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2016年03月26日10:44

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〔小説〕八大龍王伝説 【416 遺言(弐)】


 八大龍王伝説


【416 遺言(弐)】


〔本編〕
「……それでは、その監禁していたウバツラ以外の者はどこにいるのだ?」
「もう、リーダーも監禁されていないので、八人の行方ということになりますが、少なくとも一人は消滅しています」
「一人消滅している?! その一人とは?」
「さっき、天界でわらわと貴方が戦っているとき、二人の戦いに介入してきた者がいましたね。その者です」
「あの僕を狙った者のことか? さっき、貴女が切り捨てたという……」
「そうです。そしてわらわが蒼いその者を、切り捨てたことによって優鉢羅と摩那斯の対の呪いが発動いたしました。両者必滅で、解除不能である対の呪いが……。結果、わらわは消滅することとなりましたが……」
「対の呪いなら、リーダーである優鉢羅との戦いにおいてのみ発揮されるのではないのか……。まさか、ウバツラとしては八つの魂ともウバツラの魂だから、対の呪いの対象になるという理屈か?!」
「如来神のいずれかの神が定めた呪いではあると思いますが、まさか八つの魂を持つという者は想定していなかったかもしれません。わらわはまんまとウバツラの策略にはまってしまいました。蒼い者は、貴方(シャカラ)を狙ったのではなかった。貴方を狙ったようにみえて、わらわがシャカラ殿をかばい、その者をわらわに切り殺させるのが目的だったようです」
「蒼いウバツラが自分の命を賭して、それをしたというのか? マナシ殿」
「金のウバツラと便宜上、リーダーのウバツラを表現しましょう。それが蒼いウバツラに、命を下したのでありましょう。……さすがに、わらわに切り殺されて来いとは、さすがのウバツラも命令しなかったと思いますが、シャカラを切り殺すことと、わらわに剣を向けてはならない、とでも命じたのでありましょう」
「そんな。しかし、ウバツラの魂の一つのみに発動する呪いとは……」
「如来神も、神の多重人格者とは想定外であったのでしょう。歴代ウバツラと歴代マナシしか知らなかった。――場合によっては知らされていないマナシも数名いたかもしれませんが、とにかく、歴代ウバツラと歴代マナシは、ウバツラの多重人格を必死で誰にも知らせないようにしたのでしょう」
「他に知られるとまずいのですか?」
「ああ! まずいですね!! ……と思います」
「……」
「やはり、八大龍王が『闘神』――つまり戦いに関していえば、神の最上位である如来をも凌ぐという客観的な事実がある以上、ウバツラが多重魂(こん)の持ち主と他に知られると、自分たち(如来)の地位をも脅かされると考える神も出てきかねないでしょう。まず、多重魂と知れば、対の呪いぐらいで安穏とはできないはず。では、安穏出来なければどういたしますか?」
「さらにその多重魂にも対応できる複雑な呪いをかけるか……」
「もっと手っ取り早く、八大龍王そのものを抹消するか? しかし、これは危険な賭けでもあります。仮に全ての神を動員させても、八大龍王であれば、或は如来の攻めを凌ぐかもしれない。仮に凌いだとすれば、他の神々の間で八大龍王を敵に回して本当に良かったのかと考える神々も出てくるかもしれない。
 そうなれば、安穏のために、八大龍王を除くはずが、逆に自分たちの身を危うくする。まあこの話は堂々巡りになりますが、要はウバツラが多重魂神と知れば、いずれにせよ上位神がほおっておかないでしょう」
「……」
 シャカラは目を閉じて、次のマナシの言の葉を待った。
「話を戻しましょう。とにかくウバツラは多重魂であり、その大半は未だ存在しているということです。そして、ウバツラによる世界の構築を目指している。そして、それに確実に地下世界の邪神が関わっております」
「邪神とウバツラが手を握っている?」
「いや。今のウバツラのリーダーの心は、邪神と考えて間違いないでしょう!!」
 これほど衝撃的な言の葉があったであろうか。
 それほどの言の葉をマナシは発した。
「どういうことですか? マナシ! ウバツラのリーダーの心が何故、邪神なのだ!」
「経緯などは分かりません。……しかし、どこかのタイミングでウバツラのリーダーの魂は邪神に乗っ取られた。或は、既にリーダーの魂は抹殺されて、代わりに邪神の魂が、ウバツラの依り代に寄生しているのでは…… 少なくとも納得させて改心させるレベルではないでしょう。金のウバツラを倒すしか解決の手はないでしょう」
「どうやってウバツラを倒す? 僕はその手が思いつかない!」
「……今のわらわにもアドバイスできる知恵はありません! 知恵が出ない上でさらにこのような情報を伝えるのは酷かもしれませんが、伝えないわけにはいかないので伝えます」
 マナシの姿なき声が続ける。
「ウバツラは他の七人の龍王の力、全てを有しているとはさきほど語りましたが、さらに時を操ることが可能な神です。生を司り、時を司る。間違いなく八大龍王筆頭として申し分ない能力の持ち主でしょう」
「……マナシ! どうやってそんな相手に勝てというのか? 貴女はそこまで冷血な神であったのか!」
「時を操る能力の詳細は分かりません。その能力を発動させないように努めなさいとしかわらわには言えません。後一つ。アドバイスになるかは分かりませんが、ウバツラの守護龍であるヒドラ――多頭龍を探し出すことをお勧めいたします」
「ヒドラ?! 複数の頭を持つ伝説の龍か? その龍を探してどうしろというのか?」
「ウバツラは複数の魂を自身の身体に有していますが、その魂一つ一つが実体化するときには、物質という依り代が必要なはずです。それが、ヒドラの頭ではないかとわらわは推測します。わらわもヒドラを探しましたが、結局は見つからなかった」
「推測ですか? いずれにせよそのヒドラを探すところから始めるしか手はないか。分かったマナシ。後は任せろ!」
「あとは頼みます。シャカラ龍王! わらわもここまでのようです。最後に一言だけ謝っておきます。不可抗力とはいえ、八大龍王を二つの陣営に真っ二つにさせたのは、わらわの不徳の致すところ。その隙をウバツラに利用されたのも、わらわの責に全て帰します。わらわの死は自業自得なのかもしれない。後は頼みます。本当にここでお別れ……」
 ここでマナシの声は途切れた。
 シャカラは数分待ったが、再開される兆しはなかった。
“そこを謝られたら、悪を認識できずに、それに加担した僕はどうなる。マナシ龍王。優しくも厳しい龍王だ”
 シャカラは当分の間(かん)、自責の念に心を縛られるのであった。



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王とその継承神の総称)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王とその継承神の総称)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王とその継承神の総称)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 慧光(エコウ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第二童子)

(竜名)
 ヒドラ(十六竜の一種。複数の首を持つ竜。『多頭竜』とも言う)

(その他)
 龍王の対の呪い(上位の神によって、八大龍王につけられた対の呪い。トクシャカの対はシャカラで、相手に傷つければ、自分にも治癒不可能の傷ができ、相手を殺せば、自分も滅ぶという呪い)
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