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2015年12月12日18:17

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〔小説〕八大龍王伝説 【400 弱小フルーメスの意地(十七) 〜三老将〜】


 八大龍王伝説


【400 弱小フルーメスの意地(十七) 〜三老将〜】


〔本編〕
 このサバイワシの再奪取の件について、史書などには全く記載されていないが、フルーメス軍或はフルーメスの民のゲリラ達の中に黄狐軍の兵が混じっており、また黄狐軍から支給された物資があったことは紛れもないことであろう。むろん何の根拠もない話ではあるが……。
 そして、再奪取されたサバイワシ城を、三日後の七月三一日に黄狐軍の手によって再々陥落したのである。
 むろん無血陥落である。
 そして、その二日後の龍王暦一〇五八年八月二日。黄狐将軍ノイヤールは黄狐軍三千を率いて、フルーメス王国の首都であり王城であるコリダロス・ソームロに無血入城を果たしたのである。
 コリダロス・ソームロに入城を果たした黄狐将軍ノイヤールは、まっすぐ、城の玉座の間に向かった。
 そこにいるはずのヘルマン王は既におらず、フルーメス三傑の一人『戦略』のシュトラテギーのみが玉座の左手に位置する場に座していた。
 玉座の間に辿り着いたノイヤールは、シュトラテギーを一瞥すると、自身は玉座の右手に位置する場に座した。
 玉座をはさんで、シュトラテギーとノイヤールは向かい合った形で座したことになる。
「約束を守られましたな。ノイヤール殿」
 シュトラテギーはそう言うとニコリと笑った。
「ノイヤールで結構です」
「そうですか。それではわしのこともシュトラテギーで結構ですぞ」
「では、シュトラテギー、敬語もやめますかな?」
「ははっ! そうじゃな。ノイヤール」
 シュトラテギーはカッカッと笑うと言葉を続けた。
「最後の最後に善き知己を得た。むろんお主のことじゃ。わしはそれが今、一番嬉しい!」
「ヘルマン王のことは安心しろ。ネムを通じて今頃は元カルガス國の東方の海の上だろう。俺も尊敬できる爺(じじい)に出会えて嬉しい。俺は個人的に長年、己を信じて真っ直ぐ生きている奴が好きだ。
 聖王国――聖皇国でない聖王国のムーズ。そして噂でしか知らないがカルガス國のヲーサイトル。そしてシュトラテギー……。あんただ。……みんな、じじいだな。そのうち二人は既に故人か!」
「おお! 聖王国の仁義のムーズとカルガス國の武神のヲーサイトルと、このわしを並べてくれるか! 小僧! 心憎いことをする!!」
 シュトラテギーは心の底から嬉しそうに笑った。
「そういえば、この部屋に入った時から気付いていたが、今日はいつもより血色が良くないか?」
 ノイヤールのこの問いにシュトラテギーは嬉しそうに答えた。
「分かったか。さすがはノイヤール。実は身体を清めてきた。わしの首が汚れていたり、傷ついていたりして判別に少しでも疑いがあれば、首を差し出す効果が薄まるからな」
「そのきめ細やかさ、そして剛毅さに、俺は敬服するぞ!」
 ノイヤールが涙を流しながら笑った。
「それではさらばだ! 最高の友(ノイヤール)よ!!」
 シュトラテギーは、腰の短剣を引き抜くと、自身の首の頸動脈に短剣を添え、一気に下に引いた。
 血しぶきが舞い上がり、当たりを赤く染めたが、ノイヤールは躊躇せずに、シュトラテギーに近づき、自身の剣で、シュトラテギーの首を一刀の元に刈った。
 全てが終わった瞬間であった。

 ソルトルムンク聖皇国黄狐将軍ノイヤールが、フルーメス王国の首都であり王城であるコリダロス・ソームロに入城し、フルーメス王国の三傑の筆頭――『戦略』のシュトラテギーの首を手中に入れたことにより、昨年(龍王暦一〇五七年)の五月から始まったフルーメス攻略戦は終息し、フルーメス王国は龍王暦一〇五八年――聖皇暦二年八月二日に滅亡した。
 八大龍王と呼ばれる神々の龍王暦二〇〇年代の国家を滅亡させることを禁じる約束事は、八大龍王間の間に何が起こったかは分かりかねるが、とにかく、機能しなくなり、既に八國のうちカルガス國、クルックス共和国、フルーメス王国の三ヵ国が滅亡したのである。
 実質的にはゴンク帝國も滅亡と背中合わせの状態であり、それら四ヶ国の領土の大半は、ヴェルト大陸の超大国であるソルトルムンク聖皇国がほぼ手中に治めたのである。
 さて、それは兎も角、フルーメス王国のヘルマン王は、コリダロス・ソームロから姿を消した。
 いずれにせよ、ザッドの率いる聖皇国親衛隊の手による調査が行われるため、それを待ってこそフルーメス王国の正式な滅亡になるのだが、とにかく、王城が陥落し、フルーメス王国の領土であるフルーメス島の大半を占領し、フルーメスの三傑の筆頭である『戦略』のシュトラテギーの首を手に入れたのだから、実質的なフルーメス王国の滅亡で間違いなかった。
 そして、シュトラテギーの首は、紛れも無く本人のモノであった。
 傷も汚れ一つも無く、疑ったり、調査したりする必要性が全く見当たらないほど、シュトラテギー本人のモノであった。
 もしも、これが黒焦げの遺体とかで誤魔化したとしたら、聖皇国のザッドは、クルックス共和国の滅亡の件と関連付け、徹底した再調査をしたかもしれない。
 そういう意味では黄狐将軍ノイヤールの作戦勝ちであろう。
 当然、フルーメス王国攻略の第一勲功は、黄狐将軍ノイヤールである。
 衆目一致の話であったが、これは聖皇国の宰相ザッドとしては甚だ面白くない展開であったろう。
 フルーメス王国滅亡から一月(ひとつき)目の龍王暦一〇五八年、聖皇暦二年九月四日の重臣達の会議の席で、ザッドはその関連の発言をした。
「たしかに、黄狐将軍(ノイヤール)の勲功は衆目一致の第一勲功であろう。フルーメスの八の城塞都市のうち、七を陥落させ、実質的には蒼鯨軍が再奪取された城も再々奪取したから、八全て。さらに王城コリダロス・ソームロを落とし、フルーメスの三傑の一人――『戦略』のシュトラテギーの首を手中に治めた。しかしである……」
 ザッドは重臣達の顔一つ一つを睨みすえながら、見回した。
「あまりにも手際が良すぎないか? 諸君! 蒼鯨将軍(スツール)があんなに手こずりやっと一つだけ落とした城塞都市をあんなにあっさりと全ておとした。それも短期間の間に……」



〔参考 用語集〕
(神名・人名等)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相)
 スツール(ソルトルムンク聖皇国の蒼鯨将軍)
 シュトラテギー(フルーメス王国三傑の一人。戦略の傑人。三傑の筆頭)
 ネム(シェーレの片腕的存在。シェーレウィヒトラインの元三精女の一人)
 ノイヤール(ソルトルムンク聖皇国の黄狐将軍)
 ヘルマン王(フルーメス王国の王。ヅタトロ元王の子)
 ムーズ(ソルトルムンク聖王国の元人和将軍。故人)
 ヲーサイトル(カルガス國の老将。『生きる武神』の異名をもつ。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)

(地名)
 コリダロス・ソームロ(フルーメス王国の首都であり王城)
 サバイワシ城(フルーメス王国の八城塞都市の一つ)
 フルーメス島(ヴェルト大陸の南に位置する小さな島。フルーメス王国の全土)

(その他)
 黄狐軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。ノイヤールが将軍)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)
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