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2015年12月20日05:05

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〔小説〕八大龍王伝説 【401 弱小フルーメスの意地(十八) 〜ノイヤールへの論功行賞〜】


 八大龍王伝説


【401 弱小フルーメスの意地(十八) 〜ノイヤールへの論功行賞〜】


〔本編〕
「ですから、それは無血陥落であったのであって、ノイヤール殿の外交手腕によるところと……」
 大臣の一人がおずおずと発言した。
 皆、二年前の龍王暦一〇五六年一一月の大臣のンド、クレフティヒ、及びグラフ大将軍のザッドによる粛清が、心に引っかかっており、ザッドに逆らえない風潮が、聖皇国内で蔓延(まんえん)していたのである。
「その外交手腕が鮮やか過ぎるのだ。何故、フルーメスは蒼鯨軍には徹底抗戦を挑んでいる傍ら、黄狐軍には、支城というべき城塞都市の明け渡しのみならず、王城果ては重鎮ともいえるシュトラテギーの首まで譲歩したのだ。これには何らかの裏があるのではないでしょうか?」
 これに対して明確に答えられる重臣は一人もいなかった。
「蒼鯨のスツールは、フルーメスの民を殺しすぎた。それに対し、黄狐のノイヤールはその民を殺すどころか、食料まで分け与えていると聞く。その違いだと朕は思うが……」
 思わぬ反撃がジュルリフォン聖皇から発信された。
「聖皇陛下!」
 重臣達はむろんその聖皇の反撃に驚いたが、ザッドはもっと驚いた。
「陛下(ジュルリフォン聖皇)! 何をおっしゃいます!!」
 ザッドが少し上ずった声で聖皇に尋ねていた。若干、問い詰める語調が含まれていたのも否めない感があった。
「無礼ではないか。宰相! 朕に対してその問いようは?!」
「ハハッ! 申し訳ございません」
 ザッドは、床に頭をこすり付け平謝りした。
「外交手腕を駆使して、戦わずに敵を屈服させるとは、戦って勝つより上策ではないか。フルーメスの民を根絶やしにしようとして遠征したわけではない。むしろ新たな領土の民を慰撫するのは、為政者として当然の責務である。それを黄狐将軍は、朕になりかわり実行したのだ。誰がなんと言おうが、黄狐将軍ノイヤールが第一勲に値する。五千の兵の加増が適当であろう」
「陛下のおっしゃりよう。ごもっともでございます」
 ザッドに押さえつけられていた大臣の一人がジュルリフォン聖皇に追従の言葉を発した。数人の大臣がその言葉に頷いた。
「陛下がそうおっしゃられるのであれば……」
 さすがのザッドもこれにはしぶしぶ従った。
「しかしながら……」
 ザッドとしては一言言わなければこの場を抑えられなかった。
「フルーメス島の後処理は、小生の親衛隊にお任せいただけないでしょうか? ノイヤール将軍には(ヴェルト)大陸に全軍引き上げていただき、後処理は、小生の選んだ親衛隊で行います。フルーメスの経営と、行方不明のヘルマン王の捜索は小生にお任せいただきます」
「それは好きにするが良い」
 ジュルリフォン聖皇のこの言の葉で万事が決まった。

 龍王暦一〇五八年、聖皇暦二年一一月三日。ジュルリフォン聖皇は、元フルーメス王国の王城コリダロス・ソームロの地に初めて足跡をしるした。
 数千の兵に護られて、宰相ザッド以下、数人の大臣達との視察行幸であった。
 当然、迎えに出たのは、現在フルーメス島のほぼ全域を取り仕切っている黄狐将軍ことノイヤール将軍であった。
「ノイヤール! 今回のフルーメス王国攻略にあたっては、ご苦労であった。そちの功績には必ず多大な報奨で報いるであろう。朕はそちのような家臣を持てて、天下一の幸せ者だ」
 普段は冷静なジュルリフォン聖皇が、大喜びでノイヤールに直接話しかけ、その手を握った。
「もったいのうございます。聖皇陛下。此度の功績も、陛下の御徳に起因するものでございます」
 普段は敬語もほとんど使わないノイヤールも、こういう時にはひとかどの美辞麗句を連ねられるのであろう。
「とにかくは、玉座の間へお越しください。今宵は宴の席も設けてあります。それまでは別室をご用意いたしましたので、そちらでごゆるりとおくつろぎください」
 ノイヤールが続けて発言した。
 そして、次の日。同月の四日。昨日の酒宴の盛り上がりも覚めやらぬ午前十時。コリダロス・ソームロの玉座の間において、簡素ながらノイヤールの論功行賞の儀が執り行われた。
 ここでノイヤールは、五千の兵数加増により一万五千の兵を率いる身分になり、その他、ノットン地方というソルトルムンク聖皇国の南部にあたる一地方を賜ったのである。
 一度の戦いで一地方を賜るとは、よほど大きな、ジュルリフォン聖皇の歓心を得たかが分かる事柄であろう。
 対して、蒼鯨将軍ことスツールには一切の加増はなかった。むろんこの場(コリダロス・ソームロ)にはいなかったが、ジュルリフォン聖皇の言の葉を借りれば、
「必要以上に民を殺戮し、戦いを長期化させる恐れを招いた」
 と言うことで、賞罰どちらもなしという措置で落ち着いたらしい。
「このノイヤール。これ以上の喜びはありません。終生、聖皇陛下に忠義をつくす所存であります」
「ノイヤール殿!」
 ノイヤールの最後の言葉とも言うべき聖皇への感謝の言葉に水を差した呼びかけがあった。
 宰相のザッドであった。
「ザッド様。ザッド様にも感謝のお言葉を述べます。共にジュルリフォン聖皇陛下を盛り立ててまいりましょう」
「ノイヤール殿のそのお考えは辛勝である。それでは、小生とお約束をしていただきたい。今年中には、黄狐軍は全軍、このフルーメスの地を引き上げるという約束をである!」
「むろんでございます。宰相閣下。黄狐軍は全ての役割を終えました。後は親衛隊の皆様にお任せして、黄狐軍は本来の、バルナート帝國の西部とジュリス王国を監視する役割に戻ります」
「うむ」
 ザッドもノイヤールのこの言葉に大満足のようであった。
 この三日後、ジュルリフォン聖皇とザッドがフルーメスの地を後にして、ソルトルムンク聖皇国の王城マルシャール・グールに戻った。
 それから、一月後、黄狐将軍ノイヤールは、明日をもしれぬ大病にかかってしまったとの報告がソルトルムンク聖皇国の首都であり王城であるマルシャース・グールにもたらされたのである。




〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 グラフ(元ソルトルムンク聖王国の近衛大将軍。今は謀反人として投獄されている)
 クレフティヒ(元ソルトルムンク聖王国の大臣。今は謀反人として投獄されている)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相)
 スツール(ソルトルムンク聖皇国の蒼鯨将軍)
 シュトラテギー(フルーメス王国三傑の一人。戦略の傑人。三傑の筆頭)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇)
 ノイヤール(ソルトルムンク聖皇国の黄狐将軍)
 ヘルマン王(フルーメス王国の王。ヅタトロ元王の子)
 ンド(元ソルトルムンク聖王国の老大臣。今は謀反人として投獄されている)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 コリダロス・ソームロ(フルーメス王国の首都であり王城)
 フルーメス島(ヴェルト大陸の南に位置する小さな島。フルーメス王国の全土)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖皇国の首都であり王城)

(その他)
 黄狐軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。ノイヤールが将軍)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)
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