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2018年03月15日02:34

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「現実主義勇者の王国再建記」小説

『現実主義者の王国再建記』
<ストーリー>
 異世界の貧乏小国に“勇者”として召喚された相馬一也は国王に掛け合って国の富国強兵を進言するが、王は自らの地位を一也に譲位ししかも娘を婚約者として差し出す・・・
<コメント>
 異世界に召喚された若者が冒険をする、というファンタジー・ラノベなら山ほどあるけれども、なんとこの物語では主人公はほとんど城から一歩も出ない。なにしろまず王様となってやったことは財政監査をして余剰予算を徹底的に調べるというものすごく地味な作業なのだから。そしてよくある異世界にやってきたことでついた魔法の能力も自分の意思をこめてペンを動かせるという事務処理を効率的に行うというチートでもなんでもないもの。この能力を使って人材を集めて政務を行っていくのである。
 そんなものが面白いのか?というとこれがメチャクチャ面白いのである。なによりも主人公が召喚される前は社会経済学部に合格した大学生でしかも選択社会科目が世界史であったということから要するにこの小説の目的が異世界冒険談ではなく異世界の王国を治世するということがうかがわれる。だから魔王に率いられた魔物が出てくる世界なのに6巻を過ぎても魔王どころか魔物も殆ど現れずにひたすら主人公が経済政策や外交を行って国を豊かにさせようとしている。
 例えば人材を集めるときに「諸国の美味いものを食べ歩いた」という食いしん坊の男をまず採用し、それまで食べる習慣のなかった食材を食べる方法を国民に知らせることで食料危機を越えようとするところ。その後も様々な人材を発掘していく。要するに特殊な能力はほとんどない主人公は自分でも「一人の力ごときでは何もできない」ということを最初から知っているからこそ人材を発掘し、彼らを適材に配置することで社会自体を変えていこうと試みるのである。
 もちろんラノベらしく主人公はモテモテで婚約者4人という一種のハーレム状態になったり、国民に教育を施すべく様々な工夫を凝らしたりと楽しいイベント的展開もあるけれども、タイトルにあるとおり、主人公は実はマキャベリズムを信奉する現実主義者であり、そのためには苦悩しながらも非情な手段もあえてとるのである。
 中でも魔王に国を追われた難民達に対して「この国の国民になるならきちんと保護して生活基盤を与えるけれども、そうでないからこれ以上この国に住み着くことは許さない」と詰め寄る。それに対して難民が「(理想主義な女帝に率いられた)隣国の帝国では開墾できる土地を与えて臨時居住地として許可している。やがて本国に帰還することが出来た場合、その開拓された土地が手に入るではないか」と詰め寄ると主人公は一見リターンの大きなその計画が、かつてハプスブルグ帝国がオスマントルコに征服されたときにセルビア人を受け入れたことでやがて民族主義台頭が始まりそれによってハプスブルグ帝国自体も滅亡してしまった歴史のリスクを孕んでいることを考慮したうえでこれを拒絶するのである。
 しかし、最高に驚いたのは「異世界からやってきた若者にいきあり王位を譲る王様」というある安直な頭の悪いと思われた展開が実は4巻において王の真実の考えが明らかになり、そこで大きな衝撃を受ける。そうかあ、そういう手できたのか。“魔法はあるけれども、それほど大きな役には立っていない”という設定をなるほど、そういう風に利用してきたのかあ、と。
 何にしてもなんら特殊な能力を持たない主人公が才覚と人徳だけで次々と困難を打破していく姿は見ていてとても気持ちが良い。ものすごく先が長そうだけれども、とりあえず続けて読んでみたいと思えるシリーズ。
 あ、あともう一つ気に入ったのはラノベでは主人公がモテモテだけれども、実際には女性となかなかいたさない作品が多いけれどもこの主人公はある程度のところにいったらきっちりとヒロイン(第一王妃)と結ばれてしかもちゃんと子供を作ったりするのだ。

現実主義勇者の王国再建記I (ガルドコミックス)
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