mixiユーザー(id:40224526)

2020年08月09日22:19

25 view

妄想探偵社

〜探偵曳田の初仕事〜

梅雨の中休みといった晴れた日の
カラッとしないどちらかというと蒸し暑い日の夕刻
妄想探偵社初のクライアントが事務所のドアをノックした

『すみません こちら妄想探偵社さんでしょうか?』

事務所開設の資金繰りがままならず
事務所の扉の厚手のスモークガラスに
楷書の事務所名を入れる事が出来なかったので
クライアントは集合ポストの社名と部屋番だけを頼りに
この部屋を訪れたのだろう

…声からして30代前半の女性
旦那はエリート街道を順風満帆で進5年先輩の営業マン
奥さんも男女を問わず好かれるタイプで
周囲の誰もがうらやむ職場結婚をして寿退社して1年
旦那の仕事が遅くなるのは同じフロアにいたので理解できるが
最近夕飯のドタキャンが多くなり
たまに真夜中にタクシーで帰ってきたりする
結婚前に付き合っていた頃には一度もなかった行動
そう言へば入社して間もない頃
新人歓迎会で先輩からまだあってもいない旦那の人気ぶりを
聞かされたことを思い出して一気に不安がつのり
周囲に相談する人もいないのでこの事務所を訪れた…

ってところかな

「はいそうです どうぞお入りください」

ドアを開けて入って来たのは30代前半のファッションモデル
顔負けの女性だった

『もう依頼事はお受けになられているのでしょうか』

「はい」

あなたが開業初めてのクライアントです 
とにやけそうになるのを堪えていたって冷静に嘘をついた
クライアントに不安を与える言動はタブー そう嘘も方便だ

「今日はどの様なご相談事でしょうか?」

彼女がソファの前のテーブルに用意した冷たい麦茶を一口も
飲むこともなく吹っ切れたように話し始めた

『私は職場結婚をして会社を辞めて1年になります
主人は5歳年上の……』

僕はこの探偵業が天職なのかもしれないとそう思った
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する