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2019年04月13日19:16

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「神の島 医療検査官 ドクター貴崎」/米山公啓

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図書館で、書棚を見ながらブラブラしていて、
背表紙のタイトルに惹かれて取り出し、
いかにも医者モノっぽい表紙にも惹かれ
未読の作家さんだけど、
本、薄い(200数ページ)から、ちょっと読むのに良さそうと、
借りてきた。
<以下、完全ネタバレ>



第一章 岸 壁/第二章 出 港/第三章 航 海
第四章 帰 港/第五章 発 見/第六章 上 陸

物語は、
いよいよ、寝たきり老人は250万人を超え
国が、もう無理〜!と匙を投げ、
海外資本の流入を認め、多様な業種と併設も認められ…
そんな、本当に!もう間近 な、近未来の話。

自由な医療形態を、厚労省だけでは管理しきれなくなり
立上げられた特殊機関が「KIS(国立医療査察機関)」。
その一員である医師「貴崎」は同僚の看護師「五島由希」と、
沖縄の数十キロ先「岩身島」にある
老人ホームを併設した「小湊病院」に潜入した。
この病院、こんな僻地にあるのに入所希望者が絶えず経営が成り立つ
その実態をさぐることが目的なのだ。

まず、妙なのが、
老人病院特有の臭いが無く、
奇声を発したり徘徊するぼけ老人も見当たらず、
老人たちはみな、明るく陽気で…
老人施設がそんな幸せそうな人々ばかり、
だから不審、というのがなんとも悲しい話だが、
看護師も医師もみな、不満などなくにこにこ働いているのも
怪しい。

そんなある日、貴崎は、
いずれ充分な話をしたいというメモを寄こした
「牛山」という老人患者の手術を成功させるも、
彼は翌朝、心停止で亡くなった。
また、貴崎に声を掛けてきた老人「黒崎」が、
「ここは天国で地獄だ。今度ちゃんと話す。」とささやいた翌日未明
心筋梗塞で急逝。
これは、絶対何かある!と、喜崎は確信した。

そして、最後に明かされた秘密は?!

人間は、欲望が満たされ、満足している時、
脳にはエンドルフィン(脳内モルヒネ)が出て、
腎臓には細胞活性物質が大量に分泌される。
健康な人間のそれは抽出すべくもないが
満足して死を迎えた人間の腎臓には大量のそれがある。
それを抽出して、細胞の若返りを求める他人に注入すれば…

そのために在る小湊病院は、
満足して死を迎えるために、
治る見込みのない患者の、どんな希望・願いでも叶え、
幸せな死を迎えるための医療施設だったのだ。

若い妻と結婚するも財産目当てが露骨であまりに酷い妻、
彼女には絶対遺産を残したくない老人は、
妻の不慮の事故を知って、安心と満足の内に逝った。

息子の妻の極悪非道さを見かねていた老人は、
その嫁の不慮の事故を知って、安心と満足の内に逝った。

そんなこんな…

最期の願いは色々だが、
それが叶うと確信しているので、
ここの患者たちはこんなにも幸せに満ち、
最期の日々を過ごし、満足して逝くのだ。

小湊病院院長の「深見」は言う。
「20世紀初頭、病原菌と病気の原因を突き止めるのが医学だった。
 病気は治療せねばならない!
 次第に、医学は学問、科学中心となり、患者は医学の下に置かれた。
 だから、患者主体の医療などとあえて求められるようになった。
 しかし、日本では患者に我慢を強いた上に医療が成り立っている。
 医療の原点は、
 患者が望む医療を行う事ではないか?
 医者が興味ある医療や金になる医療は、
 それが合法であろうと正しくない。
 患者は何を望むか?それに医療は応えねばならない。」

「末期の病気で、本当に満足した死を迎えられるか?
 今の日本の医療の現状で、なにができる?」

結局、小湊病院で行われている事実は殺人も含め非合法で、
貴崎と由希は、軟禁状態の島から脱出し、
KIS本部に報告を終え、
院長は国外逃亡するも、送還され、
病院は一新され介護を中心とした病院に生まれ変わった。



あっさり読めてしまえる作品だったが、
年を取り死を確信した人間が望む事は
病気の治癒、長生き、ではなく、
やり残したことをやり遂げる事。
というのが心に響く。

今、自分は好き勝手な事をして生きて居られるけれど、
この先、何があるかわからない。
憎悪し、殺したい誰かに出逢ってしまうかもしれない。
あるいは、全身全霊を賭けて誰かを助けたいと思うかもしれない。
でも老体では実行は叶わず…
それが叶って満足の内に逝けるなら、腎臓なんてどうぞどうぞ!

延命拒否より一歩進んだ、自分で死を選択する権利、
本当に本人の意思であるとの確証の上で認めてもいいんじゃないか?
と思う昨今。
本作の院長の言う事にいちいち納得してしまう自分が居る。

こんな医療機関でなければ、
患者は幸せで満ち足りていられないんだよね?
新制なった小湊病院の患者さんたちはどんな顔をしているのかな?

ところで、
満足時に腎臓に細胞活性物質が分泌って、
事実なのだろうか?
そうなら、現実にその活用を考えてる秘密機関、
絶対アルな〜!
思い当たる国が、1つ… 2つ… 怖いな〜〜げっそり
幸せで満ち足りていることが必要条件!というところが救いだね。」
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