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2020年03月01日13:13
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｢チグリスとユーフラテス」上・下 ／ 新井素子
新井素子さん…
何冊か既読だったつもりでいたけれど、
実は初読みの作家さんだった。
私にとっては､それほどよく目にして､
そのタイトルにちょっと興味をもってきた作家さん
だったらしい｡(笑)
ある書評では、
｢新しい世代の言語感覚による＜文章で書いた漫画＞」
と評される作品たち。
本書もそんな感じだった。
【 上 】
＞1st. マリア・D
私が生まれたのは移民惑星｢ナイン｣。
321年赤の月28日 眠ったのは351年白の月
今は多分宇宙歴430年前後？
不治の病を得、未来の医療に賭けコールドスリープに入り…
突然起こされた！
高度な医療施設で未来の医者たちに囲まれ目覚めるはずだったのに
そこにいたのは､幼児の格好をした老婆だけだった！
その老婆は､ナイン最後の子供として生まれ､惑星上最後の１人になった｢ルナ｣。
結局マリアは､惑星ナインに何が起きたのかも､ルナの目的もわからぬまま、
治らなかった病で逝くが…
ルナは、次々にコールドスリープしていた人たちを起こしていく。
＞2nd. ダイアナ・B・ナイン
148年ナインで生まれ179年発病、181年萌木の月コールドスリープ。
想定外にルナによって目覚めさせられるも、
惑星管理局員というエリート､その中でもデキル女だった私、
今は、437年青の月とすぐ把握。
状況を理解し､母星地球へ救助派遣要請をしたが、
届いたのは各種生物の番の遺伝子。遺伝子救援物質だった。
しかし､そう遠くない時に逝く私と子供のまま年齢だけ重ねたルナには
各種生物の生育は無理！ 昆虫ならと蛍の番を孵化させてみた。
この2匹にルナは｢チグリス｣｢ユーフラテス｣と命名した。
次にルナが起こすヒトのため､以上､記録を残しておく。
どうも、363年以降子供は生まれなかったようだ。
＞3rd. 関口朋美(トモミ・S・ナイン) 画家
移民船団でやってきた35人のクルー。
その直系の血を引く25人の特別世代。
その子孫である私は80年前後のナインの特権階級だった。
50年代にナイン移民が完了し、
ほとんどが人工子宮で生まれた人工子宮児グループ。
彼らの姓は全て｢ナイン｣
対して､特別世代直系の人間には姓があった。
そして私の姓は｢関口｣
それだけでこれまでの人生全てを優遇されてきた。
それを苦痛に思う時もあったけれど、
お父様は､今はそれを享受し
貴族の義務＝Noblesse obligeを忘れるなと仰った。
そして… 存在すら無視していたルナだけど、
結局、彼女を救って命を落とすことに…
これがNoblesse obligeなのよね…
読み始め、
コールドスリープから突然目覚めさせられた女性の視線で
物語が始まるも、
想定外の覚醒の理由は？
惑星ナインに何が起きたのか？
？？？
ワカラナイ。 妙なオバアサンが｢ルナちゃん｣？
それが徐々に状況が見えてくる。
地球から夢を抱いて移民してきた人間たち。
その夢が叶おうかというような繁栄を経て、
出生率の低下という緩やかな社会の崩壊が始まった。
そしてそれは｢最後のこども｣を産み出すに至って終結する。
最初に起こされたマリア・Dが約80年前、
次がダイアナ・B・ナインで約250年前、
そして関口朋美が約300年くらい前(？)にコールドスリープに入り
つまり､
彼女たちの語る言葉で、読者はナインの終末から過去に遡る。
そう、移民惑星｢ナイン｣の逆さ年代記なのだ。
マリアの時代､数少なくなった生殖能力を有する男女は
それだけで特権階級だった。
その特権を享受しながら受胎できないマリアは、
毎月､自身の経血を見て妊婦に殺意を覚えたという、
そんな人口減少の行きつく先の社会。
それは､自分の死後残るのは大人になれない子供たち。
遺されたペットを看る者が居ないという前提に立つ
｢ペット飼うことは悪！｣という考え方にも表れている。
【 下 】
そしてルナは、ナインで最初にコールドスリープに入った
ナインの創始者｢レイディ・アカリ｣を起こした。
最後の子供になると知りながら､なぜ母は自分を産んだのか？
ルナはナインの女神であるレイディ・アカリに問い正したかったのだ。
4世紀に渡る眠りから目覚めた私の前に居たのは、
自分自身を｢ルナちゃん｣と呼ぶ老婆。
想定外だが､決してあり得ない事では無かったはずだ。
ナインの歴史の中で英雄視されている最初の軸となった４人、
惑星ナインの父｢穂高龍一｣
その妻でナインの女神レディ･アカリこと私､｢灯｣
35人のクルーのリーダーでナインの社会の基礎を創った｢馬場 明｣
その妻で人工子宮の権威｢さゆり｣
微妙な均衡の上に在った４人。
私たちは実は歴史に記されているような崇高な使命を持って
移民船に乗りくみナインに降り立ったわけではなく…
子の居ない私… だからこそ！と女神に祭り上げられ
ナインの宗教の要とされ､不本意ながらコールドスリープについたが、
こうして目覚めて気付いた。
これは､ナインが危機に瀕した時､起こされるだろう私に、
その危機を何とかして回避せよという、明が私に押し付けた宿題だ。
しかしココまできてしまった惑星崩壊。
私は気持ちを切り替えた！
惑星間移民とはもはや人間のために興された事業では無い！
地球の生き物を惑星間移動させる事業なのだ！
と思おう！
最後の子供となってしまったルナを始原の母にするしかない。
惑星の主役は､人間､類人猿どころか哺乳類でも、
鳥､魚ですらない！
本当に重要な移民は､植物､土壌生物､昆虫､水中生物。
星が生きているということは彼らが活動している星だ。
実は大変怖ろしい､世界の消滅の話だが、
文章で漫画を描く新井さんの作品。
なんだかクスッと笑いながら、
その恐怖を消化してしまう。
何が怖いって、
とてつもない非現実的なはなしではなく、
近い将来､その兆しが見えそうだと思えることが、
読む者をゾワゾワさせるのよね。
ルナは､自分が最後の子供とされたことを恨み…
母を恨み､その過程に居た者を恨み､
最終的に移民プログラムの実行者たるアカリに
復讐を企てた。
のんびり眠るアカリを起こして、
あなたがヤッタことにナンの意義も意味も無かった､と
知らしめてやる､という復讐を。
そう突きつけられたアカリは､しばしたじろぐ
が！ 結局､
｢悲惨であろうがなかろうが、人生は生きるに値する｣
というアカリの基本姿勢は全てを凌駕する。
ということで、
馬場明が1番正しかったのかなぁ〜？
という話？(笑)
たしかに面白かった。
独特の作風にハマる人､多数､というのはワカル。
私は､ハマるというところまでは行かなかったけれど…(笑)
しかし…
実際、とてつもないプロジェクトやら、
何か創設の偉人たちって、こんなものなのかもしれないな〜。
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