mixiユーザー(id:15312249)

2017年07月01日21:41

202 view

〔小説〕八大龍王伝説 【486 猛牛狩り(九) 〜包囲〜】


 八大龍王伝説


【486 猛牛狩り(九) 〜包囲〜】


〔本編〕
 ミケルクスド國の王妹ユングフラの一撃が、ソルトルムンク聖皇国碧牛将軍ボンドロートンの肩口に迫る。
 そのユングフラの一撃を、かろうじて得物のハンマーで打ち払いながら、ボンドロートンは苦々しく頭上を睨みつけた。
 ボンドロートンが睨みつけたのは、『頭上』と表現したように、一騎打ちの相手のユングフラ姫を睨みつけたのではない。
 否、厳密に表現すれば、ボンドロートンとユングフラ姫の戦いは、一騎打ちではない。
 ボンドロートンからすれば、ユングフラとの戦いは、当初の目的から考えれば、むしろ望んでいたのは彼――ボンドロートンの方である。
 彼が、今後ソルトルムンク聖皇国内で将軍として生きていくためには、この目の前のユングフラの首が必須なのは、何回か語ったと思う。
 だから、ユングフラとの一騎打ちであれば、ボンドロートン自身もある程度は納得がいく。
 今となっては、ほぼ自分の助かる可能性は零(ゼロ)に等しいが、それでもユングフラを討った上での戦死となれば、まだ歴史上に英雄として名前が刻まれるわけであるから……。
 もちろん、ミケルクスドのユングフラと言えば、『姫将軍』という異名を持つほであり、女とはいえ猛将である。
 あるいは、ボンドロートンの方が一騎打ちの末、ユングフラに倒される可能性もある。
 それでも、最後に好敵手と戦い、命尽きたのであれば、ミケルクスドの姫将軍が、一命を賭して戦った相手の一人として名前が歴史に刻まれる。
 確かに負けたという事実として歴史に名を残すことにはなるが、それでも、猛将の一人として名前を残すことになるので、武将としての矜持はかろうじて保たれるのである。
 それほど、ユングフラは武将としても実力者であり、今の自分の肩口への一撃にしても、普通の剣にしては、重くかつ鋭い。
 それでも、ボンドロートンは、一騎打ちという形であれば、勝負は時の運であり、神々による気まぐれな采配も、どのようでものであれ甘んじて受け入れるつもりであった。
 しかし、今、ボンドロートンの目の前で繰り広げられている戦闘行為は、絶対に一騎打ちではない。
 先述したように、騎馬を操るユングフラが、自身の得物である剣でボンドロートンに打ちかかっているので、それだけを切り取ってみれば、ユングフラとボンドロートンの一騎打ちに見えなくもないが、問題は彼の頭上で滑空している三体のワイヴァーンハンターの存在である。
 このうち一体のワイヴァーンハンター騎乗する飛竜(ワイヴァーン)は、他の二体より一回り大きく、また、飛竜(ワイヴァーン)を操る兵とは別にもう一人、兵が騎乗しているのである。
 別のもう一人の兵とは、ボンドロートンを仕留める段階になって、ユングフラの合図で、ホースから飛竜に乗り換えたマークであった。
 マークは、弓にしてはやや小柄な手弓を武器として握っており、腰のあたりに装備している鞘に入っている矢も、普通の矢より、やや短めであった。
 そして、マークが乗っている飛竜以外の二体には、通常のワイヴァーンハンターのように一人ずつ乗っており、その二体のワイヴァーンハンターは、空中を滑空しながら、専(もっぱ)ら、ボンドロートンの騎乗しているホースに向かって、矢を射かけていたのである。
 ボンドロートンの騎乗しているホースは、巨体のボンドロートンを乗せることから、特別、頑丈なホースではあるが、ここまでのユングフラ姫の追撃と、それに続くミケルクスド側の矢の攻撃に晒され、力が尽きるのは、時間の問題であった。
 ここまでの語りで、読者の皆様も、ほぼ状況がつかめたと思われるが、要は、ボンドロートンは、ユングフラと三体のワイヴァーンハンターに囲まれた状態で、徐々に討ち取られようとされているのである。
 いわゆる、キツネ狩りにおける、『獲物(きつね)』という、立場に置かれているのである。
 そして、先ほどボンドロートンがユングフラの一撃を受けた後に、頭上を睨みつけたと表現したが、むろんそれは、上空を滑空しているワイヴァーンハンターのことではあるが、三体のワイヴァーンハンター全てではない。
 ボンドロートンのホースに、矢を射かけている二体のワイヴァーンハンター以外の、残り一体のワイヴァーンハンター――つまり、マークを射手として、攻撃と飛竜の操縦を、分業化している二人乗りのワイヴァーンハンターだけを睨みつけたのである。
 ホースを狙って射かけている二体のワイヴァーンハンターも、確かに、長い目で見れば脅威ではあるが、それより攻操分業化している残り一体のワイヴァーンハンターが、ボンドロートンからすれば、最も忌々(いまいま)しい存在なのである。
 この飛竜は、一人しか騎乗していない飛竜より、一回り大きな飛竜であるが、おそらくはミケルクスド國内においても他の飛竜より能力が優れた種の飛竜で、優れている上、さらにミケルクスド國本国においての調教にしても、他の飛竜より際立って仕込まれている。
 つまり、指揮官や精鋭の兵士たちが専用に騎乗する特別な飛竜(ワイヴァーン)であると思われる。
 言ってみれば、ワイヴァーンハンターやワイヴァーンナイト自体が兵士としては、最終段階(トップランク)の兵種であり、優れている兵であることは、誰もが理解できることであるが、その中でも、その(最終)段階になってなお、さらに、長年、腕を磨きレベルを上げ、人として極みに達したレベルの兵士だけが騎乗することを許された飛竜であった。
 そのため、竜体自体は他の飛竜より一回り大きいにも関わらず、滑空のスピードは他の二体の飛竜の二割ほど速く、それでいて軌道修正や、飛行速度の緩急の切り替えが非常に優れているため、敵からすれば、巨体であるにもかかわらず、驚異的なスピードで、それも肉薄するぐらい近づき、それでいて次の瞬間、その場から離脱して、敵からの攻撃の射程圏外へ外れる、非常に嫌な相手なのである。
 陸上の兵からしてみれば、ワイヴァーンに騎乗している兵の槍が届く距離まで肉薄しながら、その敵を倒すか、あるいは、倒しきれなかった場合でも、その兵か、あるいは他の陸上の兵が、そのワイヴァーンに騎乗している兵に攻撃する前に、その攻撃が届かない距離に離脱してしまうのである。
 まるで現代の航空機によるタッチアンドアウェイに近い技術と受け取ってもらって差支えない。
むしろ、地面に着いていない分、もっと技術的には高度であるといえるが……。
 そのような、優れた飛竜を操縦している兵が、一般の兵とは、当然考え難い。
 ユングフラから作戦の概要を聞かされ、巨大な飛竜に飛び乗ったマークであったが、その飛竜に最初から乗っている兵士の素性とかは、特にユングフラから聞かされておらず、マークからしても特に知らなければいけない事柄でもなかったので、敢えてユングフラに尋ねることはしなかった。
 マークが、飛竜の背に引っ張り上げられた時、引っ張り上げた彼と、視線だけで挨拶を交わした。
 その兵士は、顔全体を覆う兜を被っていたので、顔自体を見ることは、マークには出来なかったが、それでも眼光の鋭さから、見知った人物であることはすぐに理解できた。
 マークは、最初こそ黙してはいたが、飛竜の背に乗ってからおよそ十分後、意を決し、飛竜を操縦しているその兵士に声をかけてみた。
「間違っていたら大変失礼に当たりますが、貴殿は、ミケルクスドの撃墜王殿ではありませんか……?!」
 そのマークの言葉に、飛竜を操っていた兵士は、マークの方を振り返り、軽く頷き、兜の奥の目のみで軽く笑い、そして答えた。
「どうも皆に、そう呼ばれている節がございます。私は、ミケルクスド國の飛竜第八部隊に所属しておりますマイルと申します。マーク殿に知っていただけているとは、恐縮の極みであります」



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 ボンドロートン(ソルトルムンク聖皇国の碧牛将軍)
 マーク(ユングフラの付き人)
 ユングフラ(ラムシェル王の妹。当代三佳人の一人。姫将軍の異名をもつ)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)

(兵種名)
 最終段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番上のランク。トップランクとも言う)
 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
 ワイヴァーンハンター(最終段階の飛竜に騎乗する軽装備の弓兵。飛竜弓兵(ひりゅうきゅうへい)とも言う)

(竜名)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(その他)
 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する