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2018年04月28日07:28

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八大龍王伝説【532 第五童子烏倶婆伽(二) 〜失敗の顛末(後)〜】


 八大龍王伝説


【532 第五童子烏倶婆伽(二) 〜失敗の顛末(後)〜】


〔本編〕
「今のお前の話によると、コンガラを目撃しているマナシの存在にも気づかず、私の狙撃も考えていなかったということになるが、それでは、こちらが本当に運が無かったという顛末に聞こえるが……」
「ハッハッ! お前が今言った通り、狙撃に失敗したのは、運に見放されたということだ! 先ほど話した通り、アノクタツ、俺、そしてコンガラの順で疾走している時、偶然にも数百人程度ではあるが、ウバツラ、マナシのそれぞれの陣営の小競り合いに遭遇した」
「……」
「これはマナシの指示だと思うが、現在、いくつかの場所で、反ウバツラ陣営が蜂起して、ウバツラ陣営との間で小競り合いを起こしていた。
 そのうちの一つが、俺たちが疾走している間近で起こっており、そこで戦っていたウバツラ側の天界人で、名をホグローイスと言うが、偶然、俺たちを見つけ、近づいてきて助太刀を頼んできた。
 コンガラとしては、場合が場合でもあるので、むろん助太刀を断ったが、ホグローイスは人の身でありながら、足が速く、さらに魔術で自分の足を強化し、俺たちの時速千キロメートルのスピードに並走しながら、懇願してきた。
 ホグローイスが並走しながら訴えるのは、今、自分たちが戦っている反ウバツラ陣営に、手練れの猛者が三人いて、その三人によって、自分たちは百人いたにも関わらず、既に半数近くを失っているということであった。
 コンガラからしてみれば、その時にモンバリートで起きている事柄と比して些末事(さまつごと)であり、そこにいるホグローイスたちが全滅したところで何ら支障もないわけであるが、さすがに並走しながら懇願しているホグローイスを無下にするわけにもいかず、三人の中で真ん中を走っている俺が、小競り合いをしている地に赴き、その三人を倒し、その後すぐにコンガラと合流するということで話がまとまった。
 そして、俺が抜けた真ん中を、ホグローイスが代わりに走ることとなったのだ。
 俺は直ちにホグローイス達が戦っていた場所に駆けつけ、その手練れの三人の猛者を三十秒程度で瞬殺した。その間は、コンガラたちは少し走るスピードを緩めたため、俺はすぐに合流することができたというわけだ!」

“それが、マナシの最後の報告から換算して、コンガラたちの最後の百キロが一分余分にかかった理由(わけ)であったか!”
 バツナンダは心の中で、そのタイムラグに気が付きながら、それを軽視した己の甘さに舌打ちをした。
「……とにかく俺は、ホグローイスたちの相手であった三人の反ウバツラの猛者を倒した後、全速力でコンガラ達に追いつくことができた。
 そして、後方からアノクタツ、ホグローイス、コンガラの三人が走っている姿を見、この三人の疾走が仮に誰かに捕捉されていたらと、急にひらめき、あえてそのまま三人には時速千キロメートルで走るように伝え、俺は気配を消して、コンガラのすぐ後ろを走ったというわけだ。
 直感的なひらめきではあったが、そのひらめきが、お前の狙撃を失敗させるという奇跡を起こしたというわけだ!」

「小競り合いという偶然の産物に、ウグバガの直感的ひらめきが、私の狙撃を失敗させたとは……!」
「そういうことだ! 何故、追跡していたはずのマナシが、お前にその事情を伝えなかったかは、俺には分からないが、それも合わせて偶然による不運が重なったというわけだな!」
「……」
 むろんバツナンダにも、最後の事情をマナシが伝えなかった件については知りようが無かった。
 ウグバガ、そしてバツナンダのどちら側も知りようのなかった最後のホグローイスがコンガラたちに加わった変化を、何故マナシがバツナンダに報告しなかったのかという理由であるが、こちらも偶然の事柄により、マナシはコンガラたちの疾走を最後まで見届けられなかったためであった。
 マナシは、モンバリートから八十キロメートル地点を過ぎた辺りのウバツラと反ウバツラ陣営のある戦闘に遭遇し、その加勢で四分程度を費やしたのであった。
 この戦いは、先述したホグローイスの小競り合いとは別ものであり、そのような小規模なぶつかり合いがそこここで起こっていたのである。
 そして、マナシが戦闘に加勢している四分の間に、ホグローイスの件が起こり、それにマナシが気づくことが出来ず、結局、マナシがコンガラたちの疾走に追いついたのは、バツナンダの狙撃が失敗した直後だったのである。
 これらのウバツラ陣営と反ウバツラ陣営の小競り合いは、マナシの働きかけにより、反ウバツラ側に総動員をかけた陽動であった。
 コンガラ側を数日混乱させるための陽動として引き起こされた各地域での多数の小競り合い。
 その内の二つの戦闘――マナシが加勢した戦闘とホグローイスがコンガラに援助を求めた戦闘――、それが偶然とはいえ、バツナンダの狙撃を失敗に終わらせる要因となってしまったのである。

「成程、そのような事情であったのか?!」
 モンバリートの南方、ちょうど烏俱婆伽(ウグバガ)童子と跋難陀(バツナンダ)龍王が対峙した形で語らっている場所に、第三の声が割り込んできた。
 二人の神が声のする方向を振り返ると、そこに第七龍王摩那斯(マナシ)の姿があった。
 既に霊体であるマナシは、視覚には実体化したように映るが、実際には物理的な干渉が一切出来ない姿なのである。
 そのため、ここにマナシが現れたとしても、バツナンダの援護は一切できない。
 物質的な攻撃や援護のみならず、魔術的な攻撃や援護もそれに該当する。
 それでも、今ここにマナシが現れた理由は、ある秘密をここに開示することによって、ウグバガを懐柔しようとするためであった。
「まさか、そのような偶然の積み重ねが、バツナンダの狙撃を失敗に終わらすとは……。わらわも別の小競り合いに関わってしまっていたため、それには気づくことが出来なかった! これはわらわの失策と言える!」
 マナシはそう言うと、この場でさきほどの顛末を全て語ったのであった。
「そういう事情であったか! それは本当に運が無かったな! ……それで、今、お前がここに現れたのはどんな意味を持つ? 既にモンバリートの中の決着が早々に着いたということか?」
 ウグバガはニヤニヤ笑いながら、マナシとバツナンダを交互に見やりながらそう呟いた。
 そしてバツナンダも、マナシがここに現れた事実から、ウグバガと同じことを感じたのであった。
 それほどモンバリートの中の様子が分からないバツナンダにとって、シャカラとコンガラの戦力差は圧倒的と考えられるからであった。



〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(八大童子名)
 烏倶婆伽(ウグバガ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第五童子)
 阿耨達(アノクタツ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第六童子)
 矜羯羅(コンガラ)童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)

(神名・人名等)
 ホグローイス(天界の住民。コンガラ童子に仕えている)

(地名)
 モンバリート(天界の城塞都市の一つ)
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