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2016年02月06日06:34

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〔小説〕八大龍王伝説 【409 ウバツラ救出劇(前)】


 八大龍王伝説


【409 ウバツラ救出劇(前)】


〔本編〕
 話は変わって、第八龍王ウバツラを救出に、天山をワイアームの戦車で登っている第二龍王バツナンダと第六童子アノクタツの話である。
「この洞窟です! ここにウバツラ様が閉じ込められております!!」
 ワイアームの戦車の御者台にいるバツナンダに、戦車の天井にいるアノクタツが声を張り上げた。
 バツナンダが前方を見ると、確かに高さ十メートル、周囲が五十メートル程度の小山が前方に見えた。
 バツナンダは、その小山の前にワイアームの戦車を止め、御者台から降りた。戦車の天井にいた八大童子の一人のアノクタツも、上空のアナバタツタを意識しつつ、戦車の天井から地上に降りた。
 光獅子一〇五三五ノ日の午前十一時――龍王暦一〇五九年そして聖皇暦三年の四月日である。
「本当にここにウバツラが閉じ込められているのですか?」
 バツナンダは訝しげにアノクタツに尋ねた。
「はい!」
 アノクタツと別の声が小山の後ろから聞こえた。
 バツナンダが見ると、一人の少年が小山の後ろから現れた。
「お前は?」
「はい。バツナンダ様。八大童子の一人で慧光(えこう)童子と申します。私はここでウバツラ様の閉じ込められている小山を見張っていたのです」
 その少年は全身が蒼一色の少年であった。
「?……」
 ここでバツナンダは一つの疑問を感ぜずにはいられなかった。
“何故、ウバツラの閉じ込められている場所を知ったおり、さらにマナシがシャカラとの戦いでここにいられない状態で、ウバツラを救おうとしないのであろう?”
「バツナンダ様の疑問にお答えします」
 バツナンダの心情を察したアノクタツが口を開いた。
「バツナンダ様は、おそらくマナシ様がいない状態で、ウバツラ様の場所を分かっているなら、何故助けないのかとおっしゃりたいと思っておられると推察いたしますが……」
「その通りだ! それもこの小山の中に閉じ込められていると分かっているのであれば、この小山を破壊すればよいではないかと思っていたところだ」
「おっしゃる通りでございます。しかしこの小山はマナシ様の究極の牢です。マナシ様以外は内からも外からも破壊することは不可能なのです。ただ、バツナンダ様を除いては……」
 アノクタツの意味ありげな答えであった。
「私以外には破れない牢?! いったいどういう意味だ!」
「それは実践でお答えいたします」
 そういうとアノクタツは自身の紫の弓を構え、小山に向けて一射した。
「カ〜ン!」
 小山にあたった紫の矢はそのまま弾かれ、小山には傷一つなかった。
「……?!」
 バツナンダには驚愕の出来事であった。
 先ほど、あれだけアナバタツタの矢を迎撃してきたアノクタツの究極の紫の矢が、何の変哲もない小山に、何らダメージを蒙(こうむ)ることができないのである。
 続いて、エコウと名乗った蒼い少年が、剣を振り上げて小山に切りかかった。
「このエコウという童子の得物は剣か?」
 しかし、このエコウの剣も弾かれ、小山には何ら傷一つついていない。
 バツナンダの目から見ると、エコウの剣は神の使用する究極の武器の類(たぐい)に見え、実際にそうなのであろう。
「ご覧の通りです」
 蒼い少年であるエコウがバツナンダの方を振り向き話しかけた。
「あらゆる武器が通じない土塊(つちくれ)なのか?! これは……?」
「少々意味合いが違います」
 バツナンダの質問に今度は紫色のアノクタツが応じた。
「実は、もう数十日前になりますが、私――アノクタツとエコウは、このウバツラ様の監禁されている場所を発見し、先ほどのように破壊を試みました」
「そして今のように全くダメージが与えられなかったというわけか?」
「いえ! その時は小山の十分の一程度は破壊することができたのです」
「どういう意味だ! アノクタツ殿!」
「順を追ってご説明いたします。バツナンダ様! ……先ず、私――アノクタツが紫の矢を一矢放ったのです。それによりこの小山の十分の一が砕け散ったのです。しかし――」
「……」
「その直後から、小山は銀色に光りながら再生を始めたのです。ゆっくりではありましたが、確実に破壊された箇所を修復していったのです。つまり、破壊されても再生する小山なのです」
「……しかしだな。続けざまに矢を浴びせれば、破壊の方が上回り、いずれは小山を崩壊できたのでは……?」
「むろん、私もそう考え、紫の矢を射続けました。しかし二射目からの矢は全て弾き返され、全く小山にダメージを与えることができません。どうやら再生能力に加え、同一の攻撃は、二度目は対処できるように学習をする土塊のようです。恐るべきは、マナシ様の究極の牢獄ということです」
「紫の矢が無効だと分かったため、紫の矢の十射後は、私が剣で攻撃をしました」
 続いてエコウが語った。
「私の剣は小山の八分の一程度を抉(えぐ)り取りましたが、それでもウバツラ様を助けるまでには至りませんでした。結局、私の剣も二撃目以降は、まったく小山にダメージを与えられなくなっていたのです」
「……」
 さすがのバツナンダもその顛末には黙らざるを得なかった。
「しかしバツナンダ様であれば……」
 紫のアノクタツが面をバツナンダに向けた。
「この小山を破壊できると思います。なぜならバツナンダ様は……」
「無数の武器を有しているからだといいたいのか?」
「その通りでございます。バツナンダ様。バツナンダ様であれば、この小山を全て破壊するのに五分とかからないでしょう」
「そううまくいけばよいが……」
 バツナンダは一抹の不安を持っていた。
「私は無数の武器を投影できるが、それは全て私の能力によってだ。つまり、根本は一つのように思われるが……」
「とりあえず、悩むより行うが賢明でしょう。その時はその時で別の手を模索しましょう。今は、マナシ様は手が離せない状態。これは好機ですぞ! バツナンダ様!」
 アノクタツから言われるまでもなく、それは試してみるのになんら躊躇はいらなかった。
 バツナンダは大きく一つ頷くと、自身の腰の鞘に入っている鎧の破片を両手に一つずつ握った。 それはバツナンダの手の中で弓と矢に変化したのである。間髪いれずにその矢を射るバツナンダ。金色の矢は一本の金色の線を空間に描きながら、銀色の小山へと直撃した。
「ドガァァ〜ン!!」
 大きな衝撃と共にマナシによって造られた銀の小山が大爆発を起こし、大きくその土塊を抉(えぐ)られた。
「すごい! 一撃で山の五分の一を吹き飛ばした!!」
 エコウが興奮の面持ちで蒼い顔を少し赤らめて叫んだ。
「しかし……」
 そのままエコウがアノクタツに話しかけるように話し続ける。
「五分の一ではまだ小山の中心部までは届いていない。ほら……、小山がものすごい勢いで再生を始めた。さらに、バツナンダ様の今の攻撃は、既に小山は学習しているはずであるから、もう無効のはず」
「心配するな。エコウ童子。バツナンダ様はさっきの説明で、それはよくご存知である。バツナンダ様の真価はここから発揮される。我々には攻略できなかったこの小山の攻略を……」
 アノクタツ童子の言の葉であった。



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 慧光(エコウ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第二童子)
 阿耨達(アノクタツ)童子(ウバツラ龍王に仕える八大童子の一人。第六童子)

(地名)
 天山(天界唯一の山)

(竜名)
 ワイアーム(十六竜の一種。跳躍に優れている小型の竜。『跳竜』とも言う)

(その他)
 光獅子ノ日(天界の暦の一つ。天界の一日は地上界の一月に相当する)
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