ある挺身の兵の語る 吉田嘉七
行き行けど、行方もわかぬ
木の下闇のいつの日か
果つる日やある、昼ひそみ、
夜のみ歩む南冥の
ガダルカナルの森深し
負い来し米はつきはてて
名も無き草を喰らいつつ、
辿れる尾根や、断崖や
つもる朽葉にふみまよい、
幾度もまろびし、つまずきし。
靴は破れぬ、趾裂けぬ。
背嚢遂に追いきれず、
装具もすべて捨てはてぬ。
抱くはわずか短剣と
菊の御紋のつきし銃。
泥にまみれす、にじむ血に
纒くべき布もなくなりぬ。
血による蠅を追うことも
ものうくなりて、たおれ伏し
幾度自決を思いしか。
今日斃れんか、明日死すか。
重き務めのなかりせば、
つとに死にたる身なりけん。
死なん命はやすけれど、
奮いたち生きてぞ行かん。
< つづく >
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