った。ロシア軍兵士が、弾薬を残して逃亡したイジュームでは、医療施設が破壊されたことにより、市民は怪我をしても十分な治療を受けられていない状況が続いている。民間人の死亡者は少なくとも1000人に達しているという。9月14日に、イジュームを含むハルキウ州にゼレンスキー大統領が入った。州内のバラクリアの警察署地下施設では、収容者を拷問していた痕跡が発見された。40日以上拘束された男性収容者の証言によると、常時40人が地下の部屋に押し込まれ、電気ショックをかけられたという。戦況が大きくウクライナに傾く中、原発を占拠するロシア軍が、強硬手段に打って出る可能性も否定できない。戦闘が長引く限り、原発事故のリスクも上昇する。

第3章 反転攻勢に打って出るウクライナ

 米メディアは、現地時間の9月13日、ロシアに関する新たな機密情報を公開した。クリミア半島を占領した2014年以降、20カ国以上の政党や政治家、高官らに少なくとも3億ドル(約430億円)をひそかに提供していたことがわかった。選挙への干渉などを通じて国外に親ロ派を作り、経済制裁を最小限にとどめる狙いがある。ニューヨーク・タイムズなどによると、資金は現金や暗号通貨、電子送金、豪華な贈り物などの形で提供されている。資金の調達元を隠すため、財団やシンクタンク、政治コンサルティング会社などが仲介しているという。米国務省は対象国と機密情報を共有し、収賄疑惑を暴く考えを示している。

 ウクライナ側は9月7日に、1ヶ月前の8月9日にクリミア半島西部にあるロシア軍基地で起こった複数回にわたる爆発事件の関与を認めた。戦闘機の破壊に成功したことにより、クリミア半島から出撃する航空部隊は大きなダメージを受けた。ウクライナ本土とクリミア半島を繋ぐ激戦地の一つへルソン州での戦いにおいて、ロシア軍はますます厳しくなった。

 詳細 日経新聞 9月8日付け クリミア半島の爆破事件についてhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR07E2E0X00C22A9000000/

 
 現に9月14日付けで、ウクライナ側のヘルソン議会の議長は、州内の中心部から20キロ先の集落まで自軍が奪還したことを発表している。ゼレンスキー大統領は9月12日夜のビデオ演説において、9月上旬以降、東部と南部の6000平方キロメートルに渡る土地を取り返したと、成果を強調した。9月8日には、首都キーウにて、アメリカのブリンケン国防長官と会談し、ウクライナを中心に周辺国の安全面を確保するべく、22億ドル(3100億円)を支援すると、説明を受けた。

 詳細 読売オンライン 時系列でまとめ https://www.yomiuri.co.jp/world/20220224-OYT8T50022/://www.yomiuri.co.jp/world/20220224-OYT8T50022/

写真=ゼレンスキー大統領とブリンケン国防長官 掲載元 AP通信より
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  第4章 最新のウクライナ情勢
 
日本政府は10月3日付、ロシア軍の行方を確認したうえで、首都キーウの大使館の業務を再開した。9月30日に、ロシアのプーチン大統領は、東部ドネツク州、ルハンシク州、ザポリージャ州、へルソン州の住民投票の結果を受けて、正式にロシア連邦の領土への併合を認めた。投票の正当性を訴えたうえで、自国領土に組み込むことにより、核兵器使用のハードルを下げる狙いがある。

 対抗措置としてウクライナのゼレンスキー大統領は、9月30日に正式にNATO加盟の手続きをした。10月2日に、ウクライナ問題が争点となるフランスの首都パリにて、中・東欧9カ国の首脳が会議を開いた。ウクライナのNATO加盟を歓迎すると共に、東部4州のロシア併合を認めない、と声明を発表する。参加国は、バルト3国(北からエストニア、ラトビア、リトアニア)、ポーランド、チェコ、スロバキア、ルーマニア、北マケドニア、モンテネグロである。ウクライナの加盟については、既に2008年4月2日にルーマニアの首都ブカレストにて、加盟各国の首脳により、議論されていた。当時は、ウクライナの他にも、ジョージア(当時の名称はグルジア)、北マケドニア(当時の名称はマケドニア)の3国が検討されていたのである。北マケドニアは2020年3月27日に正式メンバー入りしたものの、ウクライナとジョージアは、認められないまま、現在にいたる。2022年2月24日に、ロシア軍が、ウクライナに特別軍事作戦に踏み切った背景の一つには、ウクライナをNATOから引き離すためである。キーウの政府を倒し、親ロ傀儡政権の樹立を目論んだものの、早くも失敗した。ロシアとの領土問題を抱えるウクライナのNATO入りの早期実現は困難とみられている。NATO入りには、加盟30カ国の首脳が全会一致で承認する必要がある。申請から手続きを経て、正式加盟までの間、ウクライナ側は、独自の安全保障条約を提出した。首都名からキーウ安全保障条約といい、ウクライナの国土防衛のため、第3国の力が必要とNATOに訴えたのである。振り返ると、トルコで3月30日に行われた最後の第4回ロシア側との停戦協議において、ウクライナ側はクリミア主権の棚上げと共に、中立化を受け入れる考えを示していた。ロシア軍が占領地で民間人の虐殺、制圧を目指す町をターゲットに無差別爆撃を行う中、ウクライナ側は、完全に西側へ転じる意思を表明した。6月中旬には、一時的戦況で不利に立ったものの、米軍から供与されたハイマースを駆使して、8月下旬以降反転攻勢を加速させる。

 反転攻勢の立役者は、1973年7月8日に産まれた49歳のザルジニー司令官である。彼は、ソ連時代の上からの命令に従う旧来方式ではなく、現場の指揮官が判断するNATO方式に変えた。彼は短期間で成果をあげるべく、陽動作戦を仕掛けた。本来奪還目的はハルキウ州である。ロシア領ベルゴロドと隣接する同州は、ロシア軍が強固な守りを築いていた。いかに守備隊を移動させるか、腕の見せ所である。ザルジニー司令官は、8月14日に、侵攻当初ロシアが制圧した南部へルソン州の住民に、退避するように要請していた。

写真=ヴァレリー・ザルジニー総司令官 掲載元 ウィキペディア
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既に同州を流れるドニエプル川西岸までウクライナ軍の救出部隊は到達していたのである。ロシア軍のへルソン部隊は、相手の大規模掃討作戦に備え、ドンバス地方の攻略部隊に応援を頼んだ。ヘルソン防衛に人数をかけた分、ドンバス地方の守備は手薄になった。ウクライナ軍は、カウンターアタックのように、一挙にハルキウ州にも攻勢をかけた。最大の成果は、ロシア軍の補給基地として利用していたイジューム奪還だったのである。ロシア軍は、へルソン州において、守衛隊が辛うじて中心部を取り巻くようにブロックを築き、行政機関に住民投票を行うように指示した。州防衛ラインは辛うじて持ちこたえているとはいえ、崩壊は時間の問題である。

ウクライナ軍は、10月1日にハルキウ州のリマンを包囲し、ロシア軍を撤退させた。9月21日にロシアのプーチン大統領は、部分動員令を出し、軍人経験者から成る予備役30万人を対象に、順次戦地に投入する見込みである。徴兵から逃れるべく、南隣のジョージアとの検問所では、ロシアからの車が殺到した。軍事作戦が手詰まりになる中、ロシア国民の間でも不安の波が広がっている。

部分動員令の発令を可能にするプーチン大統領の署名が行われた9月21日、6月29日を凌ぐ最大規模の捕虜交換が行われた。ゼレンスキー大統領の口から明らかにされ、外国人義勇兵を含め、ウクライナの軍人は215人が解放されたのである。ロシア軍も55人の捕虜が、自国へと帰還した。仲介役を務めたのは、サウジアラビアのムハンマド皇太子だった。ロシア軍の捕虜収容施設から開放された外国人義勇兵10人は、チャーター機に乗せられ、サウジアラビアの首都リヤドを経由して、自国へと戻る。国籍は詳しく明らかにされていないものの、米国と英国の兵士が含まれたという。プーチン大統領自体は、ムハンマド皇太子に電話で謝意を伝えたことを明かした。

彼が、ウクライナ南部4州の一方的な併合を宣言したのは9月30日、不利になっている戦況の行方を隠す狙いもある。日を同じくして、ロシアがヘルソンに送り込んだ高官が、ハイマースによる攻撃を受けて死亡したことがわかった。タクス通信が伝えている。死亡したのは、ロシアが一方的にヘルソン州に設置した軍民行政府のアレクセイ・カテリニチェフ第一副長官、在宅中に2つのミサイルが着弾したことが原因である。カテリニチェフ氏は、ロシア国境警備隊と連邦保安庁(FSB)を含め、25年間努めたベテランである。

 詳細 Mashuup 2022年10月1日付け https://www.mashupreporter.com/himars-rockets-kill-russian-appointed-deputy-head-in-kherson/

ウクライナの支援を続けるNATO側は、複雑な事情を抱えている。旧ソ連の一国でNATOに加盟するリトアニアは、東隣にロシア連邦の飛び地カリーニングラードを抱えている。リトアニアは、国防費をNATO基準のGDP比2%から2,5%に引き上げ、厳戒態勢をとった。侵攻に備えて、射撃場に通う人々が多くなっている。2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻前まで、カリーニングラードとロシア本土とを自由に貨物船が行き来していた。

 写真 掲載元 藻谷浩介が歩く「ロシアの飛び地カリーニングラード」2017年4月3日
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EU諸国の経済制裁に合わせるかのように、リトアニアはロシアからの輸送物の取締りを強化していた。7月13日にリトアニア外相は、過去3年間の平均輸送量を越えない程度に認めると発表した。リトアニア議会では、6月にEUの対ロ制裁対象となっている石炭や金属、建材などを、リトアニア経由での輸送を禁止していたのである。ロシアの強い抗議を受けてEU欧州委員会は7月13日、軍用品以外なら列車の通過は可能との指針を発表した。ロシア本土とカリーニングラードの物流をとめれば、軍事作戦で手詰まり状態に陥ったロシアを刺激しかねない。7月26日に再開一便が出発し、ロシア本土へセメントを運んだ。


アメリカのバイデン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は10月4日、共に電話協議したことを明らかにした。バイデン氏は、新たに6億2500万ドル(約900億円)の軍事支援について説明した。高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」4基の追加提供も含まれる。米国防総省によると、提供を表明したハイマースは、計38基に及ぶ。ウクライナへの米軍事支援は、ロシアの軍侵攻以来、計168億ドル(約4兆4200億円)を超える。 NATO各国は、ロシアへの刺激を最小限に抑えながら、軍事物質の援助を続ける。

 10月7日付け、ロシア軍が完全に掌握したルハンシク州で動きがあった。ウクライナ人のハイダイ州知事が5日付けで、6つの集落がロシア軍から解放されたと明らかにした。ゼレンスキー大統領は6日付けのビデオ演説で、南部ヘルソン州だけで今月以降、「500平方キロ・メートル(東京23区の約8割相当)以上を奪還した」とアピールした。追随するようにウクライナ軍幹部は翌6日、29集落を奪還したと戦果を報告する。

後手に回ったロシアのプーチン大統領は5日、ウクライナ中南部にあるザポリージャ原子力発電所をロシアの管理下に置く大統領令に署名した。9月初旬に原発を視察したIAEAの調査団のラファエル・グロッシ氏は6日、キーウにてゼレンスキー大統領と会談し、原発はウクライナのものであるとの考えを伝えた。

 ロシアは5日、一矢報いるべく、キーウ近郊にて、イラン製無人ドローンで攻撃した。インフラ施設は破壊され、負傷者が一人でたものの、幸い死者はいない模様である。ロシアが自国領土に組み入れたザポリージャ州では、オレクサンドルスタルク知事が同日、ロシア軍からの攻撃により、2人の死亡と5人の行方不明者が出たことを明かした。同州では9月29日、民間人が乗っていた列車が爆撃を受け、少なくとも30人の死亡者が確認されている。世界のエネルギー事情を左右する両国の戦いは、始まってはや9ヵ月半、停戦協議も開催できないまま続いていく。
        

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