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2019年03月09日18:32

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八大龍王伝説 【578 知将対決(八) 〜シェーレの説明(後)〜】


 八大龍王伝説


【578 知将対決(八) 〜シェーレの説明(後)〜】


〔本編〕
 シェーレの説明が続く。
「……それでも、数で勝る北方四カ国連合軍は、同時に複数の城や砦を囲み、一つ一つを確実に攻略しております。いくら、イワヌ将軍が優秀とはいえ、指揮官の数では圧倒的に聖皇国側が不利であり、一つ一つの城や砦を孤立させ、補給を分断し、陥落させ、徐々に北方王城防衛網を弱体化させる戦略を実際に行っております。
 しかしながら、それが予想に反してうまく機能しておりません。その原因はダードムス三将軍の一人、バーゴ将軍による奇襲攻撃のせいであります。
 北方からの報告によりますと、バーゴ将軍の騎馬部隊は、機動力と騎馬特有の突進力を駆使し、王城防衛網の城や砦を囲んでいる北方四カ国連合軍の各部隊に攻撃を仕掛けているとのこと。また、移動中を襲われることもあるそうです。
 さらには、城や砦が陥落する瞬間の、主力部隊がまさに入城しようとして、城内に注意が特に注がれている隙を突かれたりもしております。
 いずれの場合も一撃離脱戦法により、一瞬にして勝敗が決し、他の部隊が援軍に駆けつけた時には、バーゴ将軍の騎馬部隊は既に影も形もないとのこと。短時間の奇襲のため、襲われた部隊が全滅することは基本ありませんが、それにより陥落寸前の敵の城や砦が陥落を免れて持ち直すことも、しばしば起こり、王城防衛網の拠点の無力化に、思いのほかてこずっているようであります。
 バーゴ将軍の騎馬部隊は、機動力並びに突進力に優れている部隊でありますが、なによりも特筆すべきは、その隠密性の高さであります。
 バーゴ将軍の索敵部隊の能力と、彼自身の独特の勘によるものと思われますが、北方四カ国連合軍の偵察兵が、一度として、バーゴの騎馬部隊の存在を前もって察知することが出来ないのであります。
 実際にドンクの騎兵軍やエアフェーベンの飛兵軍も、幾度となく奇襲を受け、辛酸を舐めさせられているそうです。そしてそれは、ミケルクスド國のライヒター将軍の軍や、ジュリス王国のボールハイン将軍の軍といったそれぞれの國の主力部隊も同様に被害を受けているとのことであります。
 ただ唯一、バルナート帝國の白虎騎士団だけは、襲撃されておりませんが、それは白虎のライアス軍団長の実力を知るダードムス碧牛将軍からの指示からだと思われます。
 実際に白虎騎士団が援軍に近づいていると知るや、バーゴ将軍の騎馬部隊は襲撃途中であっても、すぐに姿をくらますということです。
 兎に角、バーゴ将軍の襲撃の直後に、イワヌ将軍が適材適所の部隊を城や砦に送り込み、陥落寸前の城や砦がそのまま持ち直したり、一旦分断された補給線が修復されたり、場合によっては、一度は陥落した城や砦を奪い返されたりもしております。
 北方戦線は、バーゴ、イワヌの二人の将軍の働きにより、かなりの苦戦を強いられております。
 そして、その二人より優秀なロンドブルー将軍の働きにより、比較的順調であった我々東方連合軍も、まさに暗雲が立ち込めて参りました。
 ……以上、長くなりましたが、それが現在の状況であります。それでは、続いてこちらが打てる手についてご説明いたします……」

 ここまでシェーレが話したところで、さらなる緊急の報がここにもたらされた。
 その報は、クムルヲーの部隊と共に一度はガガヲーの部隊の救出に向かいながら、クムルヲーの指示により途中から引き返し、アグロクティマ城に戻るべく移動していたウヲーの部隊の者からであった。
「緊急です!! ウヲー様の部隊は、突然現れた敵兵の襲撃により壊滅! ウヲー様も戦死されました! ウヲー様の部隊を襲撃した敵部隊は、そのままアグロクティマ城も急襲! わずか数分で、アグロクティマ城を奪われてしまいました!!」
 この報は、この場に集まっていた全ての者の言葉を失わせるのに十分な効果をもっていた。
「襲撃した部隊の司令官は誰だ!」
 そこにいた誰かが大声で、ウヲー部隊全滅を報告した兵に問いただしていた。
「確か、ロンドブルーという名の将軍だと……!」
 恐らくは、報告している兵が、その名前の重要さに最も気づいていなかったであろう。
 ロンドブルーという名は、この緊急軍議の場の空気を、さらに数度下げてしまったようであった。

「しかし、ご安心ください!」
 ウヲーの元にいた伝令兵の意外な言葉であった。
「私は、ナゾレク・エクサーズへの伝令として派遣されましたが、別の者が、ナゾレク・エクサーズよりアグロクティマ城に近いタウィーア地方へも、同じ伝令を出しております。
 その者からの天声スキルによる伝言によりますと、タウィーア地方を攻略中のクルックス共和国の兵が、直ちにアグロクティマ城に急行するそうであります。強行軍であれば、一日でアグロクティマ城に到達することも可能であります。もう間もなく、クルックスの先遣部隊が、アグロクティマ城に攻めかかり、敵の数倍の兵力を誇るクルックス共和国の兵が、三日とかからずアグロクティマ城を再び陥落させましょう。
 これは、タウィーア地方におられるクルックス共和国イチョウウニホウ様からの伝令だそうであります!」
 この伝令兵のさらなる報告を聞き、軍議の場にいる何人かはホッと安堵のため息をついたが、むしろそれ以外の者は、何か言い知れぬ不安を肌に感じた。

 その中で、
「しまった!!」
「これは、すぐに動かねば……!!」
 二人の人物だけが、明確な危機感を理解した上での、上記の一言を発していた。
 最初のがシェーレ、続いてソジラールセンの一言である。
「ソジラールセン殿! ナゾレクは貴殿にお任せいたします!」
「シェーレ殿! 貴女が直接に向かわれるのか?!」
「それしか手がありません! 林の麗姫様! 風の旅人軍をお借りいたします!」
「うむ、よかろう。どれくらい必要だ!」
「申し訳ございませぬが、全軍お借りいたします! 風の旅人様には、行軍中に私のほうから仔細を全てお伝えいたします! 後、ナゾレクの私の兵のうちから、騎兵と飛兵の精鋭も全て持っていきます。当然ではありますが、メイランとシェーレウィヒトラインも全てです!
 それでは、私はすぐにここを経ちます。ナゾレク・エクサーズについては、ソジラールセン殿にお願いいたします。主力を全て持っていきますので、仮に聖皇国の軍が、このナゾレク・エクサーズに向かってくるようでありましたら、ソジラールセン様のご判断で、場合によっては、ナゾレクの地から撤退されても構いません!」
「分かった!」
 ソジラールセンがそう答えた時に、軍議の席にシェーレは既にいなかった。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 イチョウウニホウ(林の麗姫の重臣の一人)
 イワヌ(ダードムスの腹心の部下。将軍)
 ウヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 エアフェーベン(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人。元ソルトルムンク聖皇国の紫鳳将軍)
 ガガヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 風の旅人(共和の四主の一人)
 クムルヲー(ヲーサイトル十将の一人。知将。故人)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 ソジラールセン(カルガス國五賢臣の一人)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 ドンク(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人。元ソルトルムンク聖皇国の銀狼将軍)
 バーゴ(ダードムスの腹心の部下。将軍)
 林の麗姫(共和の四主の一人)
 ボールハイン(ジュリス王国の将軍)
 メイラン(シェーレの片腕的存在)
 ライアス(バルナート帝國四神兵団の一つ白虎騎士団の軍団長)
 ライヒター(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右腕と呼ばれる人物)
 ロンドブルー(ダードムスの腹心の部下。将軍)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 アグロクティマ城(アグロクティマ地方の主力の城)
 タウィーア地方(聖皇国東方の地方。東方王城防衛圏の一つ)
 ナゾレク・エクサーズ(元カルガス國の首都であり王城)

(付帯能力)
 天声・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)

(その他)
 シェーレウィヒトライン(シェーレの率いる特殊部隊。『シェーレの妖精たち』ともいう)
 白虎騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ライアスが軍団長)
 碧牛将軍(ソルトルムンク聖皇国七聖将の一人)
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