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2021年06月15日21:46

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作品を読む 『スタン・リー マーベル・ヒーローを創った男』を読む

 スタン・リー、という人がいる。数々のマーベル・ヒーローの生みの親だ。ファンタスティック・フォー、スパイダーマン、アイアンマン、Xメン等々。最近、MCUの映画を見ていた僕は、興味をもってこの大御所の伝記を読んだ。

 スタン・リーの人生をここで列記してもしょうがないだろう。詳しく知りたいなら本書を読めばいいし、そうでなければそれは変転と難関の人生の、そのダイナミズムを省略した要約になる。別にそういう事を書こうというのではない。

 ので、この本を読んで僕が興味を持った点、というのに限った話にしよう。まずスタン・リーは、本名はスタンリー・マーティン。そう、名前をさらに分割して、ペンネームにしたのである。このスタンリーはユダヤ系ルーマニア人の両親の下で生まれた。

 ユダヤ人迫害、というとナチスを想い出すだろう。けど、この本では、それよりずっと根深いところで、ユダヤ人の迫害運動があったことを「なんとなく」書いている。「なんとなく」というのは、特記するほどの事でもない感じで書かれているためで、つまり欧米ではユダヤ人迫害の歴史は、当然のこととして踏まえられている、という事だと判る。

 で、その内容だが、原文を引用しよう。
『20世紀初頭、東欧からユダヤ系移民が大量にアメリカに流入していたが、この若者二人(スタンリーの両親)もそうだった。数十年におよぶ反ユダヤ主義政策(ユダヤ人迫害運動)がヨーロッパとロシアを席巻し、無数のユダヤ人が殺された。その結果、アメリカへの移民数は1880年には5000人だったのが、1907年には25万8000人に跳ね上がった。1857年から1924年の間にヨーロッパ各国からアメリカに移住した人の数は総計でおよそ270万人にのぼる』

 ユダヤ系移民たちは迫害を避けるため、それぞれ母国を軸にコミュティを創っていたようだだが、なかには英語ができない人というのも沢山いたらしい。スタンリーの両親は、仕立て屋をやっていたようだが、暮らしは楽ではなかった。そこに1929年の大恐慌がくる。

 その貧困に耐える生活から、スタンリーはとにかく貧困から脱出することを考えるようになったという。後にスタンリーは尋常じゃない仕事量をこなすのだが、それは創作意欲がもあるが、むしろ「貧困にならないため」という衝動もあったのではないかと思われる。

 僕が興味深く思ったのは、このアメリカが第二次世界大戦が終わった時の描写である。本はこう書いている。
『戦争が終わって国内にはまた活気が戻り始めていた。配給やら自己犠牲やら我慢一色だった時代が去り、あらゆるジャンルの大衆文化が鮮やかな色、音、イメージと共に一気に花開いた』

 意外だった。日本で戦後がこのように語られるのは判る。日本の戦時体制は、まさに配給と自己犠牲を強いる我慢の体制だったからである。それに対して、物質的に豊かなアメリカは、なんか消費生活を満喫しながら、余裕しゃくしゃくで日本に勝ってたと思っていたのである。

 しかし戦時中は、アメリカも同じだったのだ。「戦争に勝つため」と言って国民に我慢を強いて、その担保に自己犠牲を美化する。そういうやり方は、日本でもアメリカでもまったく変わってなかったのだ。これは意外な、そして大きな発見だった。

 もう一つ、興味深く思ったのは、アメリカにおける『反コミック運動』の激烈さ、である。1938年、全米良俗図書連盟なるカトリック系の組織が、≪有害図書≫の反対運動を始めた。この波はしかし、戦争に途中して一端収まる。

 しかし戦後、1954年に反コミック運動のリーダー、精神科医のフレデリック・アーサムという人物が、「犯罪、性的倒錯……嘘、インチキ、残酷さ。コミックが若者の頭に植え付けるものだ」と唱えて、一斉に広がった。実際に、多くのコミックが焚書処分にあったということである。

 これも日本のマンガ蔑視の歴史にそっくりだ、と思った。永井豪ちゃんの漫画なんか、典型的に攻撃された時期がある。もっと時代を過ぎても、桂正和の『ビデオガール』とか、「性的描写がひどい」と非難されたこともある、…いや、実際にエロかったけど。

 なんか、アメリカでもおんなじ事してたんだなーとか思った。それともう一つ、日本とアメリカの類似点をあげる。それは、スタン・リーと手塚治虫の親近性だ。

 二人とも異常に仕事が早く、超大量の仕事を物凄い勢いでこなしている。こういう人物がジャンルの黎明期にいることが、そのジャンルの隆盛に必要なのかもしれない。この二人は、人気のポイントもある意味では似てる。

 スタンリーの最初のブレイクは『ファンタスティック・フォー』なのだけど、それは「それまでのヒーローにない、人間らしい苦悩や葛藤を描かれた」ヒーローとして人気が出た。この究極の姿が、「冴えない高校生のヒーロー」であるピーター・パーカー=スパイダーマンだったのである。

 手塚先生は「ロボット」に「人間的な悩み」を持たせた。そういうところが、何かスタン・リーと手塚先生の親近性を感じさせる。僕は自分を手塚先生の息子だと思ってるけど、アメリカにはスタン・リーの息子が沢山いるのだ。それがMCU映画のヒットを一番底の部分で支えたに違いない。
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