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2019年02月09日12:21

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八大龍王伝説 【574 知将対決(四) 〜重なる不運〜】


 八大龍王伝説


【574 知将対決(四) 〜重なる不運〜】


〔本編〕
「連携がとれていないのも当然であります!」
 伝令兵のトリーブが、シェーレの疑問に答えた。
「どうやら、ガガヲー様の部隊が敵の包囲を受けていたのは本当のことでありました。クムルヲー様の部隊が遭遇した敵部隊は、ガガヲー様包囲の一角であったようで、ガガヲー様包囲の方に全ての注意が注がれていたため、背後から現れたクムルヲー様の部隊には全く気付かなかったようであります。
 そして、ガガヲー様も、まだその包囲下にあって生存されておりました! ガガヲー様の危機を伝えた伝令兵は、クムルヲー様に報告した時点で拘束され、口を割らせて伝令兵は偽者で、敵兵であったことが判明しておりましたが、ガガヲー様が敵の包囲下にあり、その時点では、まだ生きておられたということは本当のことでありました!」
「大方、首尾よくガガヲー殿の部隊を包囲し、それを逆に利用してクムルヲー殿を誘(おび)き出したのは良いが、ガガヲー殿の部隊が強すぎて、それを全滅させるまでに至らず、あまつさえそのガガヲー殿本人を倒しきることが出来ない状態で、クムルヲー殿の部隊が、ガガヲー殿救出に間に合ってしまったという状況なのであろう。
 何とも粗(あら)が多い策だ! これではクムルヲー殿が、策略を用いた敵全てを平らげてしまいかねない状況となったな。しかし、それが何故?!」
 シェーレにも、この戦況下でクムルヲーが亡くなったという事実への流れが想像つかなかった。

「続きをお話いたします!」
 シェーレの疑問に対し、トリーブはあくまでも客観的にその後の顛末を語った。
「ガガヲー様の部隊が敵に包囲されていながら、まだ崩壊しておらず、さらにガガヲー様も生存されているということが分かった時点で、クムルヲー様は、自身がいる中間地点の兵二百を、前面に移動させ、前方の兵と合わせて五百の兵で、敵の五百を全滅させようとしました。この自身の前の敵さえ倒せば、ガガヲー様とその部隊は、敵の包囲網から脱出できるからであります。
 実際にクムルヲー様は部隊の陣頭に立ち、援軍として自らの部隊が到着したことを告げながら、敵兵に襲い掛かりました。ほどなく、包囲されていたガガヲー様が大声で、クムルヲー様の部隊が援軍に来た方向へ部隊を移動させるよう指示を出され、それにガガヲー様の部隊の指揮官たちも応じ、ガガヲー様の部隊がクムルヲー様の部隊の方角へ移動を始めました。
 私も、この時、クムルヲー様のすぐ傍(かたわ)らにおりましたので、その状況は手に取るように分かりました。とにかく、クムルヲー様の前面の敵五百は、クムルヲー様の部隊とガガヲー様の部隊に挟撃され、一気に隊として崩れ出しました。
 しかし、崩れ出したその部隊の兵たちが、一斉に大声で二種類の事を叫び始めたのであります。一つが『クムルヲー様の部隊が援軍として到着した。その数は五千を数える!』と言ったもの。そしてもう一つが『ガガヲーの部隊がさらなる罠にかかった! クムルヲーの援軍は見せかけで、本当は聖皇国の味方の軍が到着した!』と言ったものでありました。
 それが、相反する叫びであると同時に、奇妙なのは、それを叫んでいる兵たちは、当然ながら、次々とクムルヲー様とガガヲー様の部隊に挟まれて、死んでいくということであります。
 つまり、その兵たちは、自らの死すら顧みず、敵を混乱させる策戦を、冷静に遂行しているようでありました。そんなことが、シェーレ様! 実際にあり得ますか?!
 そして、さらにはその壊滅していく兵たちの中に、聖皇国のレーヴ将軍の姿もありました!」
「レーヴ将軍!! 六将大戦役の六将のお一人であられたクーロ将軍の末裔に当たる老将軍か! 粘り強い用兵が持ち味の聖皇国の英雄的な将軍! 老齢ゆえ第一線から退かれてはおられるが、グラフ将軍よりさらに一世代前の三将軍のお一人であられた重鎮中の重鎮であられるお方! 本当にレーヴ将軍がその中におられたのか?!」
「むろん私は、レーヴ将軍の尊顔は存じ上げてはおりません! しかし、将軍の兜の正面に、金の十字に、金に限りなく近い黄色の竜が巻き付いている装飾品をお見かけいたしました。あの紋章は見間違えようもございません! 六将クーロ将軍の末裔の証である『黄竜』の紋章であります!」
「確かに『黄竜』の紋章は、聖皇国の前身の聖王国時代からの国旗にも記される金の十字に、神以外では六将のみに許された竜の彫物。他国の兵であられるトリーブ殿であっても、見間違えることはないな。しかし、そのような伝説的英雄とも言えるレーヴ将軍が、何故、ガガヲー殿の包囲の一部隊を担当されていらっしゃるのだ!」
「私には、全く理解できません。当然ではありますが、レーヴ将軍も五百の兵と共に、クムルヲー様とガガヲー様の部隊に飲み込まれ、命を落とされました。
 しかし、レーヴ将軍の配下の兵たちが叫んだ二種類の情報がきっかけで、クムルヲー様とガガヲー様の部隊は一瞬、同士討ちを演じてしまいました。
 時間にして五分程度ではありましたが、それでも偽援軍に騙されたと思い込み、決死で向かってくるガガヲー様とその部隊の前には、クムルヲー様の部隊も必死で応戦しなければ、自分たちが倒される程の切羽詰まった状況でありましたので、結局、クムルヲー様の部隊の兵も、ガガヲー様の部隊の兵と分かっていながらも、本気で応戦いたしました。結局、この五分間の同士討ちで百人程度の死傷者が出たほどです。
 それでもクムルヲー様は、ガガヲー様の兵と直接切り結びながらも、本物のクムルヲー様であることを、終始アピールしておりました。そのクムルヲー様の直接のアピールが無ければ、荒天(こうてん)の影響でそれぞれの顔が確認できない暗がりの中、五分でその同士討ちが終わることは無かったかもしれません。
 しかし、クムルヲー様が、同士討ちを早期に終わらせるため、部隊の最前列でアピールしていたことが災いし、クムルヲー様は、ガガヲー様の部隊を装った敵兵によって討たれてしまいました。
 このような不運さえ重ならなければ、クムルヲー様が亡くなることはなかったと思っております。ご運が無かったと……」
「……」
 このトリーブの説明に、シェーレはしばらく黙り込んでしまった。
「あるいは偶然では無いのかも……」
 しばらくして、シェーレがポツリと呟いた。
「はっ?! シェーレ様。今、何かおっしゃられましたか?」
 トリーブがシェーレに尋ねる。
「一つ、トリーブ殿に確認しておきたいのですが、クムルヲー殿の背後から急襲した三千の兵の指揮官は誰か分かりますか? 名は分からずとも、せめて、位ぐらいだけでも……」
「……指揮官の名が、たしか、オフサルマーパン……! そう、オフサルマーパン将軍でありました!」



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 クーロ(龍王暦二〇〇年代の六大将軍の一人)
 クムルヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の将軍)
 ガガヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 トリーブ(クムルヲーの腹心)
 レーヴ(ソルトルムンク聖皇国の将軍。六大将軍クーロの末裔)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)

(その他)
 三将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部。天時将軍、地利将軍、人和将軍の三人)
 六将大戦役(龍王暦二百年代の大戦争。ソルトルムンク聖王国の六大将軍が活躍した戦いであったため、その名がつけられた)
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