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2016年03月01日01:24

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読了5冊/梶よう子

「ヨイ豊」ですっかりハマってしまった作家。
浮世絵つながりで、まず読み上げたのが

「いろあわせ  摺師安次郎人情暦」(短編5編)
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両親を亡くした武家の子「安次郎」は、
浮世絵の工房「摺長」の「長五郎」の元で育ち、
今は指名を受けるような立派な摺り師になった。
そんな彼が関わった、5編のお江戸の町の物語。
摺りの技法が各編のタイトルとなって、
その技法にちなんだ物語であることが巧い!

ぴかぴか(新しい)かけあわせ
.2色以上の色を刷りかさねて、色表現する技法。

ぴかぴか(新しい)ぼかしずり
顔料に含ませる水分量の調整と、摺りの力かげんだけで効果を出す技法。

ぴかぴか(新しい)まききら
「雲母」をまいて豪華さを増す技法。

ぴかぴか(新しい)からずり
顔料を乗せずに白紙の部分に木版の凹凸だけを写す技法。
白い部分としか見えない部分にひと手間かけ、本当の布地のようなリアルさをが増す。

ぴかぴか(新しい)あてなぼかし
版木の版面を水で濡らして、その上から小さな刷毛に絵の具をつけてぼかす技法。
当てのないものをぼかしで表す。
青空に浮かぶ雲や雨雲などを表現するために使われたぼかし。

幕末のお江戸の町の空気が伝わり、また、
江戸の摺り師たちの工房の様子が詳細に描かれた、佳作たちである。




「一朝の夢」 チャペル2008年 第五回松本清張賞受賞作
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「中根興三郎」は同心ではあるが、
事件には関わらない両組御姓名掛りという人事管理を担当する武士。
家族の中で一人ひょろりと背が高いことから、
当時大流行していた、特殊変化を愛でる「朝顔栽培」に傾倒していった。
時は幕末!
しかし、政に関わりなく、朝顔に自身のほとんど全てを傾けている興三郎ゆえに、
その周囲には様々な人々が、様々な思惑を秘めて集まってくる。
そして起きた「桜田門外の変」!
ひょんなことで出逢い、心を通わせた「井伊直弼」の想いを果たすべく、
興三郎は希少な「大輪の黄色い朝顔」を追い求める。

作品中の朝顔品評会に、浮世絵の版元に連れられた安次郎が
顔を出しているのが、何とも心憎い。



「ことり屋おけい探鳥双紙」(短編7編)
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一緒になってすぐ、夫は、
夜、青く光る鷺「青鷺」を捕まえ、「おけい」に楽させてやろうと
鳥刺しの旅に出て、行方知れずになった。
それ以来おけいは、小さなことり屋を一人で守っている。

第一羽 かごのとり
第二羽 まよいどり
第三羽 魂迎えの鳥
第四羽 闇夜の白烏
第五羽 椋鳥の親子
第六羽 五位の光
第七羽 うそぶき

「話」をあえて「羽」としたサブタイトル。
それに因んだ、鳥が関わるお江戸の町の小さなミステリーを、
おけいが解いていきながら、
夫の失踪の謎が解かれていく。



「御破算で願いましては みとや・お瑛仕入帳」(短編5編)
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お瑛は、今の100円ショップのような、
商品全て三十八文という小商いをしていた。
店名は三十八=「みとや」
店番はお瑛。
品物は、兄があちこち歩いて、正価では売れない、ワケアリの品物を
仕入れてくる…  のだが…
妙な物やとても売れそうも無い物を仕入れてくることがしばしばである。
それでも2人は、いつか、橋の崩壊事故で死んだ両親がやっていた店を
再興しようとがんばっていた。
兄の仕入れてきた品々に因んだ、お江戸の町の小さなミステリーを、
お瑛が解決していく。

・月に叢雲花に風
・我が待つ君の
・めんないちどり
・天神様が寝てござる
・化粧映え



「連鶴」
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時代は幕末。
親藩ではあるものの小藩「桑名藩」は揺れていた。
速水丈太郎は江戸詰の藩士。
好むと好まざるとに関わらず、
藩内を二分する勤王派と佐幕派の抗争に巻き込まれていく。
実在する惣宰職(家老)「酒井孫八郎」の登場が、
物語を引き締め、よりリアルにしてくれる。

タイトル「連鶴」は、
桑名でよく折られる折り紙の作品で、
1枚の紙に特定の切り込みを入れ、複数の鶴を折り出すもの。
100羽近く折る人もいるそうである。
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                                「百鶴」

丈太郎が、同じ道場で剣の稽古をしていた坂本龍馬に何気なく渡した連鶴。
それが、龍馬暗殺の現場に、血にぬれて落ちていた。
危うい繋がりで何羽も連なる「連鶴」に、
龍馬は自らと仲間たちを重ね、大切に持っていたのか?
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桑名に住む、連鶴折り名人の丈太郎の祖母の姿が、凛として素敵である。



幕末という時代を背景に、
ことり飼育や朝顔栽培など、
当時の流行りものや、人々の暮らしを詳細に調べた上で、
市井の人々の息吹が感じられるような、
「人」を描いた作品たち。
梶さんの作品はまだまだあるので、しばし追いかけて、
お江戸の町の住人になっていようと思う。
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