銀次郎の少年時代、田舎に住んで不登校になり、家出してしまったことは何度か書いたが、田舎ほど立場の弱いものにとって暮らしにくいものはない。
家出して数日経つと
「・・XXのところのスーパーで米がいろいろなくなったそうじゃが、あれ銀次郎じゃけな」
だとか、しまいには
「わしんとこの牛が、死んでしもうたんじゃが、銀次郎に農薬いれられたんじゃなあか??」
そういうやってもいないことまで言われるようになった。
田舎に越してきたよそものほどつらいものはない。
「・・お前らがそうおもうとるんだったら、ほんまにやっちゃろうか。」
そう思い詰めていたこともあった。
田舎の人間にとって理解できないよそ者というものは、そういう風に悪事を重ねる人間でないといけないらしい。
自分は昼に出歩くと、人の目に付くので、夜出歩いてキャベツの廃棄クズをとったり、柿を2−3個もいで食うぐらいのものだったが、彼らには夜盗か何かに見えたのだろう。
山小屋に暮らしていたとき、ふとうわさが銀次郎の耳に届いた。
実は銀次郎はひとりではなかった。
時々人目を忍んであそびにくる小学生達がいた。
銀次郎は彼らにカブトムシの居場所を教え、カニ相撲のやりかたを見せ、子供達にとって希少だったオニヤンマを捕らえたりして、ちょっとしたヒーローだった。
親に銀次郎と遊んでいるという叱られるのだが、何人かは親にだまって遊びに来ていたのだ。
彼らの中には家から米をもってきたり、野菜をもってきたり、今思い出してもありがたい思い出がある。
それはそうと、うわさとはこうだ。
「ぎんちゃん・・○○駐在所のポリがぎんちゃんに説教したるいいよるで。施設にいれてやるとかイキっとった。」
根城にしていた山小屋、畳の上で寝そべり、茹でた栗を口にいれ、かみ砕きながら聞いていた。
ふーんといいながら・・ピンときた。
あそこの駐在ならそういうことを言うだろう。
ふだん町の人間に威張ってはいるが、町の出戻りでもどってきた独り身の女性にいいよってみたり、酒癖が悪かったり、ひとくせあるような駐在といううわさを銀次郎も聞いたことがある。
「むこうが探しているなら、こちらから出向いてやろう。」
ある日そう決心した。
銀次郎なりに釣り帰りの少年のふりをして、ある日の昼下がり、その駐在のいる駐在所に行ってみた。
「・・おお、なんじゃお前、釣りしてかえってきたんか?釣れたかあ?」
と聞いてくる。どうやら銀次郎だとわからないらしい。
「・・そうなんです、隣町からあそこの湾は釣れるゆうて来たんですけど、遠いですね。ちょっと疲れたけえ、この日陰でやすましてつかあさい」
というと、
「・・おお、おお、休んでいけ。それで、何が釣れたんなら?」
と聞いてきた。
意外と頭の悪い奴だと思った。銀次郎と気づいていないらしい。
「家族と食おう思うて、カレイでも釣れたら思うたんですが、釣れませんでした。」
と適当なことをいってごまかした。
「・・おおーかんしんな子じゃなあ、最近はのう、大阪からエライ奴がきたゆうてうわさになっとるが、きみはかんしんじゃのう・・」
お前の探している奴は、ここにいるのに、どんだけ頭が悪いんだ。
そのときとことんそう思った。
「・・それじゃあ、また来ますけえ・・」
と言って、駐在所を出た。
しばらくして、自分は用意していたものをとりだした。
山で捕まえたイタチを入れた袋だ。
これを思い切りなげると、着地したところで驚いて、イタチはむちゃくちゃ臭い屁をかますのだ。それこそ爆発するように。
駐在がこちらに背を向けているのを幸いに、それを投げ込む。
ブス!
と音がして、うわあ!という声が聞こえた。
イタチの屁の臭いはそんじょそこらではとれない。匂ったものでないとわからないと思うが、服につこうものなら、一週間は匂うだろう。あんのじょうその駐在はゲホゲホいっている。
ざまあみろ
銀次郎は脱兎のごとく走り、200mぐらい離れて、一人げらげら笑い転げていた。
それからさらに町の嫌われものになったのはいうまでもない。
今日ペットショップでフェレットを見て、ふとそんなことを思い出した。
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