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2018年03月11日09:24

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八大龍王伝説【524 第二の宣言(後)】


 八大龍王伝説


【524 第二の宣言(後)】


〔本編〕
 第一として、宰相ザッドと同じ権限を有する丞相(じょうしょう)という新たなポストを、便宜的とはいえ設立し、そこに即日、筆頭大臣であったヒルガムダスを就任させたことである。
 これにより、聖皇国の民はザッド一人の顔色を窺う必要がほとんど無くなったのである。
 丞相に就任したヒルガムダスについては、ほとんどの人が知らず、また知っている者は、野心をほとんど持たない人畜無害な人物と認識している。
 つまりヒルガムダスが、ザッドのように聖皇を差し置いて専横を振るうという心配がほとんどないということである。
 さらにそのザッドが、今は聖皇のお膝元のマルシャース・グールを離れ、元ゴンク帝國の帝都であったヘルテン・シュロスにいる。
 元ゴンク帝國領も今は各国の残党軍などへの対処のために、ザッドがそこを離れてマルシャース・グールに戻るゆとりは今のところは無い。
 さらに、今、ジュルリフォン聖皇の元には、ダードムスというザッドよりむしろグラフ将軍の為人(ひととなり)に近い人物が聖皇を補佐している。
 そして、そのようなダードムスが、自らではなく、筆頭大臣であったヒルガムダスを丞相に就任させることによって、自らは補佐的な役割に徹しようとしている姿勢も、聖皇国の民にとって非常に好感が持てた。
 そのような清廉なダードムスを補佐に得たジュルリフォン聖皇は、既に聖皇国を寝返った者について、再び帰属することを無条件で許している。
 また、諸々の事情からすぐに帰属できない者でも、聖皇国の利になる言動や、逆に反聖皇国連合に不利になる言動をした者に関しても、帰属前のそれを手柄として認め、褒章や地位でそれに報いようとしている。
 これにより、ラムシェル王の『ヴェルトの宣言』により、明らかに一方通行的な流れになっていた聖皇国から反聖皇国へ寝返る人の流れを、停止に近いほど緩慢にさせたのみならず、逆の流れが起こりうるほどの効果を生み出したのであった。
 また、ザッドの一統支配の元であっては、仮に聖皇が帰属を許したとはいえ、戦乱が収まった後に、寝返ったという以前の罪を問われたりするような危惧もあったが、その心配もほとんど無くなったので、聖皇国への帰属の流れはスムーズに起こりだしたのであった。
 そして少し楽観的な考えではあるが、便宜的に新設された丞相の方が、戦乱が終息した後に役職として正式に残り、ザッドの地位である宰相が役職として消滅する可能性もあるという考え方も、聖皇国への帰属への拍車をさらにかけたのである。
 この発想は、ジュルリフォン聖皇の演説の中では一切述べられていなかったが、後にダードムスが意図的に噂として拡散させたのかもしれない。今となっては、その真相を探る術をもたないが……。

 なんといっても、聖皇国帰属の流れを作った丞相新設というダードムスの妙案の深いところは、たとえ、宰相という地位がなくならないとしても、宰相と同じ権限を有する丞相という役職の出現によって、それまで聖皇国のあらゆることに権限を持っていたような宰相の権限に、聖皇が丞相と同じ権限を有すると明言したことにより、宰相の権限に限界があるということが明確かされたという点である。
 確かに、宰相の具体的な権限への制限については、聖皇は明言していないが、新設した丞相の関われる権限の部分を制限することによって、おのずと同権限と明言されている宰相の権限も制限されるという結論に落ち着くのである。

 それに当たっては、初代の丞相に就任したヒルガムダスはうってつけの人物であった。
 何事においても控えめで、聖皇陛下の意向に背くようなことは決してしないからである。
 さらに、宰相と丞相の合議の上、聖皇の意向で物事が決定するという宣言も非常に効果的であった。
 これであれば、宰相は独断で物事を決められず、また、丞相と同意見であっても、最終的な裁量は聖皇にあるということをはっきりと示したことになるからである。
 これで、実質的には宰相のザッドと丞相のヒルガムダス、ジュルリフォン聖皇に、さらに実質的な聖皇補佐の存在であるダードムスの四者の意向が揃わない限り、あらゆる物事が決定しない。
 もし、四者の意見が分かれて物事が決定しない場合は、聖皇の意向が最優先されるという政治体制に聖皇国がなったということを聖皇が明確に宣言したということになる。
 明らかに今のザッドによる独裁政権から、全く百八十度方向転換したと考えても差し支えないほどの新体制に変わったといえる。

 そして今、王城に宰相のザッドはいない。
 こうなれば寝返った聖皇国国民を含む全ての聖皇国の国民にとって、ジュルリフォン聖皇がはっきりと偽者であるという確証がない限り、聖皇国から寝返るメリットがほぼ無くなることを意味するのである。
 こうなると、グラフ将軍ぐらい聖王に対する忠誠心が厚い人物でもない限り、寝返るに当たって、物質的な面の優劣を考慮する必要に迫られるのは当然であろう。
 つまりは純粋な国土、国力、人口規模、そしてそれらによって支えられている軍事力という物質面の要素のことである。
 寝返りが続出しており、聖皇国以外の國が連合しているとはいえ、それでも超大国の聖皇国の国土、国力は、拮抗に近い状態とはいえ、なおまだ若干上回っている。
 つまり、最終的に聖皇国と反聖皇国のどちらが勝利者になるかは、まだ全く予断を許さない状態なのである。

 一般の者であれば、先ず負ける側(サイド)になることは避ける。
 特に戦時下において負けるということは、最悪、全てを失うことになることを意味する。それは自らの生命すら例外でない。
 どちらの陣営が勝てるか分からない状況において、今いる陣営から寝返るということは、一つの大きなリスクと捉えるのが一般的な発想である。
 そして、今回の聖皇の宣言によって、反聖皇側に寝返るという一連の流れにストップがかかったわけであり、現段階で、聖皇国のトータル的な軍事力は、敵側の八カ国連合軍を若干とはいえ上回っている。
 これは、あるいは躊躇して八カ国連合に寝返り損ねた者達なのかもしれない。しかし、その者の躊躇が功を奏した形となった。
 寝返っていない上に手柄を立てれば、一気に立身出世の道が開けるので、この時点で聖皇国兵の士気は、一時(いっとき)前の最悪の状況から、急激に上昇機運となったのである。
 さらに聖皇国から寝返った者達からしても、当初はその即断即決が正解のように思われたが、聖皇の三月一日宣言により、それが、勇み足のような思いにとらわれた者達も数多く出てきたと考えられる。
 むろん、グラフ将軍の証言のジュルリフォン聖皇が偽者であるということを深く信じている者にとっては、全く関係のないことではあるが、大半の聖皇国を寝返った民や兵は、その時の時流に乗ったに過ぎない。
 そのような者にとって、聖皇の聖皇国から寝返ったことに対して罪を問わないという宣言は、天啓のようなに聞こえたはずである。
 彼らは、一刻も早く聖皇国へ再び帰属をしたいはずである。
 またあわよくば寝返った罪の不問のみならず、恩賞といった手柄にも預かりたいので、聖皇国に益のある働きを、元聖皇国の兵たちがそれぞれに始め出したのである。
 これにより、一旦は八カ国連合側に寝返った元聖皇国の軍内で、兵士たちの間にお互いに対する不信の芽があちこちで芽生え出し、元聖皇国の全ての箇所で足並みが大きく乱れだしたのであった。

 そのような状況下において、一つの知らせがジュルリフォン聖皇の元に届いた。
 送り主は、今話題の中心である黒宰相ことザッドからであった。



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相。正体は制多迦(セイタカ)童子)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇。正体は八大童子の一人清浄比丘)
 ダードムス(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍。聖皇の片腕的存在)
 ヒルガムダス(ソルトルムンク聖皇国の丞相)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)

(地名)
 ヘルテン・シュロス(元ゴンク帝國の帝都であり王城)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城)
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