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2019年03月23日08:32

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八大龍王伝説 【580 知将対決(十) 〜急襲〜】


 八大龍王伝説


【580 知将対決(十) 〜急襲〜】


〔本編〕
「……林の麗姫様の一部、私が王である皆様方より貴重な存在と聞こえる、ご冗談めいた申しようはともかく、ナゾレク・エクサーズ急襲の可能性も全くあり得ないとは言いきれませんが、少なくとも他の部隊ないし、ロンドブルー将軍の部隊が、このナゾレク・エクサーズに向かってくるということであれば、それは必ず私の諜報網に引っ掛かります。
 つまり、迎撃か、またはその攻めてくる兵数によっては、この地を撤退することになるかもしれませんが、何らかの対処が出来る時間は充分にございます。そこはご安心ください!」
「ソジラールセン殿のそのご発言は頼もしい限りでありますが、少なくとも先ほどまでは、敵のロンドブルー将軍にソジラールセン殿もシェーレ殿も手玉に取られ、後手を踏んでいたではありませんか? 現在、ロンドブルー将軍の部隊の居場所を見つけられていらっしゃらないソジラールセン殿を、どこまで信用してよろしいかがいささか疑問ではあります。
 今、この最中にも、ここにロンドブルー将軍の部隊が乱入するとか、そのような事態は起こらないと、ソジラールセン殿は言い切ることができますか?!」
「言い切れます!!」
 ある一人の、失礼極まりない悲観的な発言に対し、ソジラールセンは、はっきりと断言した。
「先ほどまで、私とシェーレ殿が、ロンドブルー将軍に手玉に取られるが如く後手を踏んでいたのは、私とシェーレ殿がロンドブルー将軍という敵の存在に、ほとんど気付いていなかったためであります。
 ロンドブルー将軍を互角の敵として認識した以上、シェーレ殿は言うに及ばず、このソジラールセンにしても、ここに急襲してくるロンドブルーの部隊に気付かないなどという愚は決して起こしません。
 ロンドブルーが、クムルヲー殿を罠に嵌めて殺害させたり、私とシェーレ殿に後手を踏ませたり出来たのは、ロンドブルーを、シェーレ殿と私が正しく認識していなかったという、そのただ一点の要因だけであります。
 ロンドブルーを正しく強敵として認識できる立場に立てば、ロンドブルーも易々と我らを害することは出来ません。逆に、私がその状況で害されるような存在であれば、最初から反聖皇国のキーマンの一人にはカウントされないでありましょう。
 そういう観点から鑑みますと、ロンドブルー将軍を正しく強敵として認識している私やシェーレ殿ではなく、まだその認識にまで至っていない反聖皇国のキーマン――イチョウウニホウ殿を襲うのが、ロンドブルーにとって最も上策でありましょう。
 また、ロンドブルー以外の敵であれば、その数に応じて、迎撃もしくはナゾレクからの撤退を、私が考慮いたします。その点につきましては、シェーレ殿からもこの地に固執する必要がないことは申し渡されております。
 本当に守るべきは、各国の主要人物であられる王の皆様方なのですから……。そして今、ナゾレク・エクサーズから半径百キロメートル圏内に、敵のまとまった部隊はございません!」
 ソジラールセンのこの力強い言葉に、ここにいる皆が一様に認識できたことがある。
 ソジラールセンが、味方側のキーマンの一人であるという敵の認識の正確さをであった。

「シェーレ殿! 襲撃は成功しました! しかしながら、今回も目当てのロンドブルーではありませんでした!」
「そうですか! 易々(やすやす)とは討ち取れないとは思いましたが、これほどの強敵とは……。ロンドブルー将軍は、絶対に取り逃がしてはいけない!!」
 シェーレの指令は続いた。
「……風の旅人様! 少しお休み下さい! また、すぐに出撃をお願いすることになりますが……」
「心得た! しかし、今回倒した者も、おそらくはロンドブルーの十傑の一人ではあると思う。これで、三人の十傑を倒したことになるな!」
「いえ! 先ほど、十傑らしき者を一人討ち取ったと、メイランから報告がありました。なので、四人目にあたるかと……」
「そうか! 徐々にロンドブルー軍の力は削いでいるわけだな! それでもこの完全包囲から十二時間が経過して、まだ、ロンドブルー本人を討ち取れないとは……。これほどの敵であったとは……」
「私も、ここに来てロンドブルー将軍の評価を二段階ほど上げました。ロンドブルー軍を弱体化させているのは事実ではありますが、それでもロンドブルー本人を取り逃しては、ここまでのロンドブルー軍の力を削った努力も、ほとんど無に帰してしまいます。
 風の旅人様には、八衆や走人(はしりびと)の方々などの被害が甚大になってきてはおりますが、ここは、申し訳ございませんが、最後までお付き合いいただきたい!」
「むろんだ! そこは、シェーレ殿のシェーレウィヒトライン達や、ナゾレク兵の被害の甚大さも同様だ! これほどの敵は総力をあげて、ここで潰さなければ、我らのここまでの被害も全て無に帰す!
 既にカルガス國は、クムルヲー殿を始め、ガガヲー、ウヲーといった将の面々を失い、我がクルックス共和国もイチョウウニホウを失っている。ここで、ロンドブルーを取り逃がすことは、ここまでの全てを水泡に帰してしまう。
 我が風の旅人兵、全ての命を賭して、ロンドブルーを仕留めるまで、戦い続けよう!」
「ありがとうございます! 風の旅人様が、そのお気持ちであれば、万に一つもロンドブルーを取り逃がすことはないでしょう。あっ! 風の旅人様! 今、ご休息いただく積りでおりましたが、メイランからの天声で、ロンドブルーか十傑の誰かの、強行突破があった模様であります。
 今、紫の狼煙(のろし)が上がりますので、そこに急ぎ向かっていただきたい!!」
「むろんだ! あそこだな!!」
 シェーレの言葉の途中で上がった紫の狼煙の場所に向かって、風の旅人とその部隊は疾風の如く駆けだした。

 同年五月三一日。シェーレが、ナゾレク・エクサーズから強行軍として、タウィーア城に向かって三日目。
 シェーレと風の旅人連合軍は、ロンドブルー将軍の部隊と遭遇することに成功し、今、その部隊を包囲しつつ、削り取るように弱体化させている最中であった。
 既に、クルックス共和国のイチョウウニホウの裏をかき、彼の殺害を成し遂げたロンドブルー将軍であったが、彼の想像を遥かに超えた機動力で接近したシェーレと風の旅人連合軍の襲撃を受け、ロンドブルーは、自分の身の上に、ついに敵の刃(やいば)が迫ったのを実感したのであった。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 イチョウウニホウ(林の麗姫の重臣の一人)
 ウヲー(ヲーサイトル十将の一人。故人)
 ガガヲー(ヲーサイトル十将の一人。故人)
 風の旅人(共和の四主の一人)
 風の八衆(風の旅人に仕える八人の幹部衆)
 クムルヲー(ヲーサイトル十将の一人。知将。故人)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 ソジラールセン(カルガス國五賢臣の一人)
 林の麗姫(共和の四主の一人)
 メイラン(シェーレの片腕的存在)
 ロンドブルー(ダードムスの腹心の部下。将軍)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃)

(地名)
 タウィーア城(聖皇国東方王城防衛圏一地方の主要の城)
 ナゾレク・エクサーズ(元カルガス國の首都であり王城)

(付帯能力)
 天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)

(その他)
 風の走人(共和の四主の風の軍に所属する特殊部隊)
 シェーレウィヒトライン(シェーレの率いる特殊部隊。『シェーレの妖精たち』ともいう)
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