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2015年12月29日00:04

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脱力 

 大学生の頃、学食にはTVがあり、その正面のテーブルは、とくに大相撲の放送があるときなどは特等席でした。注目の一番はだいたい5時半から6時頃にあるので、その時間帯になると少し早めの夕食がてらに相撲好きの学生たちが席を占めたものでした。
 ところが、あるとき、相撲には全く興味のなかったA君が、その特等席の一画を占めることになりました。彼は、相撲好きのB君と一緒に夕食を摂ることになったので、偶々その席についたのでした。もとより、相撲には全く興味がなかったので、A君は一心不乱に食事をしてました。その日の注目の一番の時もそうでした。
 同じテーブルの人たちが顔を上げてTVの画面に見入っていたその最中、A君は下を向いてひたすら食事に集中していたのです。そのため、注目の一番の決着がついた瞬間、力が入っていた同じテーブルの人たちが思わず声をあげて初めて、流石のA君も何かが起こったらしいとようやく気づくことになりました。
 でも、気づきはしたものの、A君にはまだ何が起こったのか正確なことが分からず、ただどうやら放送していた大相撲に関係ありそうだということしか分かりません。そのため、A君は横にいるB君に、実に間抜けな質問をすることになってしまいました。
 「今のどっちが勝ったん?」
 これを聞いたB君は目を丸くして驚き、「お前、相撲のルールも知らんのか?」と聞き返し、「こう丸い土俵があって、ここから出たら負け…」などと子供に教えるように真面目にルールの説明を始めました(A君は「それくらい知っとるわ!」と言い返してましたが)。
 偶々、二人の前の席にいた私は可笑しくてたまりませんでした。

 以前、一部のマイミクさんにはお話ししたこともあるこの話をなぜ改めてここに書いたかといいますと、今年は私自身もA君を笑えないハメに陥ってしまったからでした。
 きっかけは仕事で、他愛のないミスを指摘されたことでした。もちろん、仕事のパフォーマンスは良くしておきたかったので改善に務めました。でも、A君のように集中しすぎてしまったんですね。
 どういうことが起こったかというと、例えて言えば、カメラの焦点を特定の所に合わせすぎると他の箇所がぼやけることがありますが、あれと同じで、今度は焦点がぼけた箇所からミスを指摘されるようになりました。
 あってはならないことですから、今回も前回以上に集中して改善に務めました。するとまたぼやけたところからミスが出てきて…、この繰返しで、とうとうぼやけたところがなくなったんじゃないかと思えるほど、どの箇所も無類の集中でピリピリするところまで行きました。
 これは一見良さそうですが、そんなことはなく、(今だから言えることですが)言ってみれば、野球のピッチャーが、無死満塁で強打者を迎えるという最大のピンチを勝手に自ら想定して、常に一人でピリピリしているようなものです。打者一人や二人なら何とかなっても、そんな最高の緊張状態はとても長続きするものではありません。
 むしろ、神経がすり減って、知らず知らずのうちに麻痺・鈍麻してしまうもので、私の場合も、ミスを目にしていながらそれをミスとして認識できないという深刻な事態が生じてきました。その結果、ミスの質も落ち、初心者でもこんなミスはしないだろうというようなミスを繰り返すようになり、心配した人が、初心者にするような説明をしてくれるまでになりました(間抜けな質問をしたA君と同じですね)。
 なんぼなんでもこれはおかしいと自分でも思い、あれだけ気を付けているのに、なぜミスするのだろうと悲しくなりました。
 でも、そこで幸いにも光明が射したというのか、もしかしたら「あれだけ気を付けているのに」ではなく、「あれだけ気をつけているから」こそ、つまり気を付けすぎたからミスが生じたのではなかろうかと、はたとひらめき、思い直すことができたのです。
 そこで、あれもこれもではなく、注意する点をしぼり、他は思い切って力を抜いてみると、まるでウソのようにミスがなくなりました。こういうこともあるんですね。

 集中することはある程度必要なのですが、力んで集中しすぎると碌なことはないということです。
 なので、来年は、しっかり脱力していこうと思います。
 皆さんも(脱力して)良いお年をお迎えください(*^_^*)
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