今から１世紀前の１９２１年、現在のザンビア（当時は北ローデシアと言った）の亜鉛・鉛鉱山の発破作業中、ブロークン・ヒル洞窟（カブウェ）堆積層から１個の完全に近い頭蓋（写真）が転がり出た。
眼窩上隆起も著しい怪異な頭蓋に鉱山監督は、頭蓋を木の棒に指して、黒人従業員を脅して作業に駆り立てるのに使った。
◎ジャワ原人とも違う進歩的側面からホモ・ローデシエンシスと命名
しかし頭蓋は、幸いにも脅しや見世物にもならず、当時の宗主国のイギリス、ロンドン自然史博物館に送られ、当代一流の古生物学者アーサー・スミス・ウッドワード（写真）の手に渡った。
ウッドワードは、この頭蓋が現代人とは違う、アフリカのネアンデルタール人と考え、「ホモ・ローデシエンシス」（ローデシア人）と命名した。
この当時、古人類はヨーロッパでネアンデルタール人、ハイデルベルク人、アジアではジャワ原人が知られていたが、アフリカでは南アフリカ、タウングでもっと古そうなアウストラロピテクス・アフリカヌスの幼体（タウング・チャイルド）が見つかっていただけだった。
低い脳頭蓋、巨大な眼窩上隆起など、ジャワ原人（当時はピテカントロプス）と似ていたが、脳容積は１３００�佞肇献礇鏝郷佑茲蠡腓�く、また顔面突出も弱く、ピテカントロプスよりは新しそうだった。
そこで、ウッドワードは進歩的側面を見て、この化石をホモ・ローデシエンシスと命名した。
◎現在はホモ・ハイデルベルゲンシスに包括
ただ鉱山の発破採掘中に発見されたために、肝心の化石包含層が残されておらず、年代ははっきりしなかった。化石の形態から、ジャワ原人より新しく、大雑把に５０万年前頃と想定されていた。
その後、ヌドゥトゥ湖（タンザニア北部）やボド（エチオピア）などアフリカ各地で類似化石が発見され、それらはホモ・ローデシエンシスのグループに含められる一方、ヨーロッパのネアンデルタール人より古いハイデルベルク人化石などを含め、もっと包括的にホモ・ハイデルベルゲンシスと分類されるようになった。
このローデシア人に、このほど久しぶりにライトが当たった。
◎新しく得られた年代は約３０万年前、この頃には……
イギリスの科学週刊誌『ネイチャー』の最新４月１６日号で、国際研究チームはホモ・ローデシエンシスの基準標本であるローデシア人化石そのものの年代を研究し、２９万９０００年前±２万５０００年という年代値を提出した。
約３０万年前の年代は、ホモ・ハイデルベルゲンシスとしては新しい数値で、さらにこの頃にはアフリカ各地でホモ・サピエンスが出現していた。また同時期に、南アフリカの一角に小型人類ホモ・ナレディも共存していた。
さらにユーラシアに目を拡げると、ホモ・ハイデルベルゲンシスと、さらにそこから派生したと考えられるホモ・ネアンデルターレンシス（ネアンデルタール人）、デニーソヴァ人、ホモ・エレクトス、ホモ・フロレシエンシス、ホモ・ルゾネンシスが進化していた。
新たに得られたカブウェ（ローデシア人）の年代は、我々ホモ・サピエンスの進化と彼らと多様なヒト族とどう関わりがあったのかに、新たな謎を投げかけている。
◎重度の虫歯に悩まされていた
最後にローデシア人について付言すると、狩猟採集生活だった原始人に珍しくかなりひどい虫歯に悩まされていたらしいことだ。上顎に残された歯１０本が虫歯に冒されていた。あまりにひどい虫歯で、この個体は激痛に苦しんでいたはずで、おそらく虫歯から膿が出ていて、そのために感染症で亡くなったのだと推定されている。
狩猟採集民は、一般に硬い肉や根茎類などを食べて、虫歯の原因となる炭水化物の摂取は少ない。たまに食べても、繊維質の多い食物で「歯が磨かれた」状態になる。そのためつい最近まで世界各地に残っていた狩猟採集民にも、ほとんど虫歯の患者はいなかった。
このローデシア人個体は、いったい何を食べ、これほどひどい虫歯にかかったのだろうか。
注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
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