家出となると自分の方がクラスのガキ大将格のMより一枚上手だった。
当時大阪のとある繁華街にいたが、大阪は下に行けば行くほどガラが悪く、自分は不良達に囲まれたこともある。
「逃げるんなら上じゃなあ・・・」
それを聞いてMは不思議な顔をした
「・・なんでや?ミナミとか、にぎやかそうでええやん。」
「・・バカ言うな・・淀川渡って南にいきゃあぐれた奴らぎょーさんおる、狂犬けしかけてくるやつもおるんじゃあ。逃げるんなら兵庫へむかってのほうがなんぼか安全じゃ。」
Mはきょとんとした顔をして
「なるほどのー・・」
というような顔をした。
自分たちはとりあえず駅に走った。
自分のとりあえずの目的地は三宮だった。
三宮は外国人が多く、彼らが建てた廃墟もいくらかあり、潜むのに適している。
色々な国の子供がいる土地柄か、子供が昼間から行動していても比較的目立たない場所だったのである。
しかし、もよりの駅にちかよって、椿事が起きた。
駅前の繁華街に、カマキリがいた。
カマキリというのは、自分がつけたあだなで、駅前の繁華街にいつもいる奴だった。
前のめりにあるき、顔が極端な逆三角形で、目玉だけがギョロついている。風貌がカマキリににている、だから自分がつけたあだ名だ。
年は自分たちよりいっこ上らしい。
自分はこのカマキリが苦手だった。
自分より弱い物をみつけると、必ず難癖をつけ金を巻き上げるような奴だった。
喧嘩になりそうになると、走り回ってゲーセンなどにいる仲間を呼ぶ。
彼は自分のことを「全日空」と呼んでいた。
自分が当時来ていた赤いシャツに「全日空」のロゴがついていたからだろう。
自分は彼に会うといつも100円か200円とられていた。
カマキリはいつもポケットに武器をもっていた。
自転車のダイアル錠だった。それをチェーン代わりにふりまわしている。
「こいつはの、万能武器よ、手にまとめてにぎりゃあ破壊力いっぱつよ」
と言っていた。
とにかく、いやな奴と出会った。
自分は、カマキリの視線を交わしながら、Mと共に駅に近づこうとしたが、めざといカマキリに見つかってしまった。
「・・全日空やないか!」
「・・ああ、うん、アニキ、ごぶさたです」
自分はとりあえず愛想よくした。
喧嘩になって怪我をしても、家出生活でえるものはなく、それどころか死活問題だからである。
カマキリはアニキとおだてていれば、機嫌はいいので、自分はそう読んでおいた。
ただしかし、Mはこのカマキリに反抗的な目をしていた。
「・・なんじゃそいつ?」
カマキリは自分に聞いてきた
「・・ああ、仲のいいMというともだちです。」
といったが、Mの目は闘志に燃えていた。
「・・ふーん、仲のいいねえ・・でもおれにゃあそうはいかんみたやなあ」
険悪なムードになった。
いわゆるガンのつけあいになっている。
Mはクラスでこそガキ大将だが、サラブレッドのガキ大将だった。
ピアノも習い、そろばんにも通っている。
借家住まいではあるが、親はそこそこ金持ちでもあった。
「おい、M、いこうやあ。」
といって、ポケットに手をつっこんだMをカマキリとの対峙から引き離そうとするが、Mはカマキリを睨んだまま自分の手をふりほどいた。
「・・あっちゃー・・・やばいのう・・・(こんなところでトラブル起こしたら、家出どころじゃあらへんが)」
自分はそう顔を覆いたい気持ちだった。
「・・こっちこいや・・まさかタイマンはいやとはいわんわな?お前」
そう静かに言ったカマキリが、Mと自分を路地裏に誘おうとした。
「何がタイマンか」
カマキリがそういっても仲間の元へと誘導する常套句だと自分は知っていた。
カマキリはママチャリのハンドルをV字型に改造した自転車に乗っている。
ゆっくりゆっくりと走り、Mと自分を誘導している。
そのカマキリがパチンコ屋の手前に入った刹那、自分は思いきりカマキリの背中に跳び蹴りをいれて、カマキリの身体を自転車ごと、置き自転車の集団へ蹴り込んだ。
ガチャガチャーン!と派手な音がした。
軍艦マーチの音のするパチンコ屋店内から自動ドアで店員が走り出してきた。
カマキリは「うおおお」と脚を抱えている。
「今じゃM、走れ!!」
といってMと逃げた。
逃げながらMは自分を罵った。
「ハァハァ・・・ひきょうやないか、銀次郎、後ろからなんや?」
「・・だからお前は”おぼっちゃん”なんや・・!ええから走れ!!」
とりあえずやみくもにMと繁華街を走った。
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