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2016年01月30日12:58

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ウィンナ・ワルツがもたらしたもの

 前回の日記では、ドイツが、市民革命を経なかった結果、悪法も法である(だから守れ)とする法治主義が生まれることになったというようなことを書きましたので、もしかしたら、革命を起こすべきであるという危険思想に私がかぶれているのではないかと誤解を与えることになったかもしれません。
 でも、安心してください。穿いてますよ…じゃなくて(穿いていようが穿いていまいが)市民革命なんて真っ平です。
 古来、政治上の革命というものは、名誉革命のような一部の例外を除いて、血を見る野蛮な騒動と相場が決まってます。とくに、フランス革命では、悪名高きギロチンが普及して、膨大な数の人々の首がちょん切られました。
 こんな野蛮なことをしてでも、自由と民主主義を手に入れることと、まがい物の法治主義かもしれないけれど、一応、権力者から譲歩を引き出すことの二つに一つを選べるとしたら、よっぽど血に飢えているか、権力者に対する恨み辛みが溜まってでもいないかぎり、後者を選ぶ人の方が多いんじゃないかと思います。まともな人は、誰だって進んで人殺しにはなりたくないはずですから。
 おそらく、フランス革命当時の人々もそうだったのでしょう。ドイツ(というか、オーストリアも含めたドイツ語圏)の支配層(旧勢力)はフランスから革命を輸出されてはたまらんと神経を尖らせていましたが、庶民の方はそんなことには無関心で、革命まで起こして人殺しをしようとする人は少数に留まりました。
 その代わり、彼らは踊りに熱中し、発展させました。
 日本でも、幕末にええじゃないかという踊りが流行ったそうですが、変革期になると、なぜか人は矢鱈と踊りたくなるものなのかもしれません。
 フランス革命後のフランスでは、どういうわけか貴族由来のメヌエットが流行ったそうですが(以前の日記にも触れた無声映画の大作「ナポレオン」にも、踊り狂う人たちは出てきます)、ドイツ語圏では、庶民発祥のワルツが流行りました。
 私は、詳しいことはよく分からないのですが、ワルツで踊る場合には、タンゴほどではないにしても、身体の密着度が上がるそうで、したがって恋が生まれやすくなりました。このことは、結果的に、当時の女性たちの束縛からの解放・地位の向上につながりました。
 何しろ、当時のドイツ語圏における女性の地位は、それはそれは低いもので、親が勝手に決めた結婚相手の妻になるのはもちろんのこと、女の子が夜遅く外出したり、道で男性に声をかけただけで頭を坊主にされて道路掃除などというタリバンもびっくりするような刑罰までできていたくらいです。ワルツにはそんな束縛を打ち砕くだけの充分な力がありました。
 上述のとおり庶民発祥の踊りである(元は、チロル地方のレントラーという農民舞踊と云われています)にもかかわらず、豪華な舞踏館が建てられ、そのダンスホールでワルツは踊られました。そこには、上流階級への庶民の夢や憧れもあったものと思われますが、とにかく、名高いダンスホールの数々は、いずれも貴族の館顔負けの贅を尽くすことを競い合いました。日々の苦しい暮らしを忘れて夢の世界をひととき味わうというのは、この時代の人々にとって相当有難いことだったようです。
 また、そのような建物なので、本当の貴族等も気軽に出入りでき、いつしか、貴族の男性と町娘が一緒になって踊りに興じ、やがて恋に陥るということも珍しくなくなりました。
 実際、その当時のウィーンを訪れた外国人の中には驚いて、「ウィーンの女の子は、親が結婚相手を決める前に自分で恋人を作ってしまう」という記述まで書き残しています。女性がお目当ての男性を選べるという今では当り前のようなことが、その時代としてはすごく進んだことだったわけです。
 また、フランス革命後のウィーンを舞台にした映画「会議は踊る」(1931)のこのシーンなども、こうした時代背景を知った上で観ると、ロシア皇帝に見初められたリリアン・ハーヴェイ演じる町娘の大げさすぎるとも見える儚い喜びの意味がよく分かります。
https://www.youtube.com/watch?v=r8N7OXCDsh4

 自由と平等とか、民主主義とかの難しいことを言わずとも、あるいは、何万人もの人々をギロチンにかけなくても、ワルツは女性を解放し、その地位を向上させたばかりか、貴族と庶民との距離も縮め、人々に夢を持たせたわけです。こうしたワルツの効用は、フランス革命のように教科書に載ることはまずないですが、果たした意義はフランス革命より大きいかもしれません。

参考:https://www.youtube.com/watch?v=XeXO1aQAF8M
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