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2018年04月07日09:58

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八大龍王伝説【528 幕間の語り】


 八大龍王伝説


【528 幕間の語り】


〔本編〕
「確かに、黒蛇も蒼鯨も、聖皇国の領土拡大には大いに貢献はしたが、そのやりくちは残忍過ぎた。敵国の住民虐殺など、人の道に劣る所業が多すぎた。今回の大規模な反乱勃発の遠因を作り出したのは、ザッド宰相がらみの黒蛇と蒼鯨、そして今は亡きボンドロートン将軍の碧牛の三軍であった!」
「おっしゃる通りでございます、ヒルガムダス様。このまま、聖皇国と反聖皇国の八カ国連合の戦いが長引けば、どこかの段階で、休戦や和睦などといった外交的な落ち処が検討されることにもなるでしょう。
 そのような時に、滅亡させられたクルックス共和国やフルーメス王国の者達から、黒蛇、蒼鯨とその両軍の指揮官の処断などが、外交条件の俎上(そじょう)に真っ先に挙がってくることとなるでしょう。
 そういう意味では、ザッド宰相閣下としては、黒蛇軍と蒼鯨軍を養うだけの地盤さえ確保できれば、一つの新しい国家を立ち上げることは可能ということになります」
「成程! ヴェルト八國とは別の新たな国家という発想か! それであれば、宰相としてはヘルテン・フエテンの二地方だけを固守していればすむという話ではなくなるな!」
「はい。ヘルテン・シュロスは難攻不落な城塞都市かもしれませんが、ヘルテン・フエテンの二地方であれば、せいぜい一万の兵を養うのが精一杯という経済基盤でありましょう。
 それにヘルテン・シュロスは難攻不落ではありますが、城の規模が大きい故、少なくとも三千。鉄壁の守りを考えるのであれば五千の兵は、守備に割かなくてはなりません。その上、実際に肥沃な大地を有しているのは元ゴンク帝國領で最大のフエテン地方。ここにも、他国からの侵攻を阻止するためには、二千から三千の兵の駐屯が必須であります。
 つまり、ヘルテン・フエテン二地方の領土のみでは、一万の兵を常駐させるのが精一杯で、そのうち最大八千の兵を二地方の守りと考えると、実際に他の領土を確保するために進軍させる兵は二千ということとなります。これでは、黒蛇と蒼鯨の二万の軍を全て養うことも、その後の領土拡大も難しく、ザッド殿の独立は絵に描いた餅となります」
 ダードムスは冷静に状況を分析した。
「そのため、今、ザッド殿は、少しでも多くの領土を確保する必要に迫られており、それが、まだ聖皇国側とも反聖皇国側とも対外的に表明していないゴンク帝國の攻略に結びつきます。
 おそらく、ザッド殿は現在のゴンク帝國領であるツイン地方のみならず、ヘルテン地方から南方の地域全てを、これを機に己の領土として攻略するつもりでありましょう。
 そのため、仮に今、ゴンク帝國が聖皇国側につくと表明したとしても全く頓着しないでしょう。ゴンク帝國は滅亡させられ、その後は、ツイン地方から北側は全て聖皇国の領土ではありますが、それについてもザッド殿は遠慮なく、自らの領土としていくでしょう。適当な反乱分子の制圧とかを理屈づけて……。
 ゴンク帝國を滅ぼした暁には、そのまま蒼鯨軍と合流し、フルーメス島全島も己のものとするでしょう。そういう意味では八カ国連合の反聖皇国とは毛並みの違う新たな反乱勢力が生まれようとしております」

 そのような中、また一つ大きな宣言が行われた。
 それはステイリーフォン聖王子のソルトルムンク聖王国――いわゆる『正統王国』と呼ばれている國が一つの軍組織を発表する形での宣言であった。
 六将制度と呼ばれる組織についてであった。
 それは、今から八百年以上前の今回の大戦に勝るとも劣らない大戦乱の時代。
 世に名高い『六将大戦役』の時代。
 当時のソルトルムンク聖王国は、国土としては他の七国とそれほど規模が変わらなかった。
 その聖王国に、奇跡的に六人の天才が集まり、その六人が大将軍となり、結果、他の七国は領土を侵食され続け、今の超大国であるソルトルムンク聖王国が誕生したわけである。
 その功績から、大戦役の名称として後世に刻まれた『六将』という言葉。
 正統王国は、その偉大なる六将の名前と制度を復活させたのであった。

 これは、偽皇国と呼ばれているソルトルムンク聖皇国が、丞相という役職を新設したことにより、ザッドの力が絶対的でないものとしたのと同程度の衝撃を、ヴェルト全土にもたらしたのであった。
 時に龍王暦一〇六一年三月八日。
 ヴェルトの地はさらなる混沌へと進んでいくこととなる。

 さて、物語(サーガ)を久方ぶりに天界に戻そう。
 龍王暦一〇六一年一月三日に八大龍王の一人、第三龍王沙伽羅(シャカラ)龍王が、天界の城塞都市のモンバリートに襲撃をかけた頃に戻す。
 天界は地上界と時間の進み方が違う。
 天界での一日、つまり二十四時間は地上界での一月(ひとつき)に相当する。
 実際に地上界では、昨年の一〇六〇年一二月一二日にミケルクスド國の王妹にあたるユングフラ姫が、ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城であるマルシャース・グールに無血入城してから、そのわずか二か月足らずの一〇六一年二月四日に、今度はソルトルムンク聖皇国の本隊が、ミケルクスド國から聖皇国の王城を奪回し、ユングフラ姫もその時に行方不明となった。
 さらに、そのままソルトルムンク聖皇国がミケルクスド國を一気に攻略するのかと思いきや、バルナート帝國における聖皇国の反逆者であったンドの国葬。
 続くミケルクスド國のラムシェル王による衝撃的な演説などを経て、ヴェルト大陸は混迷の極みに陥る状況となった。
 しかし、それについてはたかだか一〇六一年の三月初旬までの話である。
 昨年の一二月から換算しても、三月(みつき)程の間に、これほどの事柄が立て続けに起こったのである。
 そして、これは地上界時間であるため、天上界でその期間を換算するとわずか三日ということになる。

 天界のモンバリートに襲撃を仕掛けたシャカラは、その奇襲から第八龍王優鉢羅(ウバツラ)龍王の主(リーダー)に当たる矜羯羅(コンガラ)童子を、天界の鉄壁の城塞であるラオグラフィナから引き離すことに成功し、モンバリートの地で、コンガラと雌雄を決しようとしている最中である。
 確かに、モンバリートにおける状況において、シャカラが不利であることに変わりはないが、少なくとも、コンガラとの直接対決の様相を呈している以上、シャカラがコンガラを直接倒す状況までおぜん立てできたのは事実である。
 それでも、シャカラがコンガラを倒すに当たっての時間的制約は非常に短い。
 シャカラとしては、龍王暦一〇六一年一月日に、モンバリートを襲撃して、コンガラとの直接対決にまで至ったが、シャカラは、コンガラを倒す期限(リミット)を今年の六月日までと見立てている。
 天界時間で言えばわずかに六日間だが、地上世界では半年が経過する。
 実際に、昨年の十二月にユングフラが聖皇国の王城を占拠してからわずか三か月で、ヴェルト大陸が聖皇国と反聖皇国である八カ国連合軍の二大勢力の決戦にまで様相を変貌させている。
 つまり、地上界で半年間もあれば、コンガラの分身とも言える八大童子の清浄比丘(ショウジョウビク)や制多迦(セイタカ)童子が、ヴェルト全域を征服することも可能であり、コンガラの後ろ盾である魔界六将のラハブや、今は直接ヴェルトには関与していないラハブ以外の魔界の五将たちも、いつヴェルトの地に絡んでくるとも限らない。
 いずれにせよ予断を許す時間はほとんどなく、シャカラに残された猶予はあまりにも短かった。



〔参考 用語集〕
(八大龍王名)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(八大童子名)
 八大童子(ウバツラ龍王の秘密の側近。実はウバツラ自身の八つの神格達の総称)
 清浄比丘(ショウジョウビク)(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第三童子)
 制多迦(セイタカ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第七童子)
 矜羯羅(コンガラ)童子(八大童子のうちの第八童子である筆頭童子。八大龍王の優鉢羅龍王と同一神)

(神名・人名等)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 ヒルガムダス(ソルトルムンク聖皇国の丞相)
 ボンドロートン(ソルトルムンク聖皇国の前碧牛将軍。故人)
 ユングフラ(ラムシェル王の妹。聖皇国王城奪回戦に敗れ生死不明)
 ラハブ(魔界六将の一人)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)
 ンド(元ソルトルムンク聖王国の老大臣。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 ソルトルムンク聖王国(正統ソルトルムンク聖王国のこと)
 正統王国(ソルトルムンク聖王国のこと)
 偽皇国(ソルトルムンク聖皇国のこと)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國。滅亡)

(地名)
 ツイン地方(ヴェルト大陸最南端の地方。現在はゴンク帝國の唯一の領土)
 フエテン地方(元ゴンク帝國の一地域。現在はソルトルムンク聖皇国領)
 フルーメス島(ヴェルト大陸の南に位置する小さな島)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
 ヘルテン地方(元ゴンク帝國の一地域。現在はソルトルムンク聖皇国領)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城)
 モンバリート(天界の城塞都市の一つ)
 ラオグラフィナ(八大龍王の住む天界で最も堅固な城塞都市)

(その他)
 黒蛇軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。グロイアスが将軍)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)
 魔界六将(地下世界の六人の神)
 碧牛軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。故ボンドロートンが将軍で、今は存在していない)
 六将大戦役(龍王暦二百年代の大戦争。ソルトルムンク聖王国の六大将軍が活躍した戦いであったため、その名がつけられた)
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