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2018年08月18日17:03

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八大龍王伝説【549 ニーグルアーサーの遺志(一) 〜帝國の滅亡〜】


 八大龍王伝説


【549 ニーグルアーサーの遺志(一) 〜帝國の滅亡〜】


〔本編〕
 龍王暦一〇六一年、聖皇暦五年三月一〇日。
 聖皇国七聖軍の一つ黒蛇軍は、八千を率いて、現在のゴンク帝國の帝都のあるツイン地方に進軍を開始した。
 ツイン地方は、ヴェルト大陸の南部に位置する海岸沿いの盆地であり、非常に痩せた土地であり、一万人を養う分の食料しか確保できない地域であった。
 そのため、既に多くの元ゴンク帝國民が、この地から去っており、現在は千人余のゴンク帝國民しか住んでいない。
 おそらく、正規の帝國兵は百人に満たないであろう。
 そして、大陸の内陸に向かう、北方の道筋の先にあるマルドス、カムイの両城には聖皇国の兵が常駐しており、南方の海洋側も、七聖軍の一つ蒼鯨軍によって封鎖されている状態であり、ゴンク帝國は完全に孤立させられていた。
 グロイアス将軍率いる黒蛇軍は、十九日にツイン地方に到達し、早速、ツイン城を幾重にも包囲した。
 元々、マルドスとカムイの二城があって、初めて難攻不落の地となるツイン地方であり、ツイン城単独であっては、平地に位置する平凡な城に過ぎなかった。
 黒蛇軍に包囲された頃には、ゴンク帝國兵はさらに減り、三十人程度であり、城を守るに必要な最低限の数にすら足りない有様であった。
 結果、ツイン城は一日で陥落し、帝王であるニーグルアーサーも城内にて自害し、三月二〇日にゴンク帝國は名実共に滅亡したのであった。
 既に今から八年前、ニーグルアーサー帝王の弟にあたるバルディアーサーの、ソルトルムンク聖王国への反逆というでっち上げの事件により、当時の帝都ヘルテン・シュロスは、聖王国により占拠され、その時に王族のことごとくが粛清されていた。
 そのため、ニーグルアーサー帝王の死により、ゴンク帝國の王族の血は全て絶え、ゴンク帝國は完全滅亡し、二度と帝國が復活することはないと誰もが思ったぐらいであった。
 しかし、ニーグルアーサー帝王は思わぬ形で帝國の命脈を、ある人物に引き継いだのであった。

「そうか! 完全にゴンク帝國は滅亡したか!」
 スーコルプは、配下のチャックライルからの報告に、ため息をまじえながら、そう独語していた。
 スーコルプは、ゴンク帝國の地下組織の長であり、常に反政府の立場で活動をしていた。
 それでも、ゴンク帝國政府の施政に、全て反対するわけでなく、善政に対しては、それを後押しし、場合によっては、卑劣な犯罪に手を染めながら、帝國政府の目を盗み、国外に逃げた輩(やから)などは、スーコルプの地下組織が捕え、そのままゴンク帝國政府の手に引き渡したりすることもあった。
 いずれにせよスーコルプの地下組織は、ゴンク帝國という独裁政治に対する政府外の審査の目であり、そういった立場の手足としての役割も同時に担っていた組織であった。
 ゴンク帝國政府と、スーコルプの地下組織は、基本、お互いに連絡をとるような繋がりは持たなかった。
 しかし、ゴンク帝國の帝都ヘルテン・シュロスが、ソルトルムンク聖王国によって占拠され、ゴンク帝國がツイン地方という辺境の一地方となり、実態として滅亡とほぼ同じ状況になった時、帝王ニーグルアーサーからの働きかけで、スーコルプの部下であるチャックライルが、ニーグルアーサー帝王とスーコルプの伝令役となり、初めて繋がりが出来たのである。
 スーコルプの地下組織は、ゴンク帝國がツイン地方に移った後も、元ゴンク帝國領に留まり、帝王の代わりに、ゴンク帝國復興に向けて様々な活動を展開していた。
 元ゴンク帝國領を吸収したソルトルムンク聖王国にしても、噂ではあるが、反ゴンク帝國の地下組織の存在は知っていたので、内々に調査したり、時には懐柔を試みたりして、スーコルプの地下組織を壊滅させようとした。
 しかし、元々何代にも渡って地下組織として、ゴンク帝國政府の誤りを、様々な形で指摘したり、場合によっては協力したりしながら存続していたため、にわか政府の聖王国には、その尻尾すらつかむことはできなかった。
 基本、反政府組織ではあったが、あくまでもゴンク帝國という屋台骨があっての浄化的な機関であったため、ゴンク帝國そのものが滅亡した今となっては、完全にその存在意義が失われ、スーコルプとしてもいいようのない寂しさを感じざるを得なかった。
 特に、ゴンク帝國がツイン地方に去った後は、帝國がヘルテン・シュロスの地に戻れるよう尽力していたため、それが果たせなかった悔しさは、どんな言葉でも表現できないほどであった。
「それで、お前は帝王の最期は見届けたのか?!」
「いえ、お頭! おいらは、帝國滅亡七日前に、ニーグルアーサー帝王からの要望でツイン地方から脱出しました。なので、帝王の最期までは見届けることはできませんでした!
 とにかく、帝王としてはお頭に、最後に言付(ことづ)けたいことがあるとのこと……。おいらも、何とか脱出できましたが、後一日遅ければ、黒蛇の奴らに捕まって、殺されていたでありやしょう!」
「そうか! よく無事に逃げおおせた! ツインの山を越えたのか?」
「いえ! 逆にツインの山に逃げ込んでは、聖皇国軍の山狩り部隊に見つかり捕まっていたでしょう。ツイン地方から逃げ出そうとしている一般の民に紛れ、マルドスルートから、そのまま脱出しました!」
「マルドス、カムイの両ルートは、一番検問が厳しいルートではないか! よくそのルートから脱出できたものだ!」
「それが、お頭。マルドス城の聖皇国兵は、帝王やその重臣が脱出するにあたっては厳しい目を光らせておりましたが、一般の民に対しては、むしろ脱出を容認して様子でありました。
 おいらも、帝王とお頭の橋渡し役はしておりますが、そのことは、極秘事項でありますし、そもそもおいらは、帝國の兵ではないので、持ち物全てを調べられましたが、何の問題もなく、マルドスルートを通過することができたというわけです。
 少し、おいらが考えていたような、敵国の民は全て皆殺しにするという鬼畜な聖皇国兵とはイメージが違いました。マルドスルートを通るようアドバイスしたのは、帝王自身でありましたが、これは一体どういうことなのでしょうか? お頭!」
「おそらくは、今、聖皇の元に黒宰相ザッドがいないからかもしれない! 今、聖皇の元にいる丞相(じょうしょう)にしても、実質的に聖皇の右腕的な存在のダードムス碧牛将軍にしても、仁徳の人物として聞こえてくる。そのような事情からかもしれない。あくまでも推測の域ではあるが……」
「お頭! ジョウショウって何ですか?」
「聖皇国の新しい役職のことだ! それについては後で説明する! それより一日遅かったら殺されていたとはどういうことだ!」
「噂の類ではありますが、おいらがマルドスルートを抜けた後に、聖皇国黒蛇軍の先鋒隊が、ゴンク帝國討伐にツイン地方のマルドスルートの入り口に到達したらしいですが、黒蛇の奴ら、あろうことか、そこから逃げ出そうとしているゴンク帝國の民を皆殺しにしたらしいです!
 そこから命からがら生き延びた何人から聞いたから先ず間違いないです! 中には、その時に受けた傷が元で、おいらに会った次の日に亡くなった者もいた。とにかく、黒蛇の兵がツイン地方に辿り着いてからは、ゴンクの民はほとんど殺されたようです!
 あいつら、ゴンクの民のみならず、帝王と重臣以外の国外逃亡を容認していたマルドス、カムイ両城に常駐していた兵士たちも、ことごとく殺したらしいです。何でも、ゴンクの民を勝手に逃がした罪とか言って……。マルドス、カムイの兵たちは聖皇の命に従って、ゴンクの民の脱出を容認していたのでは無かったのですか?
 おいらにはよく分からないが、とにかく一日遅ければおいらの命も無かったってことです!」
「マルドス、カムイの兵は聖皇の命に従っていたが、黒蛇の兵は、おそらくは黒蛇将軍グロイアスの命に従って、ゴンクの民とマルドス、カムイの城兵を殺戮したのであろう。
 グロイアスの背後には、黒宰相ザッドがいる。つまり、聖皇とザッドは、今は完全に別れたのであろう。今回のゴンク帝國討伐も、ザッドが自分の領土を拡大させるために行った独走と考えて間違いない!」
 スーコルプは、部下というより自分自身に言い聞かせるように呟いていた。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 グロイアス(ソルトルムンク聖皇国の黒蛇将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。黒宰相)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇)
 スーコルプ(ゴンク帝國の地下組織の頭)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 チャックライル(スーコルプの部下)
 ニーグルアーサー帝王(ゴンク帝國の帝王)
 バルディアーサー(ゴンク帝國の王弟であり将軍。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)

(地名)
 カムイ城(ツイン地方北方の城)
 ツイン城・ツイン地方(ヴェルト大陸最南端の城とその城のある地方)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
 マルドス城(ツイン地方北方の城)

(その他)
 黒蛇軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。グロイアスが将軍)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)
 七聖軍(ソルトルムンク聖皇国の軍制度。七つの軍を置く制度)
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