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2018年09月15日17:56

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八大龍王伝説 【553 ミケルクスドのガイエル(中)】


 八大龍王伝説


【553 ミケルクスドのガイエル(中)】


〔本編〕
「開門願おう! 私は、ジュリス王国の将モグボースである! 同盟のミケルクスド國の援軍としてこの地に到着した! 開門の上、留守の責任者に拝謁願いたい!」
 翌二二日午前二時。ミケルクスド國の王城イーゲル・ファンタムの北門に到着した兵は、門番に向かって北門を開けるよう要求した。
 王城北門守備兵は、本来であれば門を開くことを拒む時間帯ということもあるが、暗がりの中にあっても千を優に超える軍勢に恐れおののき、ジュリスの軍勢には、その場で待機を言い渡し、留守部隊の長であるガイエル将軍の指示を仰ぐべく、将軍の私邸で留守部隊の本陣に至急の使いを送った。

「何?! ジュリスの兵が北門に到着したと……。朝方の到着かと思ったが……。成程! 分かった! 俺もすぐに北門に行く! 俺が行くまでモグボース将軍には待っていただくよう伝えろ! くれぐれも粗相のないように!」
 ガイエルは既に眠っていたが、すぐに起き上がり、身支度を始めた。
「ガイエル様! いくら同盟国の軍勢とはいえ、夜間の訪問、おかしくありませんか! 守備兵の話によれば、千を超える軍勢とのこと。確かジュリスからの兵は五千と聞いておりますが、まだ味方かどうかは判別つきません!
 先ずは三千の留守兵を北門に集結させ、朝になって改めて軍勢を確認の上、開門をいたしたほうが……」
「いやフェイロス! ジュリスのモグボース将軍は、留守兵の三千の内、一千がこの俺の直属の兵でないことを知っているのであろう。
 ……であれば、夜半に王城に入ることによって、その一千の兵を鎮圧し無力化できると考えたのであろう。それにイーゲル・ファンタムには、それ以外に十万の住民もいる。
 住民たちを従わせるためにも、朝方気づいたら五千のジュリスの兵がイーゲル・ファンタムの要所を押さえているのがいいとモグボース将軍はご判断されたのであろう。
 我らとしてもそのほうが、都合が良い! 直ちに北門に向かうぞ!」

 それからわずか二十分後の午後二時二十二分。ガイエルとその側近は、王城の北門に到着し、ガイエルは北門の守備兵に命じ、イーゲル・ファンタムの北門を開けさせた。
 大きく開いた北門から、多くの騎馬兵が続々と入城し、その先頭の騎馬兵がおもむろに、ガイエルとその側近の前に近づいた。
「私はジュリス王国の将、モグボースである。貴殿が王城留守部隊の将であられるガイエル殿で間違いないですか?」
「いかにも、私がガイエルであります。わざわざ遠路はるばる援軍として参られ、かたじけなく思います」
 ガイエルは、騎馬にまたがっている将の前に一歩進み出て、恭しく頭を下げた。
 しかし、その騎兵はホースから降りることなく、こう続けた。
「いやいや、同盟国の最重要拠点である王城が敵の手に奪われるとの情報を得まして、ユンルグッホ王とその叔父にあたりますイデアーレ殿が、直ちに、私に五千の兵と共に、その阻止に向かうよう申し付けられました。
 ところでガイエル殿! その賊はどこにおりますか?」
「賊は、私の直属の兵以外の一千でございます。この兵は、ラムシェル王の家臣の一人ライヒター将軍直属の兵であります」
「はて?!」
 馬上のモグボース将軍は、少し怪訝な口調となった。
「ミケルクスドのライヒター将軍と言えば、ラムシェル王の右腕とも言われるお方。その方の直属の兵が賊軍でございますか?」
「無論です!」
 ガイエルの言葉。
「ラムシェル王の右腕と言われるライヒター将軍こそ、ラムシェル王の信頼もことのほか厚く、ザッド殿並びにイデアーレ殿の目の前に立ちはだかる敵として、最もミケルクスド國において手強い軍勢となります。
 そして、その直属兵千人をこちらに引き込むのは絶対に不可能です! 今からそのライヒター直属の兵が休んでいる兵舎をお伝えいたします! 直ちに兵を差し向けていただければと……」
「貴殿は本当にミケルクスド國の将軍のお一人、ガイエル殿で間違いはないのですか?」
「間違いありません! 私は、聖皇国のザッド殿と、ジュリスのイデアーレ殿と同じく反八カ国連合側であります!」
「成程! よく分かりました。最後にガイエル殿で本当にお間違いないか、お顔を確認させていただきます」
 そう言うと、馬上のモグボース将軍は、家臣の一人に命じ、松明(たいまつ)をガイエル将軍の顔近くに持ってこさせた。
 松明の明かりによってガイエルの顔は、モグボース将軍からはっきりと見てとれた。

「ガイエル様! 少しおかしくありませんか?!」
 ガイエルの側近のフェイロスが、ガイエルに囁(ささや)く。
「モグボース将軍は、ガイエル様と一度もお会いになったことはないはず。それでは、ガイエル様のお顔を見ても、ガイエル様本人かは確認できないはずでは……!」
 ガイエルも、フェイロスの囁きにハッしたが、既に遅かった。
「ガイエル殿本人で間違いありませんか?」
 モグボース将軍は、すぐ横にいた馬上の兵に尋ねた。
「間違いありません! そして先ほどの言葉で、我がラムシェル王を裏切ろうとしているのは明々白々です!」
 ガイエルは、モグボース将軍の隣にいる兵は、当然モグボース将軍の側近でジュリス王国の者と思っていたが、その者が『我がラムシェル王』と発した言葉に驚きを隠せなかった。
 『我がラムシェル王』と発する以上、ミケルクスド國の者であるということである。
「貴様! 何者だ!!」
 ガイエルが狼狽(うろた)えるように、自分の顔の確認した騎兵に向かって叫ぶ。
「もうお忘れか! ガイエル将軍殿!」
 モグボース将軍の隣の騎兵は、部下から松明を受け取り、自分の顔を、その炎で照らした。
「ハ、ハリマ将軍!! 何故、貴様がここに?!」
 ガイエルは絶叫したが、その声は裏返り、むしろ掠れたように弱弱しく周囲に響いた。
「むろん、我がラムシェル王に仇名(あだな)そうとしている敵を倒すためだ! 今回の場合は、味方のフリをしていた忘恩の将がそれにあたるが……」
 モグボース将軍の隣にいた人物は、ミケルクスド國の将軍の一人であるハリマその人であった。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 イデアーレ(ジュリス王国の将軍。ユンルグッホ王の叔父)
 ガイエル(ラムシェル王の家臣)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。黒宰相)
 ハリマ(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右脳と呼ばれる人物)
 フェイロス(ガイエル将軍の側近)
 ユンルグッホ王(ジュリス王国の王)
 モグボース(ジュリス王国の将軍)
 ライヒター(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右腕と呼ばれる人物)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

(その他)
 八か国連合(ミケルクスド國のラムシェル王の提唱によって実現した八大龍王によって建国された八か国による連合軍のこと)
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