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2018年04月09日02:23

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八大龍王伝説【529 モンバリート戦事情(前)】


 八大龍王伝説


【529 モンバリート戦事情(前)】


〔本編〕
 さて、モンバリート内の攻防とは別に一つの鍵となる戦いが、モンバリートの外でも展開されている。
 八大龍王の一人である第二龍王の跋難陀(バツナンダ)龍王と、ウバツラ龍王の別神格である八大童子の一人である第五童子の烏倶婆伽(ウグバガ)童子の戦いがそれである。
 この二人の神が、モンバリートの外で直接戦っている事情を、簡潔ではあるが少し語る。

 龍王暦一〇六一年一月日。それより半年前から行っていたシャカラによる地道な情報収集により、ウバツラ龍王を攻略する鍵として、ウバツラ龍王の守護龍に当たる八(や)の頭(かしら)の多頭龍(たとうりゅう)――アハトコプフヒドラとの邂逅を目指し、シャカラはヒドラのいるモンバリートの地に襲撃を仕掛けた。
 ウバツラの主(リーダー)に当たるコンガラは、あえて裏をかき、自身が籠る天界で最も堅牢な地であるラオグラフィナに、鍵(キー)となる守護龍のアハトコプフヒドラをかくまわなかったのであるが、シャカラと第七龍王マナシが共同で行った一億人規模の霊による大掛かりな情報収集により、モンバリートにアハトコプフヒドラが潜んでいるという秘中の秘が暴露され、コンガラの策は完全な裏目となったのであった。
 非常に用心深いコンガラからすれば、どんなに天界一堅牢な地であるラオグラフィナといえども、絶対に堕ちないという保証はなく、場合によってはコンガラ自身がヒドラをかまっていられなくなった状況で、何者かが――それは外部から襲撃してくる敵に限らず、ラオグラフィナ内部で守っている味方が寝返り――、アハトコプフヒドラを倒すか、あるいは懐柔してしまうかもしれない。
 コンガラはそんな万が一をも想定し、一般的な発想である『アハトコプフヒドラはコンガラと共に堅城ラオグラフィナに潜む』を戦略の基軸とし、敵方は必ず、ラオグラフィナに全ての戦力を集中させると考え、その裏をかいたわけであった。
 堅城ラオグラフィナを全力で攻め立てた結果、実はアハトコプフヒドラがそこにいないという事実を知れば、反ウバツラ派の戦意は、そこで大いに挫かれ、同時に戦力の大半を失っているはずであった。
 それであれば、たとえラオグラフィナが敵方によって落とされたとしても、コンガラ自身が、そのままラオグラフィナから脱出すれば、ヒドラもコンガラも両方取り逃がした形で、敵方の戦略全てが水泡となる。
 このアハトコプフヒドラをラオグラフィナに配置しないという大胆な奇策は、はまればコンガラにとっての完璧なる勝利の方程式になったはずである。

 しかしその奇策であるコンガラとアハトコプフヒドラが同じ場所にいない、それもヒドラの方はラオグラフィナほど堅牢でないモンバリートにいるという策が、シャカラによって看過されてしまったのである。
 奇策は型にはまれば、小さな力で絶大な効果をもたらすが、その策が相手に読まれた瞬間、文字通り奇をてらった策である以上、脆くも瓦解する。
 慎重に慎重を期したはずのコンガラの慎重過ぎるが故の失敗と言えば、そうであるが、それよりも本来であれば絶対に知られるはずのないほどの秘密な情報を入手することに成功したシャカラとマナシ陣営の、相手の想定をはるかに超えた情報収集策の勝利と言えるであろう。
 これほどの情報収集策から逃れる術は、天界の住民全ての口に鍵をかけるしか防ぎようがないのであるから……。

 いずれにせよ、シャカラのモンバリート襲撃により、圧倒的に有利だったコンガラ側の状況に、一つの大きな綻びが生じたのであった。
 それでも、シャカラ側の鍵となるヒドラを、さすがに無防備でモンバリートに潜ませることはなかった。
 八大童子の一人である第四童子指徳(シトク)童子を、ヒドラの守備としてモンバリートに配置したのであった。
 万が一の守備要因として、シトクの配置は妥当であったと思われる。
 既に第一と第二童子を失っている中で、第三童子のショウジョウビクと第七童子のセイタカ童子は、共にヴェルトの地で偽のジュルリフォン聖皇と宰相のザッドの役割を担っている。
 残るコンガラを除く三童子については、第四童子のシトク、第五童子のウグバガ、そして第六童子のアノクタツになるが、このうちアノクタツ童子は中長距離からの狙撃に特化した童子であり、近接戦、特に刃(やいば)と刃(やいば)の鍔(つば)迫(ぜ)り合う白兵戦は、不得手というか全くそのような素養は持っていない。

 余談にはなるが、このあたりはコンガラ童子の別神格である八大童子の特質は、そのまま八大龍王とそっくり同じ特質を有していると考えられる。
 第一童子の慧喜(エキ)童子が、移動性や俊敏性で八大童子の中で最も優れているのと同じく、第一龍王の難陀(ナンダ)龍王が八大龍王の中で移動性と俊敏性に最も優れているといった感じである。
 同様に、中長距離の戦いにのみ特化している第六童子のアノクタツと、『唯一の龍王』と呼ばれ中長距離からの遠隔攻撃のみで敵を屠る第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)龍王も同じ特質を有している。
 これは単純な偶然の一致ではなく、八大龍王及び八大童子と言われる神の持つ定められた絶対的な摂理ということになるであろう。

 つまり第六童子アノクタツは、ヒドラの守護として配置するのは適当ではない。
 その点では、第五童子ウグバガが、八大龍王中『最強の龍王』と呼ばれた徳叉迦(トクシャカ)龍王と同じ能力と実力を備えていることから適任と考えられた。
 ウグバガ童子は、あらゆる状況下での戦いにおいて不得手がなく、さらに気配遮断スキルまで有し、周りの気配に紛れ込んだ上で、油断をした敵の寝首を掻くといった戦法すら可能なのである。
 現在、コンガラ童子の元にいる三人の童子の中で、ウグバガ童子がアハトコプフヒドラの護衛として最も適しているわけであるが、コンガラには、ヒドラの護衛をウグバガ一人に任せられないある事情があったのである。
 それはウグバガ童子が、主(リーダー)のコンガラ童子が、魔界六将ラハブによって仕込まれた蟲の力で操られているという最も根幹の事情を知らされていない一人であったからである。



〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王とその継承神の総称)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王とその継承神の総称)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(八大童子名)
 八大童子(ウバツラ龍王の秘密の側近。実はウバツラ自身の八つの神格達の総称)
 慧喜(エキ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第一童子。既に消滅している)
 清浄比丘(ショウジョウビク)(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第三童子)
 指徳(シトク)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第四童子)
 烏倶婆伽(ウグバガ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第五童子)
 阿耨達(アノクタツ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第六童子)
 制多迦(セイタカ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第七童子)
 矜羯羅(コンガラ)童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)

(神名・人名等)
 アハトコプフヒドラ(第八龍王ウバツラの守護龍。八つの頭を持つ多頭龍。八(や)の頭(かしら)の多頭龍とも言う)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)
 ラハブ(魔界六将の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

(地名)
 モンバリート(天界の城塞都市の一つ)
 ラオグラフィナ(八大龍王の住む天界で最も堅固な城塞都市)

(付帯能力名)
 気配遮断スキル(十六の付帯能力の一つ。自らの気を鎮めることにより、気配を遮断する能力)

(竜名)
 ヒドラ(十六竜の一種。複数の首を持つ竜。『多頭竜』とも言う)

(その他)
 魔界六将(地下世界の六人の神)
 蟲(魔界六将の一人ラハブが操る使い魔。人や神に入り込み、内部からその者を操る術を持つモノ)
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