mixiユーザー(id:34658408)

2018年03月06日04:57

149 view

ある挺身の兵の語る 8/8 − 吉田嘉七 「ガダルカナル戦詩集」より


ある挺身の兵の語る       吉田嘉七

行き行けど、行方もわかぬ
木の下闇のいつの日か
果つる日やある、昼ひそみ、
夜のみ歩む南冥の
ガダルカナルの森深し


負い来し米はつきはてて
名も無き草を喰らいつつ、
辿れる尾根や、断崖や
つもる朽葉にふみまよい、
幾度もまろびし、つまずきし。

靴は破れぬ、趾裂けぬ。
背嚢遂に追いきれず、
装具もすべて捨てはてぬ。
抱くはわずか短剣と
菊の御紋のつきし銃。

泥にまみれす、にじむ血に
纒くべき布もなくなりぬ。
血による蠅を追うことも
ものうくなりて、たおれ伏し
幾度自決を思いしか。

今日斃れんか、明日死すか。
重き務めのなかりせば、
つとに死にたる身なりけん。
死なん命はやすけれど、
奮いたち生きてぞ行かん。

心はいたくはやれども
飢えは激しく、道はなく、
創は痛みて刺すごとく、
ついにいつしか歯もかけて
眼は夜見えずなりにけり。

仆れし戦友はいくたりぞ
おのが身一つ、あるいは這い、
あるは辛くも歩みつつ、
敵の背後をつきぬけて、
辿り来たりぬ、二十日。

はじめて見たる友軍の
嬉しさにただ泣けるにや。
否とよ、光見ざる眼に、
あまりに強き砂浜の
椰子の並樹を漏る光り。



                 < 完 >



「定本 ガダルカナル戦詩集 」 創樹社 CE1972年11月25日 初版発行
24〜27頁より
創樹社 東京都文京区本郷2丁目15番地21号 (株)創樹社


32 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する