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2018年04月01日22:23

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八大龍王伝説【527 それぞれの立場】


 八大龍王伝説


【527 それぞれの立場】


〔本編〕
「陛下のおっしゃられる通り、丞相閣下の見識。このダードムスも感服いたしました! さらに、丞相様の推測に、我が愚考を一つ加えるとすれば、バルナート兵の撤退と、ジュリス兵の襲撃は、両国同意の元で行われたという可能性が考えられます。
 偶然の産物でないならば、双方、兵の消耗を最小限にと考え、実行にうつすはず。そして、その通りの結果となっております。
 さらにテンガード地方のジュリス王国兵がマスクで顔を覆い、実際にどこの兵か分からないように偽装しているのも気になります。
 ジュリスのイデアーレ殿は、聖皇国と反聖皇国連合の両者を天秤にかけているのかもしれません。仮面の集団であれば、それがジュリス王国の兵かは断定できません。限りなく黒に近いグレーではありますが、それでもジュリス軍とは現段階では断定できません。
 イデアーレ殿の智謀と慎重さは、四賢帝であるミケルクスドのラムシェル王やフルーメスのヅダトロ元王の両者、あるいは元聖皇国のシェーレ殿に匹敵するものを感じます。
 そして、宰相ザッド閣下の立場からすれば、ヒールテン地方やロモモテン地方が、そのまま敵国であるミケルクスド國やバルナート帝國の領土であれば、攻め込んで占領することも可能ですが、未だに敵か味方かはっきりしていないジュリス王国の領土となれば、むやみに攻め込むことができません。
 味方となる可能性のあるジュリス王国の領土に攻め込むことによって、敵に回してしまう可能性があるからです。
 私が今、ザッド閣下の立場であれば、イデアーレ殿の動向に逐一気を配り、ヘルテン・シュロスを中心に全兵力を駐屯させておきます。
 しかし、ザッド殿であれば、おそらく次の行動(アクション)を起こすでしょう。実際にそれについて書簡にしたためておられます」
 ダードムスはここで一度話を区切った。

「それが、宰相の書簡に記されているゴンク帝國攻略の件についてか?」
「はい、陛下! 大陸最南端のツイン地方のみに領土を持つゴンク帝國は、我ら聖皇国側か、それとも反聖皇国の八カ国連合側につくかを、未だ他国に表明しておりません。
 それであれば、ツイン地方の動向のみ目を配っていれば、特に問題はないと思われます。実際に、私であれば、そうするでしょう。しかし……」
「……宰相殿は実際に五千の黒蛇軍をツイン地方に進軍させ、ゴンク帝國を滅ぼす算段でいる。ダードムス殿の見立てとは異なることを始めようとしておるようだが……」
「はい、ヒルガムダス様。そこが、私とザッド殿の立場の違いでありましょう」
 ダードムスの説明がさらに続く。
「私であれば、むろん先ほども申し上げましたように、ヘルテン地方から兵を一切動かさず、ヒールテン、テンガードそしてロモモテンの三地方を手中に治めているジュリス王国のイデアーレ殿の動向を監視しつつ、ツイン地方のゴンク帝國の動向も併せて監視しております。
 そして、どちらかの軍が何らかのアクションを起こした際に、何らかの対処をいたします。今回の場合、それで十分な状況でありますし、両軍を監視する位置としてもヘルテン地方は申し分なく、両者が連動して事にあたる――この場合の『事』とはヘルテン、フエテン地方への侵攻にあたりますが――、それも位置的にジュリス王国、ゴンク帝國両軍が連携するメリットはほとんどございません。
 そういう観点から考えますと、聖皇陛下の忠実な臣である私、ダードムスであれば、ヘルテン地方から自ら兵を一兵たりとも動かすことはあり得ません。
 ヘルテン、フエテン両地方に一万以上の軍を駐屯させることが、ジュリス王国のイデアーレ軍、ゴンク帝國軍、さらには、北部で軍事行動しているシェーレと各国残党軍に対する大いなる楔(くさび)となるからであります。
 但し、これは聖皇陛下への忠実な家臣である私の立場からの対処方法であり、現在の宰相ザッド殿の立場ではそれでは不十分であるといえるでしょう」

「成程、そちのように朕に忠実な家臣であれば、それが最上の策であるということか。……では、朕に忠実とは言い難い家臣であるザッド宰相であれば、どう動く! ダードムス! 次はザッドの立場での見解を述べてみよ!」
「ハッ! それでは恐れながら、機会があれば聖皇陛下の代わりに聖皇国を乗っ取る。……場合によってはヴェルト全土を征服しようと企んでおられるザッド宰相閣下殿の立場での見解を述べさせていただきます!」
 このような会話を展開する場合のジュルリフォン聖皇とダードムスは、二人だけで話す時であれば、お互いに悪戯小僧が悪さを企(たくら)むときのような意地の悪い表情になる。
 しかしこの時は、丞相ヒルガムダスも同席しているので、二人ともそのような表情は面に出さず、真剣な面持ちで話を続けていたが、それでも二人は必要最大限の忍耐で笑いを堪えながら、唇の先をわずかにあげる程度で会話を展開させていった。
 むろん、第三者であるヒルガムダス本人は、そのような機微に気づくような人物ではないし、また気づいたとしても、それを表立って不快に現すような人物でもなかった。

「ザッド殿であれば……」
 ダードムスがザッドの立場ということで話を進める。
「現在、聖皇陛下のおそば近くにいられない以上、今後、聖皇陛下に反旗を翻すかどうかは分かりかねますが、今のご自分の立場を少しでも強化するために、ザッド殿が独自に動かせる軍と、その軍を養う領土を確保したいところであると思われます。
 そう考えた時に、候補の軍としては黒蛇軍の一万がそれに相当いたします。むろん、ザッド殿が聖皇陛下と正式に袂(たもと)を分けた後も、黒蛇将軍グロイアス殿がザッド閣下に付き従うか否かは不確定要素ではありますが、いずれにせよ、今は、黒蛇軍と蒼鯨軍の二軍は、ザッド殿の軍と言えましょう。
 黒蛇のグロイアス将軍も、蒼鯨のスツール将軍もザッド殿の肝いりで七聖将の名前を連ねた者達。自分たちの立場を考えれば、当然ザッド殿に付き従うと、宰相殿は考えているはずです。
 しかし、人を基本信頼しないザッド殿が、楽観的に黒蛇や蒼鯨の軍を無条件に勘定に入れるとは考えにくいと思われます。
 ただ、ザッド殿が独立する際に自らの領土を確保していれば、黒蛇軍も蒼鯨軍も付き従う可能性がかなり高くなるでしょう。両軍のここまでの蛮行を鑑みれば、ザッド殿がおられない聖皇国での存続は、ほぼ不可能であると思われるためであります」



〔参考一 用語集〕
(神名・人名等)
 イデアーレ(ジュリス王国の将軍。ユンルグッホ王の叔父)
 グロイアス(ソルトルムンク聖皇国の黒蛇将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 シェーレ(元ナゾレク地方領主。ヴェルト八か国連合東方戦線の指揮官の一人)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)
 スツール(ソルトルムンク聖皇国の蒼鯨将軍)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 ヅダトロ(フルーメス王国の元王。四賢帝の一人)
 ヒルガムダス(ソルトルムンク聖皇国の丞相)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國。滅亡)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 ツイン地方(ヴェルト大陸最南端の地方。現在はゴンク帝國の唯一の領土)
 テンガード地方(元ゴンク帝國の一地域。現在はジュリス王国領)
 ヒールテン地方(元ゴンク帝國の一地方。現在はジュリス王国領)
 フエテン地方(元ゴンク帝國の一地域。現在はソルトルムンク聖皇国領)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
 ヘルテン地方(元ゴンク帝國の一地域。現在はソルトルムンク聖皇国領)
 ロモモテン地方(元ゴンク帝國の一地方。現在はジュリス王国領)

(その他)
 黒蛇軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。グロイアスが将軍)
 四賢帝(当代の四人の優れた王の総称)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)
 七聖将(七つの軍制度。ソルトルムンク聖皇国の軍制度)


〔参考二 大陸全図〕
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