妄想物語

〜　今度は二人だけ　〜

カラン　コロ・・・グワッシャーン

お約束どおり　君は鐘を　ある意味鳴らして
この喫茶店のドアを開けた

『あはは　またやっちゃった　こんにちは』
音桶さんは真っ赤な顔で挨拶をしながら
ごく自然に二人席の僕の向かいに座った

「マスターってね　僕が音桶さんが来るよって言うと
わざと　鐘の紐　緩めてんだよ」
なぐさめにもフォローにもならない返事をしても
音桶さんはもうメニューを見ている
紅茶しか飲まないのに

『お願いがあるってなんでしょう？　ひょっとして
新曲を来週演奏したいなんて・・ですか？』
うーん無理難題的に近い

「そんな無茶言わないよ　ソロお願いしたいだけだよ」
あっさり言ってみた

『なぁーんだ　そんなこと・・・えええぇぇ！？』
想定内の反応

「もちろん　僕がギター伴奏しながら一緒に歌うよ
そうそう　チェリッシュみたいにね」

『チェルシー？　私好きですそのキャンデイ』
ボケでなく本気で言ってくれちゃうとこが魅力

「まいっか　とにかくこの曲ね」
以前から音桶さんの声質が似ていると思っていた
ボーカルの女性がいる三人組のＣＤを渡した

『わかりました！』
二つ返事の彼女の性格が僕は好きだ