自分は幼いときから喧嘩ばかりしている。
憎んでも憎みきれない奴もいた。
でもある時を境に、少しだけ考え方が変わった。
それは相手の環境を見るうちに、相手もそれ相応の問題を抱えている、そんなことが多いからだ。
幼い頃、自分から金を恐喝しようとしたあるものは父子家庭でいつも父親から折檻を受けていた相手だった。
またいつも裏で陰口をいう人間は在日で親が毎日馬鹿にされ苦労している両親をもっていた。
とある奴などは家に帰っても両親不在。
小学生のころ、こんなことがあった。
いつも自分にからんでくる奴がいた。
名前はとりあえずAとしておこう。
友人の多さをかさにきて、集団になるとコロリと性格がかわって取り囲んでくる。
毎日なのでさすがに銀次郎も頭に来ていた。
今でもおぼえている、小太りでむっちりしていて色白、彫刻刀で切れ目をいれたような両目をしていた。
いつもはち切れそうなシャツをして、腹は出がちで、半ズボンもはち切れそうだった。
ある日、そいつ、Aをケンカの強い友人Mと待ち構えることにした。
友人Mもそいつの軽佻浮薄さに飽き飽きしていたのだ。
自分とMは仲がよかったせいもある。
学校の帰り道、Aは通りかかった
Mは有無を言わさず、躍りかかった。
Aは一瞬、ハっとした顔をしたが、頭を両手に抱えしゃがみこんでしまった。
Mはケンカ慣れしていた。
そのまま殴ると拳を痛めると思ったのだろう、Mはまずドガ!とAの横腹を蹴ると、Aを横倒しにさせ、そのまま手を使わず蹴り続けた。
ドガ!ボコ!、鈍い音が鳴り続けた。
Aはいつもの調子はどこへやら、頭にかぶっていた赤いカープの帽子をとなりに落としたまま
「うえーん、うえーん」
と泣きじゃくっていた。
「・・銀次郎!お前の番じゃ!」
とMは言った。
自分はすかさず後につづいて蹴りをいれようとしたが、躊躇いてしまい、どうしても蹴れなかった。
「・・・どしたんじゃ銀次郎?お前がやるゆうてきたから・・わしもほんならゆうてきたんじゃろうが?」
「・・ん」
Aには幼い妹と弟がいた。
時折近くのスーパーで、その幼い妹と弟、両手をつないでくることがあった。
妹らしき小さい子が
「おにいちゃん。・・・このガムどうしてもほしいんよ、梅ガムとフィリックスガム・・・」
とAにいまにも泣きそうになってせがんでいる。
Aは幼い妹をあやすようにして
「・・でもお前、100円のポテトチップスこうたじゃろ?みんな100円づつしか小遣いもろうてないんじゃけん、お前は120円ぶんになるじゃろ?」
妹らしき小さい女の子はそれでも泣いて
「・・ほんでも・・ほんでも・・」
とAを見つめていた
「・・わかったよ、それじゃあもうこうてええ。」
たぶんAは自分の100円を削って幼い妹のガムのぶんを払ったのだろう。
なぜだろう、泣きじゃくるAを前にして、ふとそんなことを思い出してしまった。
思い出さなくていいのに。
「・・銀次郎、やっちゃれえやあ。」
Mは後ろで自転車にまたがり疲れたように言った。
カラカラ自転車のステップを空回りさせている。
「・・もう、ええわい。」
自分はMにそういうしかなく、ゆっくり踵を返して自分の自転車にまたがった。
上はもう小学生のときの記憶だが、今でもありありと覚えている。
相手に情けをかけていたら、その倍があとになって返って来る、その後そう思うときも多かったが、もうおじさんといわれる年になって、この思い出がよみがえる。
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