死臭の道 一兵卒の緬甸鎮魂歌 記憶 みたび 藤吉淳之
征(た)つ朝の庭べの日射し木がくれに蜜柑の花の見えゐしが浮ぶ
戦場の悪夢に脅ゆ六十の今もをりをり夜半に醒めつつ
戦場にわがせし事のをりふしに今も負ひめをともなひて浮ぶ
兵の日のわれの挙動をあるときはうつつに顕(た)ちてかなし冬来る
チェンマイとふ地名記事にありここにわが俘虜たりし日々の惨をぞ思ふ
日に灼けし道を歩めばよみがへる兵に堪へゐし痛苦の感覚
戦場の炎暑に灼かれゐし兵の日は飢ゑざらむとしてひたすらありき
横須賀の踏みし解放感三十年経て今もなほ身ぬち消えざり
<死臭の道 一兵卒の緬甸鎮魂歌 藤吉淳之 全125頁 121頁より>
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