息を切らしてMと隣町まで走り抜け、ようやく隣の駅まで付いた。
自分はMに
「こっちにこいやあ・・」
というと、一件の立ち飲み屋に案内した。
そこはいぜんやくざのてっちゃん(記憶のいい人だったら憶えているだろう)に言われた場所で
「・・腹がへったらここに来て飯を食え、ここでならタダでなんぼくうてもかまわんからな」
と教えてもらったところだった。
だから時々きているが、なんでもてっちゃんの元子分がやっている場所らしい。
この立ち飲み屋はどて焼きがおいしくてごはんが何膳でも食えた。
(土手焼きとは大阪名物で、味噌でたいたモツ煮のことである。)
「・・おっちゃん、いつものどてやきとごはん、くれんかなあ・・でも、今日はとなりのこの子もおるんや、わるいけど、ふたりぶんたのむわあ。」
「・・なんや・・ぎんちゃんか、・・オーケー、ほなまっとってな。」
ここの店主はいつもご飯を大盛りにしてくれて、土手焼きの上に白ネギたっぷりと、あと自家製のキムチをくれる。
自分はまっていましたとばかりにそれをかきこんだ。
店主は自分たちにご飯をくれると、あとは愛想良く酔客の相手をしている。もとヤクザとは思えないが、うすい白シャツの下にうっすらとわかる入れ墨がそれをわずかに示している。
TVは阪神巨人戦を映し出していた。
Mは腹がすいているはずなのに、飯に手をつけようとしなかった。
「銀次郎よ・・ホンマだいじょうぶなんかの俺ら?」
Mがそんな弱気なことをいいだしたのを自分は初めて見た。
「・・世の中の・・あがいとったら、飯とふとんはついてまわるりょうにできとる。」
でもこのセリフ、やくざのてっちゃんの受け売りだ。
自分は今更そんなことをいいだしたMに軽いいらだちを憶えながら飯にくらいついた。
ここの土手焼は、白飯にかけ、かるく七味をふると最高なのだ。
そんな食いかたををする自分を横目に驚きながら、Mはお行儀よくそれぞれに箸をつけている。
人間どんなことにしても育ちがでるものだ。
-続く
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