真夜中、三宮についた。
さすがに家出したのを後悔したのか、Mがとぼとぼついてくる。
「・・どしたんならM?もう家が恋しゅうなってしもたんか?」
とMに聞くと、Mはタイガースの帽子のつば越しにこっちへ顔をけ、むくれた。
「恋しゅうなんてあるかいや!ボケ!」
しかし、その顔には心細そうな影がありありと見える。
「・・心配すんなや・・・ついてこいやあ」
自分はそういって先先進んだ。
三宮は山に囲まれている、街を抜け。坂をあがった闇につつまれる住宅街にくると、さすがにMはいぶかしんだ。
「・・どこにいくんや?銀次郎・・・」
「・・もうちょっとや。」
住宅街を抜けて狭い路地を入ると、闇に廃屋があった。
「・・・げえ・・!」
Mは後ずさりした。
「・・・なんじゃ?不満なんかいの?」
そう自分が聞くとMは
「・・お化け屋敷やんか!」
つばを飲み込みながらそういった。
「・・ほうよ、周囲からはそう思われとるの。・・」
築30年以上は経っているだろう、闇に包まれたその廃屋は、近づく者を威圧する力があった。
和風でありながらもところどころ洋風を取り入れたその屋敷は月明かりを浴びて禍々しい空気を放っていた。
Mが怯むのも自然ではある。
しかし銀次郎は過去、家出のたびにそこを開けていて中に入っていた。なぜならこの周辺は過去銀次郎が親と共に住んでいたことがあるからである。
周囲からもお化け屋敷と言われていた。
「ええけんついてこい・・」
そういって背ほども伸びた雑草をかき分け屋敷へと入る。
Mは周囲をみながら心細そうについてくる。
ぎいい、がしゃん、と玄関のドアをしめて中に入る。
「・・ちょっとまってえな・・銀次郎・・真っ暗じゃあ・・」
奧へ奧へと銀次郎は進む。
今にも踏み外しそうな床の廃屋、Mはやはりこわいのだろう。
顔には不安がありありと浮かんでいた。
しかし奧に進むとそこには一転してこぎれいにしている部屋が合った。
そこの部屋にある蝋燭を10本ばかりつける。
ほていの焼き鳥だとか丈の浅い缶詰の空き缶を10個ほど家のところどころにならべ明かりをとる。
思わずMが息をのんだ。
「・・・うわあ。。きれいな部屋やあ・・」
Mがそういったのは無理も無い、自分が家出に拠点化している部屋なのである。
掃除もしている、中古だが簡易ベッドもある。
自分はここをはじめてMに見せたのであるが、正直Mがよろこんでくれたことに鼻が高かった。
数々の蝋燭に明かりがついた室内は荘厳な雰囲気さえあった。
トイレも不自由ない。ちょっと歩くが、塀越しのとなりに小さい公園があった。
「風呂はの・・・とあるでかいホテルが街にあるけえ、週に2−3回そこに入りにいきゃええんじゃ。子供じゃけえ客の連れじゃと思うんじゃろ、入ってもばれんのんよ。」
Mはふんふんと聞いていた。
「水だけはの、ここにはないけえ、一リットルのコーラビンに公園でくんだ水をいれとくんじゃ、・・・じゃけど水だけはひんぱんに中身をいれかえんと腹痛をおこすど。」
明日からMとの家出生活が始まる。
Mには今まで銀次郎の経験をそのまま教える。
疲れた自分たちはそのままその日はひとつのベッドで寝床についた。
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