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2018年09月09日16:10

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八大龍王伝説 【552 ミケルクスドのガイエル(前)】


 八大龍王伝説


【552 ミケルクスドのガイエル(前)】


〔本編〕
 少し話を遡る。
 同年三月一五日。ミケルクスド國、並びにステイリーフォン聖王子を擁する正統ソルトルムンク聖王国――いわゆる正統王国の連合軍が、ミケルクスド國の首都であり王城であるイーゲル・ファンタムから進軍を開始した。
 当初は、急襲してくる聖皇国に対抗すべく、二月中旬に急遽進撃する予定であったが、ラムシェル王の歴史的演説から、聖皇国側のドンクなど三将軍の離反、並びに聖皇国のシェーレの離反とカルガス國など三國の残党軍の蜂起などで、事態は一変し、ミケルクスド國軍の当初の聖皇国迎撃のための緊急性は失われた。
 結果、ミケルクスド國軍が王城を出発したのは、準備を十分整え、当初の予定より一月(ひとつき)後の進軍となった。
 そしてその進軍は、聖皇国の侵略に対する迎撃ではなく、八カ国連合の盟主国として、聖皇国との一大決戦を行うという意味合いに、大きく変化したのであった。
 先鋒隊がミケルクスドのライヒター将軍。
 第二軍が正統王国のグラフ将軍。グラフ将軍は、七日前の同月八日に六将制度の復活により優時将軍となった。
 そして、第二軍に続くのが本軍であり、ラムシェル王とステイリーフォン聖王子の二人が直々に率いることとなった。
 その他、右翼がミケルクスドのフィーネ将軍、左翼が正統王国のスルモン将軍、そして遊撃の後方かく乱別働隊として、ミケルクスドのハリマ将軍が、十日前にイーゲル・ファンタムの地から進軍していた。
 一五日の段階では、ライヒター将軍率いる先鋒隊のみがイーゲル・ファンタムを出発したが、三日後の一八日には、ラムシェル王とステイリーフォン聖王子の率いる本軍もイーゲル・ファンタムを離れ、残ったのはミケルクスドのガイエル将軍三千の王城留守部隊だけであった。

 ガイエル将軍は、王が住まうイーゲル・ファンタムの王宮から数百メートル離れている自らの私邸をその留守部隊の本陣として構えていた。
「ガイエル様。うまくいきましたな。ついに我らの悲願が達せられる時! あの青臭い若造の驚き、そして打ちひしがれる顔が今から思い浮かびます!」
 今、ガイエル将軍の本陣には十人の家臣が集まっていたが、皆、ガイエルの側近であった。
 先述の言葉は、その側近一人のものであった。
「ジール! 恐れ多くも我が国王にあたられる御方(おんかた)を『青臭い若造』などと……、死罪に値するぞ! ハッハッ」
 ガイエルは、ジールと呼ばれる側近の言葉に、笑いを交えながらそう呟いた。
「ガイエル様。失礼いたしました。しかし、間もなく元王になられるお方。そこは、ミケルクスド國の新王になられるガイエル王のお許しをいただければ、幸いでございます」
「うむ。余がお前の罪を許そう!」
 ガイエルが、冗談を交えながらジールに応じ、そのやり取りに他の側近は一斉に笑った。
 このジールとガイエルの会話から、青臭い若造がミケルクスド國のラムシェル王のことを指しているのは明白であり、今イーゲル・ファンタムに居座っているガイエル軍が、ラムシェル王に反旗を翻そうとしているのも、火を見るより明らかであった。
「しかし滑稽ではありますな!」
 別の側近が笑いながら応じた。
「対ソルトルムンク聖皇国として掲げた八カ国連合の立役者である王本人の首都が、腹心の家臣によって乗っ取られるとは……。そのような事が起これば、八カ国連合などという構想は、その場で霧消し、結局、それに付き合って立ち上がった愚か者共は、聖皇国によって各個撃破で潰されるでありましょう」
「その通り! 今、その夢のような構想によって八か国連合は、超大国の聖皇国を一時的とはいえ凌ぐ勢力となっております。それを挫くきっかけとなられるガイエル様の功績は、真に大きいもの!
 一度はクーデターを失敗し、一生、日陰者として生きていかなければならなかった我らが、ラムシェル王陣営に煮え湯を飲ませることができるとは、ここまで堪えてきた甲斐があったものです!」
「うむ。それは俺も一緒だ! あと数日で全てが変わる。俺は晴れてミケルクスド國の王となり、お前たちもミケルクスドの中枢を担う重臣や将軍となる!」
『おお〜! ガイエル王! 万歳!!』
 そこにいる全員の唱和であった。
「しかし一つ懸念がございます……」
 皆で一様に盛り上がった後、その中の一人が口を開いた。
「当初は、ガイエル様直轄の二千人が留守部隊となる予定でありましたが、直轄でない別の兵一千が追加されました。この一千の兵をどのようにいたしましょうか?
 またこの王城にいる十万の住民もいかがいたしますか? 非戦闘民とは言え、これだけの数を掌握するのはかなり難しいのではないでしょうか?」
「うむ。フェイロスの憂いは尤もである。さすがは我が腹心のうち一番の知者といわれるフェイロス! しかしそれは全くの杞憂だ。明日には援軍がこのイーゲル・ファンタムに到着する!」
「援軍でありますか?! しかしまだ、この王城付近に聖皇国の軍が到達しているという情報は得ていませんが……。もし近くまで来ていれば、ラムシェル王の諜報機関である『草』に察知されるはずであります!」
「聖皇国の兵ではない! ジュリス王国の水軍が、ヴェルトの北海岸に沿って、ここに向かっている! 昨日の報告では、五千の兵が明日の未明にはここに到着するとのことだ!」
「ジュリス王国の水軍が援軍ですか?! ……と言うことは、ジュリス王国は、我がラムシェル王の八カ国連合から裏切るということですか?!」
「フェイロス! 裏切るのではない! 聖皇国に協力し、八カ国連合と称している賊軍を敵とするということだ!」
「八カ国連合にジュリス王国が加わらないとなれば、連合の構想が根本から崩れますな。これは痛快だ! 成程! 確かに我がミケルクスド國、そしてバルナート帝國と足並みを揃えて進軍を開始するはずのジュリス王国がまだ聖皇国に向けて進軍を始めていないという情報を得ております。
 表向きは、ジュリスの王が病床にあるとの理由ですが……。まさか、そのジュリスの兵五千が、このイーゲル・ファンタムを占拠するために動いているとは……」
「ああ。ジュリス王国の権力者は、未だに二十に満たない若造のユンルグッホ王ではない! 今は元ゴンク帝國領の領主となっている王の叔父にあたるイデアーレ殿が実質的な権力者だ! 前王の弟君に当たり本来はジュリス王国の王となるべくお方だ!
 そのお方が、聖皇国のザッド宰相と結託し、裏で糸を引いている。おそらくは、バルナート帝國の帝都にも、兵を送り込み帝都の占拠を画策しているはずである。
 また、ある筋からの情報で、イデアーレ殿は、元ゴンク帝國領であり、ミケルクスド國の領土となっているヒールテン地方と、バルナート帝國領のロモモテン地方をも既に強奪したとのことだ。ロモモテン地方の占拠に関しては、十日ほど前の今月の四日らしい。
 これなどはイデアーレ殿が、ミケルクスド、バルナート両国を、敵とみなしたという証であり、そのイデアーレ殿が実質的な権力者であるジュリス王国も我らの味方ということだ!
 ジュリスの兵五千がイーゲル・ファンタムに到達したら、我らは王城の門を内側から開き、彼らを中に引き入れる。それで全てが決まる!」
 ガイエル将軍は勝利を確信していた。

 龍王暦一〇六一年三月二一日。
 ラムシェル王が、王城を離れて三日後の出来事であった。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 イデアーレ(ジュリス王国の将軍。ユンルグッホ王の叔父)
 ガイエル(ラムシェル王の家臣)
 グラフ(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。黒宰相)
 ジール(ガイエル将軍の側近)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 ステイリーフォン聖王子(正統ソルトルムンク聖王国の唯一の聖王後継者)
 スルモン(グラフの腹心)
 ドンク(正統ソルトルムンク聖王国の六将の一人。元ソルトルムンク聖皇国の銀狼将軍)
 ハリマ(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右脳と呼ばれる人物)
 フィーネ(ラムシェル王の家臣)
 フェイロス(ガイエル将軍の側近)
 ユンルグッホ王(ジュリス王国の王)
 ライヒター(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右腕と呼ばれる人物)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 正統ソルトルムンク聖王国(ソルトルムンク聖王国のこと。龍王暦一〇六一年のヴェルトの宣言で作られた言葉。略して『正統王国』ともいう)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 正統王国(ソルトルムンク聖王国のこと)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)
 ヒールテン地方(元ゴンク帝國の一地方。現在はジュリス王国領)
 元ゴンク帝國領(ゴンク帝國がツイン地方に移封される前の領地。ヘルテン地方を始めとする五地方のこと)
 ロモモテン地方(元ゴンク帝國の一地方。現在はジュリス王国領)

(その他)
 草(ミケルクスド國の他国に土着しているスパイ)
 八か国連合(ミケルクスド國のラムシェル王の提唱によって実現した八大龍王によって建国された八か国による連合軍のこと)
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